震災後、初の映画館へ ~ホームカミング~2011年05月17日 23時32分35秒

先日、仙台駅東口のミニシアター館「チネ・ラヴィータ」で映画を観ました。
震災後に劇場で映画を観たのはこれが初めてです。

震災の直後には当然ながら、あれほど好きだった映画を観ることが躊躇われ、
映画館に足を向けることもまた迷いがありましたが、
こうして来ると複雑な感情がこみ上げてきます。

それは、嬉しさだけではなく、申し訳なさも感じているということで、
僕が見てきた光景はまだ僅かですが、その映像がときには蘇る現在、
自分の心の中ですが、なかなか言葉では言い表せません。

迷いがありましたが、震災前から母が見たいと言っていた映画でしたので、
それに乗っかるようなかたちで足を運べたとも言えるかもしれません。

観賞した映画は「ホームカミング」。
定年退職したサラリーマンがひょんなことから町内会の仕事に関わり、
土地開発で作られただけで故郷の香りがないと息子から馬鹿にされ、
高齢者人口が多くゆるやかに沈んでいくかのような町を、
町の全員が一体になって作り上げるお祭りを改革する物語。

主演は五時から男、テキトー男などの異名を持つ高田順次。
「金曜日の妻たちへ」の飯島敏宏監督がメガホンを撮ります。
僕としては、黒部進、森次晃嗣、桜井浩子さんが出ていることに
目を惹かれ(ウルトラシリーズですね。)、
さらに佐原健二さんも出てたり、庵野秀明先生や河崎実監督まで出して、
もうどーすんのこの特撮相関図!と感じた作品ですが。

しかし、実際に観賞すると作品そのものがこの上なく楽しい。
かなり多くのことを詰込みながらも過不足ない仕上がり。

「ホームカミング」はちょとした良いことも懸念も考えさせられます。
町内会はもう決まった面子ばかりでマンネリとして活気がなく、
手間のかかることはどんどん簡素にしていこうという始まりかた。
どこでもそう、うちの町内でも似たようなものです。

ところが一方で趣味のサークルはそこそこ盛況でそのネットワークは強い。
映画ではこれを活用しているわけですが、それが人間の繋がりというものが、
それだけ同好の士というか内輪に向っているといいますか。
この現代では、同じ町で生きていることだけでは人間は繋がれない、
ということの現れのようにも感じ、頼れるようで一抹の不安も感じるのでした。

しかし、そんな影の部分はあくまで影に潜ませる部分に留め、
やる気になったオジサン達が高血圧をものともせずに明るく駆け抜けます。

普通、お祭りができるまでの話を作る、皆でひとつの目標に向う物語と言えば、
まず、そこに至るまでのプロセスを大事に丁寧に描きサッと幕を引くか、
お祭りが始まってからが物語の大きな見せ場で大波乱・大団円を描くか。

そして何れにしても、登場人物が多い故に、人物の描き込みや、
本筋と関係の無い様に思われるピースを散りばめどう纏め上げるか、
一見、容易に人を泣かせられるように見えて、それは甘い企みで、
実はこの上なく高度な技術とセンスを要されるのではないでしょうか。

型通りの登場人物達では深みなく退屈、しかしアクが強すぎればシラける。
短いエピソードが人と物語に厚みを感じさせクライマックスへ繋げられれば良し、
しかし、失敗すればブツ切りでチグハグの薄味のごった煮になってしまう。

「ホームカミング」はそれは丁寧に織り込まれていると思います。
町内を一気に団結へと纏め上げていくために少年の行方不明事件を描き、
難題を乗り越えてお祭りを開催と思ったところへ大風大雨の天災、
しかしそれを景気よく気風よく救うヤクザの林隆三親分。
(トレーラーを豪快に駆けつける様は「よ!日本一!」と声をかけたくなる。)

祭りがいよいよ始まり、町内会全員の社交ダンスで幕でもいいかと思いきや、
そこから先の祭りの出し物を、フラダンス、オヤジバンド等々、
余すところなく端折ることなく退屈させないように笑いを引き出し、
何よりエキストラの皆さんの表情を丁寧に映し出して一体に作り上げる。

そして、全体を通してオヤジ達を翻弄し物語を牽引してきた若き婦人警官の麗奈、
ときに爽やかなお色気を振りまき(やはりオヤジ達を動かす活力ですね。)
華麗なフラダンスの披露からラストシーンまで一本の糸を通します。
それは、映画が最後まできたとき、お祭りという想い出を映画という箱にしまい、
その箱にそっと一本のリボンをかけた様に、ささやかながらも味わい深い。

ささやか、というのは映画の鑑賞後の気持ちが大盛り上がりではないということ。
しかし決して悪い意味ではなく、これが町内会のお祭りの後に限りなく近いのです。
感じなかったでしょうか。思い出してください、町のお祭りが終わりかける時間を。
何か寂しく切なくもあり、楽しくも嬉しくもある、あの時間のあの感情。
あれがあるから、お祭りは心に残るとも言えるのかもしれません。


この映画のキーワードのひとつは、やる気。
月並みですが、最後にものを言うのは、やる気。
大きいことができなくても良いと思います。一人ではないのならば。
特撮繋がりで述べるなら、「仮面ライダーOOO」の火野も最近こう言います。
手の届く範囲で精一杯やれば良いんじゃないか。
手の届かないところはちょっと先の誰かが繋いでくれるはず。

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