暗黒の真相 「ライト・テイクス・アス ~ブラックメタル暗黒史~」2011年01月08日 23時47分53秒

「ライト・テイクス・アス ~ブラックメタル暗黒史~」
についてのこと。


■「松嶋×町山 未公開映画祭」作品紹介
 http://www.mikoukai.net/037_until_the_light_takes_us.html
原題:Until The Light Takes US
2008年 アメリカ (93分)
監督:Aaron Aites


本作はノルウェーのブラックメタルグループの
ダークスローンのリーダー/ドラム担当のギルヴと、
バーズムのリーダー、ヴァーグの二人のインタビューを軸に構成。
メイヘムのユーロニモス、デッドらとインナーサークルの活動から
引き起こされた放火や殺人などの事件を追っていく。

アメリカ映画という位置付けですが舞台はノルウェー。
そこはブラックメタルの基礎を作ったとされる地。
穏やかな社会というイメージの底でおどろおどろしいものもまた生まれる。
ブラックメタルに限らず、スカンジナヴィア半島北欧諸国では
「ミレニアム/ドラゴンタトゥーの女」や、ラース・フォントリアー、
あるいはアキ・カウリスマキといった、危険や破壊や逃避あるいは無秩序、
反社会的といった感性とイメージのものも生まれている。

実際、ヴァーグの育った家庭環境も不自由の無いものだったらしい。
しかし青年期には反抗心に目覚め、マクドナルドを襲撃する様になった。
彼の言によると、古いものが壊されることに抵抗したらしい。
古いものというのは北欧の古来のものということだ。

この映画ではブラックメタルの反キリスト教、反商業の側面が語られていく。
1980年代前半に活動を始めたメイヘムを中心としたメンバーや仲間達は
レコード店の地下にたまり場を設け、インナーサークルが生まれる。
最初はダベるだけだったものが徐々に思想を持ち始め、
そしてキリスト教が北欧古来の文化を破壊していったとして、
キリスト教の国のアメリカ資本(マックなど)に対して反抗していく。

また彼らは殺人や放火など危険で過激で破壊的なことをやるほど、
メンバー内での地位が高くなるという考えになっていく。
その結果、キリスト教の教会を何件も燃やしていくことになる。

ノルウェーの宗教はキリスト教系のノルウェー国教会が
国民の約90%に信仰されているという。
当然ながら、国家からは反体制、テロリストと同様に見做されることになる。

反キリスト教というとサタニズム、悪魔崇拝という方向もあるけれども
ヴァーグの言に寄ればオーディン達北欧の神々への信仰を重んじることが、
キリスト教を破壊して古来の世界に戻す目的ということになるようだ。
キリスト教に限ったことではないが、宗教の布教段階においては、
大体が、元々そこで信仰されていた神々がいるわけで、
新しい神を押し付けられたというかたちにもなってくる。

当時の明確な様子はよく分からないが、それが執拗に行われていたならば
従わされた人々にとっては新しい宗教が破壊者ということになるだろう。
それに反抗するということは正当なこととも考えられる。

しかし、ヴァーグ達による教会への放火事件によって以降、
ブラックメタルは悪魔を崇拝するサタニストというレッテルを貼られる。
それによって模倣犯が生まれ模倣犯がオモシロ半分に悪魔の印を使ったりし、
ファンとアマチュアと悪魔崇拝と、ブラックメタルの誤ったイメージが
ともに混じりあって歪んでいったのがヴァーグ達の語る真相ということになる。

サタニストではないにしても、メイヘムのテッドの自傷行為と妄想、
自分の頭をショットガンで打ち抜いて自殺したこと、
脳漿が散った死体をユーロニモスが写真にとってアルバムにしたということ、
それらの行動は全て異常性を孕んでいると普通に考えれば思う。
思想や主義とは別の問題で元から危険要素を持っていた。
既にこの世にはいないが、危険なのはユーロニモスとテッドで、
ヴァーグとギルヴの話を聞くと他は思ったほど危険ではないと思ってしまう。

だが、ヴァーグは自分を殺そうとしていたというユーロニモスを殺し、
数々の教会を放火した罪で、ノルウェーで最も重いとされる刑務所で
現在も服役中となっている。その語り口は穏やかだ。
ギルヴも記者から"最近の印象は随分丸くなった"と言われる。
実際、彼は穏やかで澄んだ微笑を浮かべ、少年っぽさすら感じさせる。
彼ら二人の言葉は詩的な美しい感性と聡明な知性に満ちている。
現在の姿からはとても過激な活動をする様には見えない。

過激な音楽グループが徐々に穏やかなテイストへと移行することがある。
筋肉少女帯の大槻ケンヂの言では、活動全盛期の当時はとにかく
他よりも過激なことをやった者が上になれた、という。
そして現在、当時を振り返ればあの頃は自分ではなかったと回想する。
大小に関わらず、過激を直走り続ける音楽グループは稀だ。

全ては若気の至りなのかと片付けてしまうには、
あまりに大きな影響を及ぼしたノルウェーのブラックメタル。
しかし、この映画を観ていると何だか彼らも同じ人間の様に思えてしまう。
もちろん犯罪者であるわけなので、変な話なのだが。
ただ、おどろおどろしいブラックメタルに対する見方は変わると思う。

人間は過激に徹しきることはできないのか。
人間の根底は善なのかそれとも悪なのか。

コメント

_ (未記入) ― 2011年08月31日 04時32分55秒

おはようございます~
ユーロニモスに関してですが、彼は日本のバンドSighを実力を認めたうえで自分のレーベルからデビューさせたり、初心者のためのブラックメタルというCDを廉価で販売してたりしたそうです。

あと、テッドじゃなくてデッドですね。彼は重度の鬱病だったそうです。自傷行為と自殺なら普通の鬱病患者でもやってることですね。

自分としてはむしろヴァーグの方が鬼畜だと思ってます。女みたいにキャーキャー言いながら逃げたユーロニモスを執拗に追っかけまわして少なくとも十数か所刺して殺してますから。この人の話が出るたびにブラックメタルのイメージがとんでもないことになってます^^

まあ、本物の悪魔崇拝者は現在もいますが。
自分は音楽としてブラックメタルを楽しんでます。

_ 河永 ― 2011年09月03日 09時17分08秒

いらっしゃいませ。
お返事遅くなりまして申し訳ありません。

この映画のラストは「サーターン!」と叫んで終わり、
皮肉なのか煙に巻いているのかと感じますが、
ひとつのイメージに引っ張られず楽しみたいですね。
初心者のためとは、マメでちょっとユーモアがある気がします^^。

僕は音楽には詳しくないですが、
その人の生き様や創作の様子などなどを
ドキュメンタリーで観るのは好きなので、少々いびつです ^^;。

記事を今読み返すと筋肉少女帯を引合いに出して
良いものかとちょっと苦笑いでした。

デッド>修正いたしました。ありがとうございます。

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