光と空気のなかで ~「NINIFUNI」2012年03月30日 23時13分16秒


フォーラム仙台にて公開中の、
真利子哲也監督による中篇作品「NINIFUNI」についてのこと。

一人、車を駆り国道を直走り、やがて浜辺に辿り着いた青年。
その同じ浜辺にアイドルグループ"ももいろクローバー"の
PV撮影隊がやってきて、天真爛漫な笑顔をカメラに向ける。
撮影は快調に進み、青年の車が発見され・・・。

「NINIFUNI」=「而ニ不ニ」、仏教用語で「二つであって二つでない」。
深い含みを持っていると考えたくなる題名に反し、
上記の様に映画のプロットはシンプルに聞こえます。

しかし、実際の作品からはある人たちは激しい衝撃を受け、
またある人たちは自分の奥底に何かを静かに積もらせていった。

経産省・映画産業振興機構が主催となった「コ・フェスタPAO」のなかで、
若手映像作家3人がそれぞれ中篇作品を制作する「moviePAO」。
元々、そのなかの一篇として制作された本作は話題を呼び映画祭等で公開され、
"ももいろクローバー"が本人役で出演していることも重なって、注目を集める。
そして、遂に本作単独での一般劇場公開の運びとなりました。

なお、この若手映像作家3人の、他の2人とその作品は、
久万真路監督の「ファの豆腐」と、黒崎博監督の「冬の日」です。
「NINIFUNI」が群を抜いて素晴らしかったかどうかは、
他の2作品を鑑賞していないので、わからないですが、
「NINIFUNI」が印象に残る作品だということは確実に言えるでしょう。

何が残ると言えば、鑑賞した方々が皆驚嘆する、
主人公の青年役の宮崎将の台詞無き怪演の佇まいや、
ももいろクローバーの瑞々しくまた溌剌とした魅力、
それは疑いようが無く、山中崇に注目した見方も全く同感であります。
しかし、僕はもう一人の主役、この作品に映し出された「風景」が強く焼きついています。

前作「イエローキッド」は狭い空間での描写の多さに加えて、
登場人物達にひたすら肉迫していくドラマが印象に残っており、
それゆえの閉塞感、窒息感、焦燥感がこちらを包み込んだ。
それもまた作り上げた空間と空気感があればこそなのですが、
心の内奥に見る側の意識は向い、周囲の風景には向いませんでした。

「NINIFUNI」は前作の息の詰まる空間の印象から、
全く対照的で広大な世界へ、風と光の中へ開放してくれたかのよう。
画面奥に向う寂れた国道、遥か向こうに工場なのか霞んで見える荒地、
青天というに相応しいが寒々とした広大な空、etc・・・、

風景、空気、太陽の光、風、波・・・それなくしては、
宮崎将と、ももいろクローバーたちの、
風が吹き抜ける穴も、水と太陽に負けぬ眩しさもここまでなかったでしょう。
撮影場所と時間が違ったなら、今回と同じように演じたとしても、
当然ながら全く違った作品になったはずです。

例えば、「砂の器」で悲劇の親子の人生を描き出すシーンが、
日本の美しき自然と陽の光りとが絶対不可欠なものだった様に、
本作は、その風景と人物と漂う空気が一体となって作られたものだと思います。
波からは「大人は判ってくれない」ではなく、「晩春」を思い出した。

風も光も空気も、人間の都合などお構いなしに瞬間瞬間で変わり行く。
その瞬間を演技とともに掴みとれるかは、天気待ちや人工の雨や風、
ライティングをしても、最後は時の運が大きく作用すると思う。
「NINIFUNI」にはそんな幸福に巡り合ったような風景がいくつも登場する。
というよりもほぼ全編がそうであると思います。

キャンパスに描いた絵に空気感を表現するとき、人物を中心からずらし、
小さめに描き、風景の面積を広くとる方法がある。
技法ではあるが、人は空間の中で生きているという理でもあると思う。
だから映画の登場人物達も、美しい風景のなかでどこかざわつき、
輝きながらもときに寂しく、ゆえにある者は生き、ある者は退場する。

僕らはその風景から主人公の見ているだろう世界も感じ、また、
彼らの行く手に広がるほんの少し先あるいは遥か未来とも感じとる。
映画は一瞬を映像に焼き付ていくにもかかわらず、
それは、よせる波とさらわれる砂の様に少しずつ変わりゆく。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://crystallog.asablo.jp/blog/2012/03/30/6395822/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

Loading