沈む太陽を引き上げるのか2010年12月04日 17時30分08秒

キネマ旬報連載の鬼塚大輔先生のコラムによると、
毎回毎回興味津々になる本をご紹介くださいますが、
(惜しむらくはほとんどが原書、つまり日本語ではない。)
マイケル・アダムスなる映画雑誌編集と映画批評を生業としている方が、

「Showgirls, Teen Wolves and Astro Zombies: AFilm Critic's Year-Long
Quest to Find The Worst Movie Ever Made」


なる本を出版したそうで、その書名の訳は

「ショーガール、ティーン、オオカミ、宇宙、ゾンビ・・・
これまでに製作された最悪の映画を見つけるための映画批評家の一年間の探索」


と、だいたいそんな感じになり、なんだか否応無しに口の中に
アドレナリンの味が充満してくるような気がしませんか。しませんね。普通。
しかし、してしまう人達がいるから世の中面白いというか始末が悪い。
というかそれは僕。

Showgirls, Teen Wolves, and Astro Zombies
Showgirls, Teen Wolves, and Astro Zombies


先生によるとこの本は、数百本の"ヒドイ"と言われた作品を一年間かけて鑑賞し、
系統的徹底的な調査を経た上で"史上最悪の映画"を選ぶ試みを記録した本だそうで、
日本でも色々な方が"最悪映画"特集を出されているのをお見かけしますが、
いかにも映画の未来を憂いてるようでいてその実、執筆者達の鬱憤晴らしになり、
これでOK出していいのかなあ、むしろ"最悪本"を出してしまっているんじゃないかナア、
という本とは一線を画するような気がしますが、読んでみないと何ともいえない。
誰か翻訳をお願い致します。その際はどうかゲテモノ装丁にしないでください。

何しろこの本を読めば、いままでは最悪は「世界崩壊の序曲」だろうとか、
某大作を最悪と言う大衆の恣意的で無駄な情報で真実が見えなくなった世界に、
"真に究極の最悪映画"がわかるかもという希望の光(?)が指すかもしれない。
あくまでアダムス氏個人の調査に基づく、なのですが。

マイケル・アダムス氏は奇しくもオーストラリアで仕事をしているそうで、
そうなると、先日のオーストラリア映画大暴走の国にいる人なら、
"そういう作品"を見る目も確かなのかもしれないよ、と勝手な妄想を膨らます。

海の向こうにそんな尊敬すべき偉業を成し遂げた人がいるならば、
変な映画を観たい病にかかる映画ファンの一人である僕にとっては同志であります。


さて、VHS映画観賞シリーズは別にヒドイ映画を集中して観るではなく、
DVD・BD以降の波間に藻屑と消えていきそうな作品を引き上げるもの。
名もなき地上の星のような・・・・いやいや、地上の星は輝いていたのだから違うか。
埃を被っている作品の埃を払って、本当に埃を被るべきなのか観てみるとか。

しかしながら必然的にというか、ヒドイからDVD化されないんだろうなあ、
とかパッケージから明らかに思えるものを敢えてというか率先して選んでいます。

それでも、ヒドイならばヒドイなりの書き方というものがあり、
"そんなヒドイなら観てみたいぞ"と思わせるほどの興味津々になる文章、
褒めてないけど少なくともその「評」は面白いという文章を読みたい。
あるいはここをこうすれば名作ならずとも平均点以上は行ったろうになあと、
次に繋がるような文章ぐらい読みたいもので、ただこき下ろすだけでは、
ただ執筆者が相手を貶めて自分を慰める錯覚した行為に過ぎない。


なんていうことを書きながら、自分では語彙も知識も不足してますが、
ならばせめて持てるだけの映画への愛をあらん限り籠めていこうというつもり。

光あるところ闇あり。闇あるところ光あり。
愛あるならば全て呑みこむべし。

どこかのトミー・リー・ジョーンズ先生の仰るように
ロクでもなくも愛すべきものを目指し。今日もまた。

忘れようとも忘れがたき友たち 「カーヴ隠れや」2010年12月05日 23時03分14秒

皆さん、年賀状かいてますか?大掃除してますか?
年賀メールだってちゃんとテンプレートとか用意しないと!
まだ早いって?そんなことを言っているとあっという間に年明けますよー。

先日、車のタイヤを冬タイヤに換えました。
それ自体は毎年恒例の伝統行事なので大したことはないのですが、
今年がいつもと違うのは、ガソリンスタンドではなく、
ディーラーに持って行ったことなんですね。

それでびっくりしたのがその交換お値段。1本525円×4=2100円。
(ホイールは冬タイヤ用を既に購入済)。
安い!というのは今までは8000円ぐらいしてたのです。
値段の違いは今回はバランスを取ってないからです。
でも普通は心配だから皆さんバランスをとりますよね?

そこを安全性の面とか聞いてみたのですが、ディーラーによると新車1年目ですし、
剥き換え(ホイールを夏冬で共用すること)ではないので、
バランスとらずに空気圧調整だけで十分なんですよー、
よほど磨り減ったらやりましょう、とのこと。

うきゃー!いままでGS(ゴーストスイーパーじゃないよ)で
「バランスとった方がいいですよぉ」と必須セットのようにしてたのはなんなのかしら。
まあ、僕は車に関してはド素人なので専門家にお任せなんですが。
皆さん、タイヤ交換は一度ディーラーに持っていってみては如何ですか?
あ、そんなのもう知ってました?

さてさて、さらに先日は我らが漫画研究会の忘年会でした。
すっかり我らの御用達店になりました、仙台駅西口の「カーヴ隠れや」。
毎回毎回創作料理が美味しいお店でございます。





いや、この夜の酒はなんでかいつも以上に美味い酒でございました。
久し振りに6、7杯飲んで随分と階段をお昇りになりましたよ。

今年は本当に、いろいろな方に出会い、いろいろな方にお世話になりました。
いろいろな方にご迷惑をおかけし、そしていろいろな方に助けて頂きました。
ブログもいろいろな方に読んで頂き、いろいろな方から励ましのお便りを頂きました。
それら全て、この身に染み渡っています。

昨年の入院から年末の退院から自宅治療生活に至る間で、
皆様のおかげで今日までの命と気力を繋いで来ることができました。
それを心にしかと抱きしめて、これからも。

少し早いですが今年1年、本当にありがとうございました。

ロングマルゲリータの澄んだ蒼の如く深く静かに。
静流河深、我ありたいものです。

未公開映画祭(2) 「ウォルマート ~世界最大の巨大スーパー、その闇」2010年12月06日 22時03分20秒

さて、「松嶋×町山 未公開映画祭」作品、全39本鑑賞マラソン(?)。
順調に観賞は続いております。
2本目の作品はこちら。

「ウォルマート ~世界最大の巨大スーパー、その闇」
 ■作品紹介ページ
  http://www.mikoukai.net/017_walmart.html

 ・原題: Wal-Mart
 ・2005年  アメリカ (95min)
 ・監督: ロバート・グリーンウォルド

「ウォルマート」とはアメリカを拠点に世界で
スーパーマーケットチェーン店を展開する超巨大企業の名称。

映画評論家・町山氏の解説によると、ウォールマートのデータは
全世界で7262店舗、従業員数約210万人、売上高約4056億ドル
(2009年4月の放送)
Wikipediaによると創業者ウォルトンの一族の総資産はビル・ゲイツのそれ以上だそうです。
日本にはないと思ったら西友は現在、ウォルマートの子会社なのだそうな。

ウォルマートの特徴は広大な敷地に巨大な店舗、安価な商品を大量に提供し、
その店舗ひとつあれば生活ができるというような店を地方に進出させていること。
日本でいうならば郊外に立つ巨大ショッピングモールのようなもの。
(日本のその規模はウォルマートのそれに遠く及びませんが。)
本作はその巨大企業が巨額の利益を上げることと引き換えに、
許されざる犠牲を積重ねて引き起こした問題の数々を映し出していきます。

とにかく安く、なんでも揃う。となると問題となるのは周辺の小売店との共存です。
この映画の導入も、小さな町で皆に支えられて慎ましく営んでいたお店が、
ウォルマートの進出によって客足が減少し経営が苦しくなり、
遂に店を畳まざるをえなくなるところから始まります。
それは日本でも抱えている問題で、僕の里の方でも
郊外では某巨大商業施設がオープンしてその周辺は開発されているものの、
昔からの商店街には人が流れていかないという状態に陥っています。

しかし、この映画にとってはそれはほんのさわりに過ぎません。
従業員は恩恵を受けているだろうと思う僕らの思い込みを砕く惨状を見せ付ける。
薄給の従業員に用意されたウォルマートの保険の高額さ、
従業員は保険に入れず政府の生活保護を受けざるを得ない状態、
しかも企業側からそれを従業員に勧めているという話は恐ろしすぎて耳を疑う。

続いて、企業側が労働組合活動を徹底的に圧迫する姿勢。
規定の労働時間を超過すると記録を規定枠に収めて残業分は未払い。
製品を作る国外の労働者達の低賃金・無きに等しい福利厚生。
周辺の自然環境への汚染物質のずさんな管理体制。
セキュリティ無視による駐車場内での窃盗・暴行・殺人等々の事件増加・・・。
取り上げられる数々の所業は、酷いという言葉では語りつくせない。
本当にこんな企業が存在するのか、それも世界最大規模というレベルで。

企業側の姿勢で恐ろしいのは、それをCM・広告媒体やインタビューで、
全く正反対とも言える、自信満々の地域貢献・消費者保護等々アピールをしていること。
純粋なる無知とも完全なる悪意ともつかぬほど異質な怪物的印象を受けます。
それは冒頭から始まり、時折挿入される、ウォルマートCEOのリー・スコットの
大統領演説にも似た光景にクラクラします。

映画は企業側の美化された言葉と、被害者側の告発に近い証言を交えますが、
その証言をしている人物の多くが、ウォルマート関係者であることに驚きます。
普通はこういう映画は働いている方はすっかり会社を信頼しきった
物事を自分の頭で考えられなくなった従業員が反論するものですがそれが無いに等しい。
無論、選ばれた人々には違いないと思いますが、
ほぼ全ての人が顔も名前も職歴もさらけだして証言する姿勢からは、
それほどの現状の凄惨さを感じ、それに立ち向かう勇気を感じ取ります。

そして、映画はウォルマート進出反対運動に勝利する住民の活躍を追って終幕を迎える。
観終わった人はウォルマートて買物はすまいと思うでしょう。
もはやこれは、"それでも経済的で豊かな生活のためには仕方ないのだ"という
ジレンマと戦う複雑な気持ちすらも起きるわけがありません。

それほどのものを見せるが故、2005年のアメリカ公開から現在に至るまで、
ウォルマートにおいて改善されている事項も出てきているそうです。
しかしながら安心はできない。巨大企業の巨大利益の欲にとりつかれた心は、
形をかえ人間をかえ大きな歪を生んできたのですから。

しかし、映画として惜しむらくは、この映画には怪物化する過程が映されていないこと。
「創業者ウォルトンだってそんな(ひどい)ことは考えていなかったはずだ。」
という言葉を追いかけて狂気のルーツを辿ろうということはありません。
それ故に、あまりに現実離れした企業の倫理観を欠いた姿勢には、
この世界に本当に存在するということに実感がわかない様になってしまいます。

また、結論を最初に決定付け、すなわち対象を"悪"と決め付けた姿勢が
その後の証言とデータの積み重ねに大きな力をもたらしていると思いますが、
反面、それは監督と映画のウィーク・ポイントにもなりかねない危うさを感じます。

中国におかれたウォールマートの製品工場で働く女工の悲劇を追う場面では、
"いかにも"な中国のBGMが流れており、正直この場面は"音楽のセンスはゼロ"と
思った次第ですが、そういう感覚で全編に関わることは作品を紋切り型にさせ、
取り上げる題材によっては、追うべき真実を見えなくする場合もあるのではないでしょうか。
(近年の「ザ・コーヴ」がそうであったように。)

この映画の中でも挿入されますが、アメリカでは事件を皮肉を籠めた姿勢で伝える、
やや知的な笑いとニュース番組の融合があり、そちらの方が安心して観ていられます。

私たちは日本の似たようなショッピングセンターに対してどうするか。
現在、大手ショッピング施設とシネマコンプレックスの共存が日常となっている現状、
映画ファンもまた全くその恩恵を受けていないとはいえない。

もっとも、某バーガーショップのときも、某コーヒーショップのときも、
真に求められるは不買などではなく、人の倫理観が改善されることだと思います。
進出自体は結構、しかし、得た利益はきちんと周囲に還元するべきなのだ。
モンスター化していく様子は映像に出ませんが、健全なる皆さんはお分かりのはず。
自分の欲望をコントロールし、あと少し他者を優先させれば良いということを。
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