隣人を愛せ 「クローゼット ~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!~」2010年12月30日 23時28分07秒

アメリカの政治界に隠されたゲイに対する目を追った
「クローゼット ~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!~」
についてのこと。

■「松嶋×町山 未公開映画祭」作品紹介
 http://www.mikoukai.net/025_outrage.html
 
原題:Outrage
2009年 アメリカ (90分)
監督:カービー・ディック

映画はラリー・クレイグというアイダホの共和党議員が、
ゲイの誘いをかけた疑いで捕まったところから始まります。
この議員はゲイに反対する勢力の一派であったため、
ニュースでは"ゲイを叩く政治家が実はゲイだった"と話題を集めます。

しかし、この映画に登場する人々は言います。
もしゲイの政治家を全て排除したとしたら、国家は機能しなくなるだろうと。

旧約聖書に男性の天使を汚した人間達の町を神が焼き払ったことに由来し、
ゲイはキリスト教の教えでは神の怒りに触れるものとして、
世の中から排除されるべきものとする考え方がアメリカではあります。
それゆえに、ゲイであることは攻撃と非難を受ける材料になるため、
様々な面で隠さなければならない現状で、政治家は最たるものだといいます。

"クローゼット"という言葉がゲイを指す隠語であると知ったのは、
僕はあのアカデミー賞候補となった映画「ブロークバック・マウンテン」から。
中に仕舞いこんで扉を閉めて隠してしまう、ということらしい。
今回の映画が問題としているのは、そのゲイを隠した政治家が、
得票のためにゲイを叩くための活動に賛成するという点です。
政治家は二枚舌とはよく言ったものですが、冗談ではすみません。

「~ゲイ叩き政治家のゲイを暴け!~」と突撃番組の様なタイトルですが、
それに反して映画の内容はシリアスで真摯な姿勢で問題と向き合います。
アメリカ映画を観てると「ポリスアカデミー」やらに登場するなど、
様々ななかたちでオープンなゲイの人々が登場しますが、
実社会ではゲイの疑いを持たれただけで暴行を受けるなど、
地域では人種差別に匹敵する様な深刻な問題になっています。

そのような一般人の中のゲイの人々を守るべき立場にあるゲイの政治家達は、
政治家であり続けるために、同胞であるゲイを排除する法案に賛成を投じます。

例えば、"結婚は男性と女性がするものである"という法案など。
法律として明文化するというのは言葉と慣習で存在するよりも力を持つ。
"人を殺してはならない"という誰もが分かっていることを、
改めて法律で禁じているのは罰するためのものと考える立場があります。
つまり、"結婚は男女がするもの"と決めれば同性愛者は、
結婚をしたとすれば法律で罰せされる可能性もでてくるということです。

ゲイを公表している人々からすればそれは恥ずべき行為となります。
自分が生き残るために仲間を密告するという戦争中の事件などとは違う、
議員の特権と富を得続けるためという考えならば許されない。

1980年初頭にアメリカでエイズ感染者が発見された後も、
その最初の人物がゲイだったこと、ゲイに発症が多かったことから、
エイズへの研究・治療資金も不遇となり、法案も優先されなかったという。
命に関わる問題なのにそのような扱いを受けてしまうというのだから、
アメリカのゲイに対する目は我々が思うよりもずっと後進的と言えます。
もはやそこまで来ると、カミングアウトすればスッキリするぞ、
という程度の問題ではなく、生存を賭けた人権のための闘争になります。

未公開映画祭作品「ジーザス・キャンプ」で取り上げられた、
キリスト教の中でもとりわけ厳しい勢力である福音派の人々も、
ゲイは忌むべき存在として排除していく姿勢を見せますが、
そのトップの人々はゲイがばれて失脚する人もいたと言います。
あれだけ厳しい宗教教育を受けながらもそうなるのです。

「レリジュラス」にはゲイは克服できるものだと言う人物が登場し、
ビル・マーにそんなはずは無いと茶化されますが、
男女の好みについては克服や矯正ができるものではないと思います。

自分の主張が人の手によって否定されたり拒絶されたりすることから、
ストレスを受けて悩むことが普通の人々でもあるはずで、
ましてや自分自身ともいえる根源を隠し偽って生きることは、
神経の繊細な人でなくとも耐え難い苦しみであるはずです。

と言って皆が公表できるほどに世の中は成熟しきってはいません。
だからこそ、その世の中を導く力を揮える政治家たちは、
その力を正しく揮うべきで、ゲイを抑え付ける行動をとってはいけない、
ましてや自分がゲイならばと映画は説いていきます。

今までのアメリカ国内の政治ニュースにおいて、
同性愛に対する肯定・否定も挙げられていた、
その理由がようやく腑に落ちた気がします。

ブッシュ政権も得票のためにまた強力に同性愛批判を展開し、
先述の、結婚は男女間によるものという法案に賛成します。
ゲイに対する社会の流れを変えていくことが、
アメリカの政治を変えていく大きな可能性を秘めている、
冗談ではなくそう思える映画です。
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