美との取引 「グッド・ヘアー ~アフロはどこへ消えた?~」2010年12月15日 23時49分03秒

未公開映画祭の終了日が不明だったので、公式サイトに問い合わせたところ、
「2011年の1月25日までです。」との回答を得ました。
僕のフリーパスの視聴期限と同じということになるようです。

その後はWEB上で作品を視聴することはできなくなるそうで、
以降はDVD化されていくのを待つことになるようです。
現在は3作品がソフト化予定。リクエスト投票とかして頂きたいものです。

さて、記事の数は8本目。既に視聴した数は10本。残り29本。
年内に20本は観ておきたいなあ。

そんな今日の一本は「グッド・ヘアー ~アフロはどこへ消えた?~」

■「松嶋×町山 未公開映画祭」作品紹介
  http://www.mikoukai.net/012_good_hair.html
原題: Good Hair
監督: Jeff Stilson
2009年 アメリカ (96分)

この映画はスタンダップ・コメディアンのクリス・ロックが愛娘の言葉に動かされて
調べ撮り始めたもので、他の作品よりも流石に華もあるネームバリューもあります。

「私の髪はなぜチリチリなの?」そう訪ねる娘の言葉に、
父・クリスは「そう言えば黒人女性のアフロをほとんど見かけなくなったぞ?」
と、何故女性はアフロを捨てていったかを考えながら、美容院、縮毛矯正剤、
ウィーヴ("ウィッグ"の字幕表記)、さらにウィーヴの毛髪の製造・仕入れを調べていく。
誰かの毛で作られたウィーヴを持つ女性、自分の地毛にこだわる女性、
それを取り巻く男性達、髪の美に対するそれぞれの本音を掬い取る。
ヘアーカットの大会は全然意義を感じないのだけれども。

黒人ならずとも女性ならば髪にこだわる。ムースでセットするどころか
櫛も満足に入れない生まれたまま(?)の髪の僕からすれば天と地の開き。

まずはアフロを直毛にするために縮毛矯正をする人々に突撃する。
矯正剤の工場を見学し、髪の専門家に意見を乞うと、
同じ成分の溶液に漬けた鶏肉やジュース缶がどろどろに溶解していき、
頭皮には決して良いいものではないことがわかる。
だがしかし、現状では美容院でも3歳児に矯正剤を使用することもあるという。

かつて美しく見せるための化粧品の中には有毒成分が含まれていて、
使用を続けた結果は短命となり、美と引き換えに命の炎を捧げることとなった
先人達がいたことも、やはり美の追求という本能を抑えることはできない。

続いて、インタビューを受ける女性達はほとんどがウィーヴの髪を求め、
ストレートでサラサラで、ふわりと風に舞う髪を美しい髪としている。
その映画女優の様に美しい髪の憧れの代表格として、
ファラ・フォーセットの華麗なブロンドが登場する。
ああ、それは確かに美しい。あれほど美しいブロンドも他には無い。

ウィーヴは死の危険は無いものの、値段が高価になり、
さらにつけるための時間と費用は膨大なものになる。
一回の費用が数千ドルということもあるというから驚異的です。
娘と妻と。男達は女達の望む髪のために時間と金を用意する。
ウィーヴは他人の毛髪を縫付けるなどして装着するものですが、
一度つけたら終わりではなく頻繁な手入れと取替えが必要になります。

その毛髪はインド人が寺で剃髪で納めたものが一番質が良いとのこと。
インドからロサンゼルスへ。あっという間に完売するという。
インドの重要な資源とのことですが、剃髪いう名目のため、
捧げた人々に金銭が支払われるどころか、
再利用されていることも知らないご様子。

高価で他人の毛髪のウィーヴのために様々なものを犠牲にし、
黒人自身のアフロを捨てることは良いことなのだろうか?
娘に与えてはいないことからもクリス・ロックの目は懐疑的です。
自分自身の髪に誇りを持って生きることを真の美しさとするか。
たとえ仮初めの姿でも美しき中身を愛することができるか。

クリス・ロックの奥さんもウィーヴをつけているといわれるから、
その費用が全く分からないなどということはないと思いますが、
開いた口が塞がらない風のクリス・ロックには親しみがわく。
まあ、これは男性の価値観で考えては分からないでしょう。

この映画が面白いのは、黒人によって追求された映画ということで、
自分達のアイデンティティだったものが、「そう言えばいつの間にか」
思いがけないところに来ていたと気づくことにあります。
我々もいつまにか無くしているものがないだろうか。

もちろん、黒人女性達が現在の髪を求めたのには、
黒人では無い我々がそれを賛美し、一方でアフロを遠ざけたことが
その背景にあるということは考えなければならないはず。
少なくとも黒人が「黒人の誇りはどうした!」というならばともかく、
我々黒人以外の人種が「先祖から授かった物を捨てるな!」とは言えない。
駆逐の片棒を担いでからいきなり擁護するのは虫の良い話です。

この映画はそう言った考察までは踏み込んではいかず隙間が多いですが、
些細な疑問を個人がどんどん追っていく探求心が感じられます。
ひとつひとつの疑問の種を次はあなたが考察してはいかがか。

さて、黒人女性はウィーヴをつけても恋人にも旦那にも触らせないそうです。
一方、男性は相手の髪に触りたいとのことで、10数年触っていない人もいる。
男女の微妙な心理ですが、あなたはどう?
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