時を超えて巡り逢う 「タイムソルジャー/ 時の侵入者」2010年12月10日 23時12分37秒

結局、VHS観賞のシリーズ題名はつけないことにしてしまいますか。
後でまたつけるかもしれませんが、当面はカテゴリ分類することにします。

さて、今日ご紹介するVHS作品は日本未公開作品。
未公開映画祭やら未公開作品やら、最近そんな方向にばかり。
今回の作品はちゃんとしたものだと思いますし僕は好きです。
というより、前回までが敢えて地雷を踏みに行ったに過ぎませんが。
そんなわけで。

「タイムソルジャー/時の侵入者」のご紹介。
■1986年 アメリカ映画 96分


<物語>
1986年。暴走車による不幸な事故で妻と子供を失った大学教授のジョー。
彼は地元のオークション大会で古びたトランクを手に入れる。
その中に収められた約100年前の銅版写真に写っていた男の手には、
1980年代に製造されたマグナム357が握られていた!

妻子を失って依頼抜け殻だったジョーは想いを紛らわす様に調査を始める。
そこへクロフォードと名乗る謎のブロンド美女が手伝わせて欲しいと現れる。
彼女は1886年の写真に写っていたマグナムの男を追って、
西暦2586年の未来から父の作ったタイムマシンによってやってきたという。
彼女は父の発明を奪い悪用しようと1886年に跳んだ科学者を追ってきた。
その科学者こそ、マグナムの男・コール。


この頃にタイムトラベルといえば、1985年の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。
個性的キャラクターやイカしたマシンが登場する若者向けの作品と比べれば、
「タイムソルジャー」は華々しさは無いもののノスタルジイと色気が漂う。

ジョーを演じるのはどこかで見た顔だと思ったらウィリアム・ディヴェインで、
(ビデオパッケージの表記は、ウィリアム・デバーン)最近では
「24 -TWENTY FOUR-」でオードリー・レインズの父・ヘラー長官を演じた
渋みのある俳優さんで、この映画では知的な面と銃を取る勇ましい面を好演する。

クロフォード役はローレン・ハットンという女優さんで
僕は始めて名前を聞きましたがファッション雑誌「ヴォーグ」のモデルで
1970年代には化粧品会社と巨額の契約をした先駆けだったそうな。
40歳半ばのウィリアムの相手で失礼ながらトウがたった感があるものの、
美しさは損なわれず、品のある大人の落ち着きを放っています。
双方ともに上の歯の白さが美しく二人並ぶと非常によろしい。

タイムマシンは野球ボールぐらいの大きさ、ダイヤモンドのような形状で、
淡いピンクがかった透明なボディにデジタル文字で時間が表示される。
行きたい時間を入力し握りしめて時を超える、一人・二人用のタイムマシン。
時間を超えるときには焼け焦げた様なサークルが出来上がります。
なかなか洒落たデザインで、小物のタイムマシンというのは珍しいかな?

このタイムマシンで可能なのは時間の移動のみで、空間の移動はできない様子。
つまり、今立っている場所の100年前に移動するということ。
「ドラえもん」ならばタイムマシンではなくタイムベルトというところ。


ジョーはコールの目的は過去でクロフォードの祖先を殺し、
彼女の父が生まれない様に歴史を改変し、技術を独占することだと推理する。

ジョー達は100年前の写真の撮られた場所、周辺の歴史を調べ、
「星の銃を持った男がならず者を倒し青の男を救った」
という伝説のガンマンを讃えたカントリーソングを見つけ出す。
青の男とは当時の重要人物・クリーブランド大統領を指していた。
そして大統領の側近として随行していた人物こそクロフォードの祖先。

大統領と彼女の祖先と星の銃を持った男が出会う瞬間、
それこそがコールが狙う、祖先を暗殺するチャンスが到来する瞬間だった。
その日を割り出したジョーとクロフォードは暗殺を阻止するために時を跳躍、
川の畔で大統領一行が野党の襲撃を受ける場面にたどり着く。

大統領の乗った馬車が動きを止められ、護衛が一人また一人やられていく。
そのとき、白馬で川向こうから駆けてくる男がいた。
彼こそが歌に歌われた伝説の男!と思った次の瞬間、銃声が轟く。
コールのマグナムが男を射抜き、男は絶命してしまう。

駆け出すジョー。彼は男が持っていた星の紋章の銃を取り、
大統領と祖先を救うために馬を駆って駆け出す!
実は序盤に銃の腕を披露し西部劇に憧れていたという、
ジョーの肉付けがここにきて鮮やかに生きてくる。
じりじりと相手の出方を伺う間の取り方、太陽を背に受けた呷り。
鮮やかにならず者を倒し、コールとの早撃ち対決まで全くの西部劇です。

1990年の「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」より早く、
タイムトラベル&西部劇をやっていた!ってもっと早いのがあるかも。
「バック・トゥ~3」はクリント・イーストウッドだからややマカロニ、
対して「タイム~」はアメリカ西部劇への憧憬が漂っている様に思えます。

そしてお分かりだろう。未来からやってきたジョーこそが、
歌に歌われる伝説のガンマン・星の銃を持つ男だったということが。

なお、この狂気に満ちた白髪の強い印象を残す未来からの暗殺者
コールは、あのナターシャ・キンスキーの父であり、
ヘルツォークの盟友であるクラウス・キンスキーが怪演。

時を超えた事件が解決し、ジョーはクロフォードに現代に残らないかと誘う。
しかし、彼女は首を横に振る。それはルール違反になるわと。
助けが必要になったら再び協力することを約束し抱擁する二人。
実にいい。衝動に任せない大人の自制を保った温もりある別離の場面です。
彼女はゆっくり離れ、語りかける。「ルールは破るためにあるの」
握り締めたタイムマシンが輝き、その手を差し出す。

ジョーは目覚めた。妻と子供が車で出かけていく。
そうだ!ここは"あの朝"だ!車を追って駆け出すジョー。
間一髪。それはクロフォードからのかけがえない贈物だった。


アップテンポにはせずに品よくしっとりとした大人のドラマとして丁寧に紡ぎ、
郷愁漂う別れに至るため、妻子を救うラストもご都合ではなく心に染みてくる。
時間旅行はロマンであり、西部劇も本来は大人の憧憬なのだとそっと見せてくれる。

「さようなら、教授」。優しく語り輝きに消えたローレンを僕は忘れることはできない。

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