終わり無き迷走 「マックスト・アウト ~カード地獄USA~」2010年12月13日 23時24分26秒

さて今日の映画はまっこと身につまされる話。
アメリカのクレジットカード事情についての映画。


「マックスト・アウト ~カード地獄USA~」
原題:Maxed OUt

■「松嶋×町山 未公開映画祭」作品紹介
  http://www.mikoukai.net/018_maxed_out.html
監督: ジェイムス・D=スカーロック
2006年  アメリカ作品 (90分)


あなたはクレジットカードを何枚持っていますか?
大体2~3枚程度ではないでしょうか。
純粋なJCBやVISAでなくとも、提携カードだったりしますね。

僕は複数持っていたこともありますが、現在は1枚だけです。
理由はポイントを1枚のカードに集中的に纏めたいからですね。

次に、クレジットカードで月平均幾ら使っているでしょう?
翌月一括だけでなく分割払いはどのくらい?
そしてそれは月々の給料の何分の一でしょう?
ボーナスで確保しなければならないのは幾らでしょう?

余計なお世話ですか?
ポンポン使っているとそれらとの果てしなきデスレースになります。
僕は最近、パソコンの分割をやっと完遂しましたが、
約1年、保険料や光熱費同様に定額が引かれ続けられ、
小額でもかなり圧迫感がございました。

僕の場合はまだ、1枚だから良いのですが複数枚持っていて、
それぞれのカードの締め日が異なる場合などになれば、
ちょっとお金を作れる人は邪な計画を巡らせてしまいます。

そのまま放っておくと、大変なことになるかもしれませんよ?

日本ではそんな悲喜こもごもな事情をドラマに織り込んだ
「夜逃げ屋本舗」なんて喜劇シリーズもありました。


さて、アメリカでは笑ってられないほどのカード社会でありまして、
持ち歩く現金は本当に小額(日本なら10000円も持たない感じらしい)、
大手チェーン店なら500円クラスでもカード払いは日常、
カードカードかーどかあぁどぉ払いな日々で、
逃亡モノのアクション映画の主人公がまず初めに敵にやられることは、
カードを止められて動きを封じられる様に、
カードがなければ大抵のことでは身動きが取れなくなる社会。

そうして使わざるを得ない理由でチリも積もり積もったちり地獄。
国民一人当たりの所有カードは5枚。もちろんそれ以上もいる。
一世帯あたりのカード負債は平均9000万ドル以上だそうだ(!)。

給料が入ればそのほとんどは月々のカード返済に消え、
そして金が無くなればまたカードで買い、そしてまた。
めぐるめぐる時の円環、終わらないワルツのように美しければまだ良し。
アメリカ国民が陥っているのは、カード会社という鬼に突かれ続け
耐え無き炎に焼かれ続ける無間地獄に落ちた苦しみの日々。

しかし、その苦しみは借りた側よりもむしろカード会社側が、
大学に入学したばかりの新入生でもカードを持てるなど、
返済能力が低い人間にカードを持たせていることが要因だと映画は説く。

僕も学生の頃に、学生生協だったと思いますがカードを作った覚えがある。
ただ、学生用というだけあって限度額はかなり低かったはずで、
それも自動車学校の支払くらいしか利用しなかったと思う。
カード社会アメリカではかなり事情が異なるようです。
映画の中では返済のためのアルバイトに日々を費やし、
神経をすり減らし、そして悲劇の結末に至ってしまう学生の話を取り上げる。
入学当初から無料特典等で巧みに勧誘し12枚ものカードを持つに至る学生。
多くの人々が契約してしまったというよりも契約させられているのです。

取立ての様子はそれほどショッキングに書かれてはいませんが、
それに関連するクレジットカードの信用調査機関の体質に迫るくだりは、
日本ではどうだかわかりませんが、観ておくことをお勧めします。


これは同じく未公開映画祭の紹介作品の1つ、
「ウォルマート ~世界最大の巨大スーパー、その闇」を思い出しますが、
ここでも公の場での企業側の"顧客第一姿勢"の自信満々さが恐ろしい。
そして一方ではカードに苦しむ人々を利益の源泉の様に扱う考えが
カード会社、銀行関係者、そして議員達の間で罷り通っている。
ブッシュ政権の優遇措置の歪がこの映画でも指摘されています。

「ウォルマート」を観たときには恐ろしい"特別な"モンスターと思ったけれども、
並べると、アメリカの巨大企業は皆恐怖の支配者だと思われても、致し方ないと思う。

日本ではまだ個人の自制心で崖っぷちに近づかない様にできるものの、
生活のためのシステムがカード前提で出来上がっている様なアメリカでは、
都会の生活を捨てて野に逃れるくらい脱却をしない限り、
個人レベルでカードの呪縛から逃れることはできないのではないでしょうか。


冒頭、「ローン・トゥ・バリュー」という方法で、豪邸を建てる女性が登場します。
完成後の建物の価値で融資額が決まるので、建設費を心配しなくて良いそうだ。
「後で金利が上がれば支払いに困るけど、お金は作ろうと思えば作れるものよ」
とあっけらかんと言ってのける。

映画はそっと、「エンロンもこのシステムを使用していた」と我々に差し出す。
エンロンとはもちろん2001年に破綻した巨大企業のこと。
エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか? デラックス版 [DVD]
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ラストはこの女性にまた戻ってくる。やれやれ彼女は夢から覚めないようです。
後で払えば良い、払えるに決まっている、プラス思考というよりも幻想が怖い。
そしてサブプライム・ローンは崩壊した。


しかしそれはまた我々も同じ、痛い目に見ないと分からないものです。
支払いに苦しむリスナーの相談を番組で受けるラジオのDJは、
20代で全財産を失ってようやく自分が馬鹿だと分かったと語る。
映画に登場する、中流階級と低所得層を見つめる質屋の目線が痛い所を突く。
「自分達のことだという自覚がないのさ」

この映画を観た後も、クレジットの締め日を考えつつ、"計画的"に考える、
そもそもカード前提で考え続ける自分を戒めなければならない。
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