未公開映画祭(2) 「ウォルマート ~世界最大の巨大スーパー、その闇」2010年12月06日 22時03分20秒

さて、「松嶋×町山 未公開映画祭」作品、全39本鑑賞マラソン(?)。
順調に観賞は続いております。
2本目の作品はこちら。

「ウォルマート ~世界最大の巨大スーパー、その闇」
 ■作品紹介ページ
  http://www.mikoukai.net/017_walmart.html

 ・原題: Wal-Mart
 ・2005年  アメリカ (95min)
 ・監督: ロバート・グリーンウォルド

「ウォルマート」とはアメリカを拠点に世界で
スーパーマーケットチェーン店を展開する超巨大企業の名称。

映画評論家・町山氏の解説によると、ウォールマートのデータは
全世界で7262店舗、従業員数約210万人、売上高約4056億ドル
(2009年4月の放送)
Wikipediaによると創業者ウォルトンの一族の総資産はビル・ゲイツのそれ以上だそうです。
日本にはないと思ったら西友は現在、ウォルマートの子会社なのだそうな。

ウォルマートの特徴は広大な敷地に巨大な店舗、安価な商品を大量に提供し、
その店舗ひとつあれば生活ができるというような店を地方に進出させていること。
日本でいうならば郊外に立つ巨大ショッピングモールのようなもの。
(日本のその規模はウォルマートのそれに遠く及びませんが。)
本作はその巨大企業が巨額の利益を上げることと引き換えに、
許されざる犠牲を積重ねて引き起こした問題の数々を映し出していきます。

とにかく安く、なんでも揃う。となると問題となるのは周辺の小売店との共存です。
この映画の導入も、小さな町で皆に支えられて慎ましく営んでいたお店が、
ウォルマートの進出によって客足が減少し経営が苦しくなり、
遂に店を畳まざるをえなくなるところから始まります。
それは日本でも抱えている問題で、僕の里の方でも
郊外では某巨大商業施設がオープンしてその周辺は開発されているものの、
昔からの商店街には人が流れていかないという状態に陥っています。

しかし、この映画にとってはそれはほんのさわりに過ぎません。
従業員は恩恵を受けているだろうと思う僕らの思い込みを砕く惨状を見せ付ける。
薄給の従業員に用意されたウォルマートの保険の高額さ、
従業員は保険に入れず政府の生活保護を受けざるを得ない状態、
しかも企業側からそれを従業員に勧めているという話は恐ろしすぎて耳を疑う。

続いて、企業側が労働組合活動を徹底的に圧迫する姿勢。
規定の労働時間を超過すると記録を規定枠に収めて残業分は未払い。
製品を作る国外の労働者達の低賃金・無きに等しい福利厚生。
周辺の自然環境への汚染物質のずさんな管理体制。
セキュリティ無視による駐車場内での窃盗・暴行・殺人等々の事件増加・・・。
取り上げられる数々の所業は、酷いという言葉では語りつくせない。
本当にこんな企業が存在するのか、それも世界最大規模というレベルで。

企業側の姿勢で恐ろしいのは、それをCM・広告媒体やインタビューで、
全く正反対とも言える、自信満々の地域貢献・消費者保護等々アピールをしていること。
純粋なる無知とも完全なる悪意ともつかぬほど異質な怪物的印象を受けます。
それは冒頭から始まり、時折挿入される、ウォルマートCEOのリー・スコットの
大統領演説にも似た光景にクラクラします。

映画は企業側の美化された言葉と、被害者側の告発に近い証言を交えますが、
その証言をしている人物の多くが、ウォルマート関係者であることに驚きます。
普通はこういう映画は働いている方はすっかり会社を信頼しきった
物事を自分の頭で考えられなくなった従業員が反論するものですがそれが無いに等しい。
無論、選ばれた人々には違いないと思いますが、
ほぼ全ての人が顔も名前も職歴もさらけだして証言する姿勢からは、
それほどの現状の凄惨さを感じ、それに立ち向かう勇気を感じ取ります。

そして、映画はウォルマート進出反対運動に勝利する住民の活躍を追って終幕を迎える。
観終わった人はウォルマートて買物はすまいと思うでしょう。
もはやこれは、"それでも経済的で豊かな生活のためには仕方ないのだ"という
ジレンマと戦う複雑な気持ちすらも起きるわけがありません。

それほどのものを見せるが故、2005年のアメリカ公開から現在に至るまで、
ウォルマートにおいて改善されている事項も出てきているそうです。
しかしながら安心はできない。巨大企業の巨大利益の欲にとりつかれた心は、
形をかえ人間をかえ大きな歪を生んできたのですから。

しかし、映画として惜しむらくは、この映画には怪物化する過程が映されていないこと。
「創業者ウォルトンだってそんな(ひどい)ことは考えていなかったはずだ。」
という言葉を追いかけて狂気のルーツを辿ろうということはありません。
それ故に、あまりに現実離れした企業の倫理観を欠いた姿勢には、
この世界に本当に存在するということに実感がわかない様になってしまいます。

また、結論を最初に決定付け、すなわち対象を"悪"と決め付けた姿勢が
その後の証言とデータの積み重ねに大きな力をもたらしていると思いますが、
反面、それは監督と映画のウィーク・ポイントにもなりかねない危うさを感じます。

中国におかれたウォールマートの製品工場で働く女工の悲劇を追う場面では、
"いかにも"な中国のBGMが流れており、正直この場面は"音楽のセンスはゼロ"と
思った次第ですが、そういう感覚で全編に関わることは作品を紋切り型にさせ、
取り上げる題材によっては、追うべき真実を見えなくする場合もあるのではないでしょうか。
(近年の「ザ・コーヴ」がそうであったように。)

この映画の中でも挿入されますが、アメリカでは事件を皮肉を籠めた姿勢で伝える、
やや知的な笑いとニュース番組の融合があり、そちらの方が安心して観ていられます。

私たちは日本の似たようなショッピングセンターに対してどうするか。
現在、大手ショッピング施設とシネマコンプレックスの共存が日常となっている現状、
映画ファンもまた全くその恩恵を受けていないとはいえない。

もっとも、某バーガーショップのときも、某コーヒーショップのときも、
真に求められるは不買などではなく、人の倫理観が改善されることだと思います。
進出自体は結構、しかし、得た利益はきちんと周囲に還元するべきなのだ。
モンスター化していく様子は映像に出ませんが、健全なる皆さんはお分かりのはず。
自分の欲望をコントロールし、あと少し他者を優先させれば良いということを。
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