埋れた歴史2009年03月04日 23時19分11秒

ダニエル・クレイグ主演・エドワード・ズウィック監督作
「ディファイアンス」についてのこと。

1941年、ナチスドイツの政権下、ユダヤ人に対する
圧力・迫害は強さを増し、ポーランドまで及んでいた。
両親を殺されたユダヤ人達、
トゥヴィア、ズシュ、アザエルのビエルスキ三兄弟は
近隣のベラルーシの森に逃げ込み潜伏する。
しかし、他にも逃亡してきたユダヤ人たちがおり、
彼らを守っていくうち、彼らは共同体を形成していく。
食糧を調達し、木を切り住居を立て生活を始めるが、
それは自然の厳しさ、ナチスの追撃、
そして、彼等自身の人間の業との戦いであった。
逃亡と抵抗を続けた結果、終戦時には
約1200人のユダヤ人が生き残ったのである。


ナチスドイツに武器を取って果敢に抵抗したユダヤ人達。
多少なりとも存在したであろうが、まさかこれほどの集団が!
これはフィクションか?
と思ったほどに現実にあったこととは俄には信じがたい実話。
余程の研究家でなくては、ほとんどの人がそうだと思う、
それほどまでに、ユダヤ人はこの時代も、
過去の歴史上も虐げられていたというイメージが強いです。

ユダヤ人が活躍すると言えば経済界か映画界か、
はたまたそれこそフィクション中におけるフリーメーソンか?

12年前からこの作品に携わったという
エドワード・ズウィック監督は(「戦火の勇気」の頃!)
その他の監督作「ラストサムライ」「ブラッド・ダイヤモンド」
等と同様に厳しい状況下における男たちのドラマを、
社会派作品としての重みと、ウェットな心情描写と、
ここぞという時には血が熱く滾るヒーロー性の全てを捉えます。
(クライマックスで戦車隊に囲まれたトゥヴィアのピンチに
駆けつけるズシュ達は「駅馬車」の騎兵隊そのもの!)


ときにはそれが、社会派として観たい観客を遠ざけ、
娯楽として楽しみたい観客に敷居を作ることもありますが、
全体をまとめきれない中途半端な力では決してなく、
また、力技でゴリ押しすることも無く、器用貧乏でもない、
高次元でバランスを取りつつも角は研ぎ澄ませているという、
なかなか複雑でだからこそ魅かれる監督です。

トゥヴィア、ズシュ、アザエルの三兄弟が中心となり、
共同体を率いていく困難な道のり。
約1200人を救った偉業があっても彼らは聖人や英雄として描かれず、
最初はギラギラした復讐と憎悪から始まり、
それが森での過酷な生活から神経がおかしくなった
同胞のエゴと醜悪さを見せ付けられ、自らの業と戦いながら
共同体をまとめていかなければならぬことを自覚していく。
食糧の奪い合い、リンチ、反抗者の銃殺・・・
一握りの強者により共同体は良く統率される、
そんな一見悪役の思想のようなものでなければ維持できない世界。

個性の違う三兄弟が、ときにライバル、ときに相棒と、
お互いが欠けても成り立たない半身のような存在であるのが、
彼らの弱き不完全さとだからこその奮い立つ闘志が、
現実感と人間臭さを持って親しみも尊敬も沸いてきます。

ズウィック監督は「少し歴史の見方が変わるかもしれない」と
語りますが、確かに歴史にはまだまだ埋れた話があるでしょう。
そしてイメージはいつひっくり返るか分からない。
踏み込んでみなければ分からないのは、歴史も人間も同じ。


ダニエル・クレイグは「007/カジノロワイヤル」以来、
私が贔屓目で見ている俳優ですが、今回の映画では、
トレーラーからも街からも遠く離れた森の奥深くでの
自然と戦う過酷な野外ロケ撮影という状況で、
「出番が終わるとすぐにトレーラーに戻るような俳優ではなく、
皆に手本を示すような人間だった」と、監督が語っています。

その話を聞いて「八甲田山」の高倉健さんを連想します。
雪深い山の中での過酷な撮影だったこの映画において、
当初、寒さで俳優たちはなかなか動かなかったそう。
そこで、撮影の木村大作が凍った池の中に入りカメラを据えたところ、
さすがに俳優たちも慌てて動き出したのだが、
その際に、高倉健さんが皆の前で校長先生のように、
「これからはあのカメラマンの言うことは何でも聞くように」
と先頭に立って言ったのだとか。
(キネマ旬報連載中の木村大作の回想録より)

まさか、ダニエル・クレイグが後年になって
雪深い無人駅の駅長役とかはやらないでしょうが、
頼もしく敬意を覚える人間性を持った俳優であることに、
ますます贔屓目に見てしまうのでありました。

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