答えの出ない選択2009年03月05日 23時47分02秒

どうしようかと迷いましたが、
桜井薬局セントラルホールにて上映されていた
「ビクトル・エリセ ニュープリント化 記念上映」で、
「エル・スール」を鑑賞しました。


迷った理由は旧作のリバイバル上映の類だからなのですが、
それがビクトル・エリセとあらば鑑賞したい気持ちも高まる。

ビクトル・エリセとはスペイン出身の監督ですが、
28歳のデビュー以来、現在69歳となろう方でありながら、
撮った映画は5本。ほぼ10年に一本という、
その全ての作品の評価が高い監督ながらも、
一体そのペースでどうやって生計を立てるのかと
素人は馬鹿な心配をしてしまうのですが、
非常に寡作な監督です。

そして、日本ではミニシアター系に分類。
それだけにレンタルショップでは見つけることは困難。
辛うじて数年前に「ミツバチのささやき」(1973年)のVHSを
レンタルで発見することができたものの、あとは、
2002年に「10ミニッツ・オールダー/人生のメビウス」の中の
短編10分を劇場でリアルタイムで観たのみ。
DVDではコレクターBOXが発売されているものの、
単品も入手困難になっており、値段も高い。

いわゆる、評価は高く噂もよく聞こえてくるものの、
実際に鑑賞する機会がかなり稀な作品の監督ということです。


そんな作品が一週間限定公開されるとあっては、
やはり、財布の中身が乏しくとも
観ておかねばと思うのが映画ファンの心情。
しかも、ニュープリント版。
(デジタル処理のリマスターとは違う、フィルムです。)


というわけで鑑賞しました「エル・スール」。
1936年からのスペイン内戦後、北部の町で暮らす家族。
少女エストレニャの回想で始まる物語は、
母親の影は薄く、大好きな父親を中心としていきますが、
少女が成長するにつれ、故郷である南(エル・スール)と
昔の恋人を想う父の姿に心が揺れ動いていきます。

幼い頃から慕っていた優しい父の過去、
父に対する愛情を残しながらも、昔の恋人の影が、
母に対する裏切り、いや、自分に対する裏切りのように
静かに密かに圧し掛かっていく。
一番多感になる時期に訪れる過去からの影が、
家族をバラバラに引き裂いて行くのは
現代のメロドラマですが、ビクトル・エリセは
心情を内に封じ、感情を爆発させることなく、
しかし、見つめる眼差しを変化させていきます。

それは少女から成長して成人となった
エストレニャの回想という形式により、
「なぜあの時、私はそうできなかったのか」
という自責と後悔を含んだ想いを告白させ、
それにより少女の頃の不安定さを映し出します。


凍りついた風見鶏の雪解け、蘇る庭のアーチ。
変わり行く心情と共に幻想的に移り行く季節が、
悲しくも美しく物語を綴って行きます。
無論、背景にはスペインの内戦が色濃く影を落としますが、
心を打つのは人間の別れと成長のドラマです。

人生において、肉親であっても近しい人であっても、
どんなに親しく想っていた人であろうとも、
些細なきっかけにより、ゆっくりと儚く崩れていく。
自分を想う唯一無二の人が自分から離れていくこと、
あるいは自分から手離してしまう未熟さ。


実際には、そのとき何が正しい選択だったのか、
特に人間の感情に関わるものはよく分からないものです。
長き人生の中で何度か、ふと思い出す。
いつか、「あの時、本当はどうするべきだったのか」

簡単に分からない想いを抱き続け、人は成長していく。
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