強く、幸せと人生を願う贈り物2009年03月29日 23時48分52秒

ウィル・スミス主演「7つの贈り物」についてのこと。

<物語>
主人公、ベン・トーマス。
海辺の家を離れてモーテルに泊まり、
家族も恋人もなく、弟を避けている。
毎日、ある一人の男と連絡を取りながら、
あるリストに乗った7人の人物に接触をし、
条件をクリアした人にはある贈り物をする。

ヒーロー俳優ウィル・スミスが新境地を拓いて好評を博した
「幸せのちから」のガブリエル・ムッチーノ監督との再タッグ。
しかし、貧者からの出世というアメリカン・ドリームで、
お馴染みのある意味安心作だった前作と比べ今回は、
脚本構成からテーマまで果敢な挑戦が見て取れます。


さだまさしの名曲に「償い」という歌があります。
交通事故で伴侶を失った女性の元に加害者から
毎月、賠償金の送金が少しづつ送られてくる、
お金には手紙が同封されており女性は事故を思い出す。
その送金はやむことなく数年続き、
ある時、女性はもう送金をやめて構わない、
これからは自分の人生を生きて欲しいと返事を出す。

さだまさしの知人の実話を元に作られた曲で、
あの独特の、語りに近い歌い方で歌われると
情景がすぐそこに浮び胸が耐え切れずに粉々に潰れそうな名曲です。


ベンもまた、どうやら過去に大きな過ちを犯し、
その償いのために、身を粉にして献身的な人助けをするため
日々を費やしていることがわかっていきます。

その献身性は並大抵のことではできない範囲に及び、
自分よりも他人の幸せを願うということで見れば
究極的な手段に出ていると言っても良いものです。

ロザリオ・ドーソン演じるヒロイン、
エミリーは従来のパターンで言えばベンに対して、
「十分に償ったのだからあなたの人生を生きて」
というべき立場にあったと思いますが、
そのエミリーに対してこそ、
ベンは本当に自分の身を投げ出していきます。

エミリーは何の見返りも求めずに親切にしてくれるベンに対して、
「何故、私に優しくしてくれるの?」と問います。
ベンは「そうされる資格があると思ったから」とかわします。
その言葉には、自分には幸せになる資格はないのだから、
という含みがあるのではないでしょうか。

ベンの見返りを求めない贈り物、
償いの方法には議論があると思います。
それは二人が共に人生を生きることができず、
普通の人が考えるにはあまりに重く極端でもあるから。
贈られた側がしっかりとその重みを受け止めて生きていく必要があり、
同じく贈り物を受け取った男性、エズラとエミリーが出会うラストが、
ベンの贈り物の残す意味を語っています。

相手を本当に想う愛は無償であるべきで
恋人、友人、親子、兄弟姉妹に関わらずそう言えます。
ただ、そうした想いが一方的で独りよがりに陥りやすいところを、
ウィル・スミスはベン・トーマスの根っこの善人性を丁寧に体現し、
そこに、自分の犯した過ちの贖罪の意識を滲ませ、
海よりも深く優しく、そして今にも壊れそうな繊細さをもって、
その行為が正しいかはともかく意味のあることと信じることができます。
ときに、幸せの中にいる者の愛よりも、
傷つき苦味を知った者の愛が深みを持つこともあります。

この映画は、人は相手の幸せと人生のために
例え一方通行でも、どこまでのことができるのかを問います。
もし、自分には重すぎると戸惑う優しさを受け取った時は、
それは幸せになるべきだという相手の想いが籠った故かもしれません。
無償の想いは一方通行ゆえに強く進むのですから。
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