本命は出し惜しみなく 「地獄の戦士 ブラストファイター」2011年02月11日 23時56分48秒

さて、少し前に筋肉モリモリアクション映画の話に触れたので
そのブームに巻き込まれたと思しきものをよせば良いのに掘り起こす。
「地獄の戦士/ブラストファイター」が今宵の一本。


1984年 イタリア映画
監督   :ランベルト・バーバ
特殊武器:ポール・コーラード
出演   :マイケル・ソプキー、バレリー・ブレイク、ジョージ・イーストマン

ジェイク・タイガー、またの名をブラスト・ファイター。
報復の血に飢えた一匹狼。

ストーリー解説では「ランボー」を彷彿させる痛快アクションの決定版!
と銘打たれており、確かに山間部の小さな町で森を山を戦場に、
町のワル共相手に主人公・タイガーがブチ切れ制裁バトルを繰広げる点と、
暗い過去を背負った孤独な男が主人公という点では、確かにランボーっぽい。

違うのはワルが町のハンター紛いのただのチンピラであることと、
タイガーがベトナム帰りではなくムショ帰りということ。
まあ、1980年代・イタリア映画、即ち「ランボー」のパクリと言って良いかと。

タイガーは元は警官でしたが、同僚と妻を殺された復讐の炎を燃やし、
犯人をあと一歩まで追い詰めるものの、証拠不十分で逮捕できないため、
自らの手で引き金を引き、銃弾を脳天にぶち込み、服役することに。
出所後、彼は一人、隠れ住む様に小さな町に流れ着き、
森の動物達を相手に静かな余生を送ろうとしていたのでした。

だが、町のチンピラ達は森の動物達を好きに撃ち殺し、
その肉や臓器を高く売り飛しており、殺すことを楽しみにしていた。
生活ための自然の恵みの範囲を越えた行いにタイガーは忠告するが、
可愛がっていた小鹿を惨殺され、すぐさま鉄拳制裁に訴える。
その日からタイガーとワル共の激しい対立が始まる。

そして彼を訪ねてやってきた娘のコニー、その恋人、友人をも殺されるに至り、
遂にタイガーの怒りは天を焼きつくす紅蓮の炎の如く頂点に達した!
彼は隠し持っていたハイテク超兵器"ブラストファイター"を手に、
地獄の戦士と化して、町のワル共の最後の一人まで皆殺しにするまで戦い続ける!


映画自体はランボーのパクリですが、日本で売る側は売る側で、
パッケージの劇画と"地獄の戦士"という副題から想像するに、
地獄シリーズの本命の大先生、チャック・ノリス風味で売ろうとしたのでは。
どうみてもこの血管切れまであと5秒の劇画はスタローンよりチャックかと。

・・・地獄っていっても実際のタイガーはそれほどマッチョでもありませんし、
性格もぶち切れ易いものの、娘と動物を愛する優しき心を持ち、
友人と妻を失いさらに社会の権力に嫌気がさした世捨て人で、
その瞳に大きな哀しみを秘めた愛ゆえの復讐の戦士なのですが。
少なくとも、"血に飢えた"はありません。

第一、地獄の戦士の相手が、知性も権力も無いただのチンピラ集団だもの。
昔のライバルとの因縁の対決が、ほんのちょっとあるくらいですが、
一本角の鬼の中に二本角の鬼が一人いたよ、ぐらいの差です。

前述の様にタイガーは"少しでも触ったら手前の顔面に拳をめりこませるぜ"
という人ではないのですが、劇画に起こした時点で多大な修正が加えられました。
悪を懲らしめる良い側ヒーローなのに、危険極まりないワルっぽく修正されるという、
なんとも幸だか不幸だが分かりませんが結果としては、
人間核弾頭的ものを期待したら以外に優しかったというだけに空振り感あり。

噂の超兵器・ブラストファイターについて、映画のなかの台詞をそのまま。

注文通りのだ。だがこれはすごいぞ。
数年後には軍の標準装備になる。
操作性の良い軽量な散弾銃だがライフルの銃身も使える。
半自動式、単発式の両方が可能、煙幕弾から照明弾まで
あらゆる用途の弾を発射できる。
例えば、硬質ゴム或いは鉛の散弾、鉄鋼弾、更には矢さえ発射できる。
その他、手投げ弾、催涙弾、爆薬類も飛ばせる。
スコープは夜間でも使用可能だ。
本当さ。最高の銃だぜ。タイガー。

って、子供の空想兵器か!というくらいに盛りだくさんの多機能搭載。
詰込めば良いというものではないぞ。

構成は最初こそ、尺の短い映画なりにコンパクトに凝縮されておりまして、
過去の事件のいきさつの説明、流れ流れ着いた現在の境遇、
小鹿が殺される、車のブレーキに仕掛けをされる(その都度、やり返す)
娘の来訪、友人との邂逅、まではトントン進んで意外に良いのですが、
娘とタイガーの二人で山中を逃げ回り、娘の命を奪われ復讐に燃えるまでが長い!

おかげでブラストファイターの活躍はラスト10分ぐらいしかありません。
極端な話、終わりの10分見れば全てが終わってしまう。
敵の倒し方だってそれほどバリエーションが無いものですから。

ランベルト・バーバ監督(クレジット名義は"ジョン・オールド Jr.")は
他に巨匠ダリオ・アルジェントの製作のもと「デモンズ」などを撮っています、
イタリアのホラー巨匠マリオ・バーバの息子なのでした。が、その才能は・・・。
音楽のセンスだけは80年代のセンチメンタル感溢れる曲が多く、結構カッコいい。
主題歌はあの「サタデー・ナイト・フィーバー」の曲で有名なビージーズの作曲。

粗製乱造された映画の一つではありますが、基本的には、
悪い奴にはこのようにロクな最期はありませんよ、悪党はこの手でぶっつぶす!
といった、実に"教育によろしい"映画ですが、見たいですか?
見たくないですかねえ。やっぱり。僕ももう見なくて良いと思うもの。

パッケージのお陰で二重に担がれた感がありますなあ。
そのやられちまった感を味わうのがたまらないのですが(←馬鹿)。
製作過程でも売り方でも如何わしさが折り重なる本作ですが、
こういう作品が堂々と14800円(VHSの当時の標準的な価格)で出回る世の中は、
今振り返ればある意味、現代よりも良い時代かもしれませんよ。
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