埋もれた証言 「フラッシュポイント」2011年02月04日 23時47分56秒


映画・ドラマで「フラッシュポイント」と言えば、今はカナダ発の海外ドラマ
「フラッシュポイント -特殊機動隊SRU-」が出てくる。
Wikipediaで検索すればエリック・ロバーツ主演の1999年のテレビ映画が出てくるが、
今回の作品とはまた別のもの。

「フラッシュポイント」
原題:FLASHPOINT
1984年作品
監督:ウィリアム・タネン
原作:ジョージ・ラフォンテーン
音楽:タンジェリン・ドリーム

「80万ドルの紙幣と狙撃用ライフル、そして白骨化した死体・・・。
全ては、1963年のダラス、ケネディ暗殺に始まった謎!」
(パッケージ裏面より。)

壮年のローガンと若いアーニーの国境警備隊コンビがこの物語の主人公。
ローガンはパトロール中にテキサスの砂漠に埋もれたジープを掘り出す。
そこから死体と80万ドルとライフル、それに免許証が見つかった。

ローガンはアーニーに、金を持ってトンズラしようと誘いかける。
丁度、国境警備隊にはハイテク技術が導入されはじめ、
メキシコからの不法侵入者をテレビモニターで感知するシステムを見せられ、
「俺達はテレビ見るためにここにいるんじゃねえ」と不満を漏らしていたところ。
警備隊の仕事は決して甘くない。危険もあるうえに未来も見えない。
とくにローガンはベトナム帰りのドロップアウト派で、
人生は砂漠とともにただ自分が風化していくだけだった。

だが、ハイテク化にも反発し血気盛んだったアーニーはと言うと、
これはヤバイ金かもしれないと、金と運転手の素性を調査してからと保留する。
すると金はダラスで刷られ、本物の紙幣で時代は1963年のものと分かる。
1963年の金銭絡みの事件を図書館で調べていたローガンの手がふと止まる。

1963年、ケネディ暗殺。

まさか、と思う様に彼は自分の胸にしまいこみ、アーニーには黙っていた。
そこへ、このタイミングで中央からFBIのカーソンが麻薬捜査に送り込まれる。
飛行機で大量の麻薬が運び込まれるのを待ち伏せようという捕獲作戦に、
ローガンとアーニーは麻薬捜査官への協力を命じられる。

だが、カーソン達には黒い腹があり、彼らにとって密輸は"仕事の種"だった。
取締も行うがときには"適度な調整"が必要だ。
カーソンの意図的な発砲によって、飛行機は飛び立ち、
機に喰らいついたアーニーは間一髪の生命の危機に晒される。

そして軍によってジープが発掘され死体が発見されると、
警備隊の上司は急にワシントンに異動になり、
(当人は喜び一見出世に見えるが明らかに手が回されたとわかる)
後任決定までの間はカーソン達が指揮するなど明らかに
事態は徐々にローガンとアーニーを追詰めていく。

さらに、アーニーが何者かに殺される。
犯人は分からないが明らかにエージェント達によるものだった。
ローガンは砂漠で彼らと対決、テキサスの荒野に銃声が響く・・・。


メキシコ・テキサス間のキナ臭いブツとヒトの行き来。
それは現在も、映画においても虚構・史実を問わず相変わらず登場し、
昔っからこんなことが続いてるンだなと思わせる。
2007年のジョエル&イーサンコーエン監督の「ノー・カントリー」では
麻薬絡みの金のためにテキサスとメキシコ脱出を行き来し、
2010年のロバート・ロドリゲス監督「マチェーテ」もテキサスの麻薬王と
メキシコからの不法移民たちの多大なる援護射撃を得て死闘を繰広げ、
不法移民達を"狩る"ことが楽しみの悪徳自警団たちが登場する。

それらの映画から感じるのはテキサス国境付近のメキシコ隣接地帯では
大地も人々の心も渇いて無法者達が巣くうというアメリカ最果ての地という印象。
実際には砂漠の面積はテキサス州の面積の1割程度だそうだが。
たが、この映画でもひび割れて草木がまばらな大地を、
砂煙をあげて疾走するジープを空から長大な距離に渡る空撮を見ると、
その1割程度が人の心にとっては遥かに巨大なものであると思う。

太陽だけは燦燦と照りつける荒野のなか、ローガンが虚空を見つめている。
やっと手にした金とチャンスは権力の介入により友を失う代償を負う。
ベトナムでボロボロにされ、今また政治の手先が彼を追い詰めようとしていた。
ライフルを天に掲げ彼は叫ぶ。バックにケネディ暗殺の記事が重なる。

「だれなんだ!」

ケネディがベトナムから早期撤退を本当に行うつもりだったかは分からない。
だが、仮にローガンはそれを信じていたとしよう。
それならケネディが殺された結果、ベトナム戦争が長期化し、
ローガンがその後の政権に懐疑的になったとしたなら、
「(ケネディを撃ったのは)だれなんだ!」と叫んだのではないか。
この映画にもそんな、ベトナムの傷跡めいたものがローガンの背中に付き纏う。

ローガン役のクリス・クリストファーソンはトップクラスのカントリー歌手で
「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」や「スター誕生」などが有名。
僕などはセガールおじさんの「沈黙の断崖」の悪役が思いつくなど、
俳優としては微妙な時期もあるけども、近年もコンスタントに仕事をしている。
アーニー役のトリート・ウィリアムズもB級から著名な監督作まで出演。
今年2011年は邦画「太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男-」にも出る。
演技者としては手堅い二人で悪い組合わせではない。


しかし、時代はこの作品に目を向けるには不利だったのではと思われる。
このビデオパッケージの劇画を見るに、本編とは些か趣きを異にする。
髭面と若者の野郎二人が銃を持って背中を預けあうこの画。
ベトナム帰還兵の哀しみとテキサス砂漠の政治ミステリーというよりは、
危ない野郎共・女には優しさを・悪党には鉛玉を、という空気ではないか。

1978年の「ディアハンター」の頃ならばまだ違ったかもしれないが、
1982年の「ランボー」によって、ベトナムの哀しみの描写も変わりつつあった。
ガンを振り回すならば、1984年の「ターミネーター」と1985年の「コマンドー」、
つまりはスタローン&シュワ兄貴の筋肉ダルマ戦争が勃発していた時代で、
他の作品も続けとムッキムキ野郎が荒野で都市で雄叫びと硝煙を上げていた。
あるいは都会派刑事のバディものの様なシャレたセンスに暑苦しい友情か。

それがだだっ広い荒野でしょぼくれ男二人が言葉少なに歩き回り、
心情を吐露して回った果てに一人は殺され一人は小戦争を・・・
という具合ではジープと同じく埃を被ってしまうこと否めない。
パッケージの劇画はそのあたり売込のためのギリギリ試行錯誤を匂わせる。

しかしながら、今見かえすと妙に味わい深い「フラッシュポイント」。
時代遅れの二人が権力に抗う孤独な戦いを見ていると、
テキサスの景色も相俟ってふと、西部劇を思い起こさせてしまう。
わざわざ一人ずつ二台のジープで併走するのも馬を並べているのに近い。
殺されても住処を追われても西部の男の魂は死なない。
せめて僕の中では埋もれない様にときどき埃を掃っておきたい。
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