静流河深

さて、2010年に公開された映画「トロン: レガシー」は
1982年の「トロン」の続編であります。

　■「トロン: レガシー」公式サイト
　　http://www.disney.co.jp/tron/

冒頭で前作の主人公、ジェフ・ブリッジスが演じるケヴィン・フリンが登場。
彼の息子のサム・フリンに「トロン」での冒険譚を話して聞かせます。
息子はまだそれをおとぎ話としか思っていません。

「トロン」の一件でエンコム社のＣＥＯに就いた彼はやがて突然失踪する。
成長したサムはエンコムの代表たる資格を持っていたものの、
父に捨てられたと感じており、父の会社の経営からは離れていた。
しかし失踪から20年後、唐突に父からのメッセージを得た友人・アランが
(かつての監視プログラム「トロン」を書き込んだユーザー！)
サムに父を探すように助言をもたらす。

父を探すサムは、かつて父の経営していたゲームセンターに辿りつき、
その片隅で埃を被った「トロン」のゲーム筐体を発見。
そこに隠された部屋からコンピュータの電脳空間「グリッド」に入り込む。

父の言った、プログラムが人間の様に行動する電子の世界は本当だった。
サムはその世界で、行方不明になっていた父・ケヴィンと再会、
また、ケヴィンの姿をしたプログラムが世界の支配者として君臨していた。
そしてサムを助ける女性の姿をしたプログラムが現れ･･･。

物語は父と子、秘密を持った女性という新しい要素が加わっていますが、
基本的には、「主人公は突然に電脳空間に引きずりこまれる」
「その世界のゲームに強制参加させられ、その中で逃亡を図る」
「世界の真相に迫り、その支配者へ反旗を翻し、人間界への脱出を図る」
という前作、「トロン」の基本的なプロットをリファインしたものといえ、
そこかしこに、おそらく前作ではこう表現したかったのだろうなあと、
現在の技術力で描き出した同じ様なシチュエーションが登場します。

旧作では宇宙服の様なスーツに俳優の顔をはめ込んだ外見だったプログラムは、
今回は全身黒で体のラインがくっきり現れるスーツに光のラインが走るという
デザインになり、やや無機質さを感じさせる"人間"という印象になります。
前作のＭＣＰはコンピュータグラフィックスで描かれた巨大な顔の映像でしたが、
今回の支配者は、ケヴィンそっくりの顔を持つ"クルー"といい、人間の外見。
（ちなみに、クルーとは前作で最初にケヴィンが使用した侵入プログラムで、
ＭＣＰにより強制排除されてしまう、つまりver.1は消滅してる。）

これは前作の「トロン」では、擬人化されたものはあくまでプログラム、
という"記号"的表現としての人間の外見だったものが、今作では
電子の"生命体"であるがゆえの人間的外見を成しているのであると、
人間の"アバター"として電脳世界に存在しているのではない、
彼らはその世界の住人であり生命という設定を補強するものだと思います。

ケヴィンの説明によれば、「グリッド」世界の住人たちはどこからともなく現れ、
自己増殖と自己進化を備えた、新たな概念の生命体であるという。

この様な世界設定に免疫の無い人には理解し難い概念かもしれません。
生命とは肉体と共にあり、物理的に存在するものでなければならない、
という固定観念からは逃れなければケヴィンが熱っぽく語る意味はわからない。

宗教的なものではありませんが、肉体を持たない生命の観念は、
ＳＦの世界とはしばしば良い相性で語られます。

僕などは相も変わらずマイナーな例しか思い浮かばずに申し訳ありませんが、
「ウルトラマンパワード」における三面怪人ダダの設定がやはり、
物理的な肉体を持たないコンピュータ上の生命体として描かれていました。

僕は当初、今回も登場するトロンとアランの関係の薄さに憤慨したものですが、
既にグリッド空間のプログラム達がユーザーを離れた自律的存在に目覚め、
独自の進化を遂げようとしているのならば、もはや二者を関連して描くことはなく、
距離をとったかたちになるのも致し方なく必然なのかもしれません。

映像デザインに関しては、前作よりも洗練された感がありますが、
旧作は1982年から未来を見つめていたデザインだったのに対し、
今回は1982年時点のデザインに立脚していることが異なると思います。
すなわち、「レガシー」のデザインはある意味では過去のデザインに
引きずられていたと言えなくもありません。

世界観を共有する続編であるために当然ではあるのですが、
旧作がその未来感覚ゆえに今なお味わいぶかいものであるのに対し、
「レガシー」が約30年後にどう映るかは今後の世の発展次第ですが、
そのデザインが後の世に"チープ"なデザインとなり"レガシー"にならぬ様に。