名誉2007年03月06日 22時32分14秒

今週はレンタルDVDが無いので
先頃の米国アカデミー賞の話をしましょうか。
主な受賞結果は以下の通り

作品賞:「ディパーテッド」
監督賞:マーティン・スコセッシ   「ディパーテッド」
主演男優賞:フォレスト・ウィテカー 「ラストキング・オブ・スコットランド」
主演女優賞:ヘレン・ミレン      「クィーン」
助演男優賞:アラン・アーキン    「リトル・ミス・シャンシャイン」
助演女優賞:ジェニファー・ハドソン 「ドリームガールズ」


注目はやはり作品賞でしたが、ノミネートは以下の5つ。
「バベル」
「硫黄島からの手紙」
「ディパーテッド」
「リトル・ミス・サンシャイン」
「クィーン」

「バベル」「クィーン」についてはまだ日本未公開のため、
正確な評価はできないのですが、残り3作品でも私は今回の結果は否!
日本人贔屓を抜きにしても「硫黄島からの手紙」の質は
「ディパーテッド」を凌駕しているはず。
「リトル・ミス・サンシャイン」が取れば喝采であります。

思うに今回は消去法の感があります。
「硫黄島からの手紙」は日本人の映画、
「バベル」は外国人監督で難解感が漂う。
「リトル・ミス・サンシャイン」「クィーン」はミニシアタータイプ。
では大作でネームバリューもあってさらに実績のスコセッシ?

中身に詰まっている餡子は一番少ない気がするのですが。

栄誉ある「アメリカの!」アカデミー賞という
面目を保つための苦渋の選択か!
苦渋ならまだ良いのですが。

スコセッシ本人も最初は断ろうと思ったと発言している作品。
さすがにやるからには本気で取り組んだでしょうが
なんとなく職業監督作品の香が漂わなくもありません。
さらに5回目のノミネートゆえ、もうそろそろという感があって、
温情の雰囲気も無くはなく、スコセッシの心中いかに?


それに私としてはノミネートされなかった
「ユナイテッド93」はもったいないと思います。
監督賞ではノミネートされていますが実にもったいない。

それ以外は概ね納得の方々。
でも助演男優はエディ・マーフィ、
主演女優はジュディ・デンチの方が私の好みでした。
特にエディなんてこの先はチャンスは少ないと思いますし。
今回もブラックパワーは勢いがありました。

ところで日本アカデミー賞の結果は久々に良い結果でした。
でもキネマ旬報ベストをなぞったような結果なんですな。
一致した見解と言えばそれまですが・・・。

無力と罪悪2007年03月07日 21時50分32秒

1994年のルワンダ大虐殺を描いた「ルワンダの涙」を鑑賞。

<物語>
1994年4月6日夜。フツ族出身大統領の飛行機墜落死が引き金となり、
フツ族の民兵によるツチ族の虐殺が始まった。
首都キガリの公立技術専門学校には白人カトリック教徒の
クリストファー神父が中心となり、ツチ族を匿っていた。
そこには国連軍が常駐しており彼らがいる限りは
フツ族も侵入できなかった。
しかし、国連軍も自衛以外に命令が無い限り
フツ族を止められない無力な存在だったのである。


ルワンダ大虐殺を題材にした映画と言えば昨年公開の
「ホテル・ルワンダ」が記憶に新しいです。
監督の発言からは対抗意識が感じられますが、
二つの作品は同じ事実ながら視点が異なります。

本作は英国からの海外青年協力隊の白人英語教師ジョーの視点で
描かれ、凄惨な虐殺がこれでもかと描かれます。
「作業開始」の号令で開始される暴行。
赤子を抱えた女性が容赦なくナタで殺される様は見るに耐えません。
一箇所に匿うというのは「ホテル~」も同じですが、
本作は知恵と勇気で立ち向う普通の英雄ではなく、
頼りない国連軍とカトリックの信仰だけしかない無力さしかありません。


全体に漂うのは何も出来ない無力感と、
国連軍と白人と傍観者が感じる罪悪感です。
実際に事件を取材して何も出来なかった罪悪感に苛まれた
BBC記者が映画化しただけあります。

参加した撮影スタッフは実際の虐殺で家族親類を殺された人々だと
エンドクレジットで写真とともに明かされます。
その写真がカメラに微笑んでいるのが心に突き刺さります。
笑っていられるわけがないはずなのに。

最後に流れる実際の国連の「虐殺ではない」という発言。
言葉の定義を論じる以前の問題です。
それを我々は憤りつつも無力感だけが残ります。
トラックで学校を去る時のジョーの瞳と
平和なイギリスの学校風景は虐殺以上に我々の罪を感じます。
一人、現れた生還者マリーの瞳だけは強い意志に満ちています。

このラストは心に刻み付けなければなりません。

ドリームス2007年03月09日 22時17分29秒

夏目漱石原作の小説「夢十夜」の
オムニバス映画化「ユメ十夜」を鑑賞。

<構成>
十篇の短編をベテランから若手まで11人の監督で映像化。
プロローグ&エピローグは清水厚監督。()内は主な監督作。
第一夜:実相寺昭雄      (帝都物語)
第二夜:市川昆         (犬神家の一族)
第三夜:清水崇         (呪怨)
第四夜:清水厚         (蛇女)
第五夜:豊島圭介        (宇宙の法則)
第六夜:松尾スズキ       (恋の門)
第七夜:天野喜孝・河原真明  
第八夜:山下敦弘        (リンダリンダリンダ)
第九夜:西川美和        (ゆれる)
第十夜:山口雄大        (魁!クロマティ高校)

天野喜孝は言わずと知れたデザイナー。ファイナルファンタジー等。


ベテランは手堅く自分のスタイルで原作を包み込み、
若手は原作を破壊し再構築する、と別れた感があります。
それをバランスが悪いととるかバラエティに富むと見るか。

松尾スズキの作品は一番好きです。
普段はクセのある俳優ですが、やはり感性が突出しています。
現代風過ぎるダンスアレンジと、ネット文体のセリフ、
何故か英語の字幕など現代の奇妙な文化の多用が見事。
芯をだけを残してここまでやると清清しい。

逆に天野喜孝・河原真明作品は?。
完全にファイナルファンタジー等のスタイルになり
粉々に粉砕されてしまった感があります。
これが清清しくないのはFFというよく似たものがあるせいでしょうか。

市川崑は観客が期待するスタイルを判を押して見せたようなものかと。
あの明朝体スタイルから開始、さらに面白いのは
岩井俊二の「市川崑物語」を彷彿させる構成であること。
巨匠の遊び心が見られるこれも好きな作品です。

一番安心して見られるのは実相寺昭雄と清水崇だと思います。
ちょっと不思議な話の再現には丁度良い収まり具合です。

最近このような複数監督のオムニバスがよくあります。
その中で長編より唸るものもあれば肩透かしもありますが、
立て続けに様々なスタイルが見られるのは単純に面白いです。

ただ、一本一本は面白いですがまとめて長編にした時に
プロローグからエピローグまで美しい流れになるか否か。
それぞれが好きに撮るのも良いですが、ある程度の制約と
編集の仕方で全体を形作るのも重要かと思います。
Loading