この夏、一番幸福な映画 ~ サマーウォーズ2009年08月03日 23時12分24秒

なんという幸福な映画に出会ってしまったのでしょう。

公開2日前まで全くノーチェックだったというのに。
たまたま、キネマ旬報の記事を読んでいて監督があの
時をかける少女」(アニメ版)の細田守監督というのが、
目に止まり、ヒロインの声優が桜庭ななみというので「ほう」
と思って第一印象も悪く無さそうだからと軽い気持ちで見たのに。


この夏どころか、ここ数年観たアニメの中でぶっちぎり、いや、
実写映画でもなかなか味わえない様な幸福感に包まれてしまった!


物語は、2010年の夏。ほぼ現代といって差し支えない時代。
この世界はインターネット上の仮想世界「OZ(オズ)」が
人々の生活を支えており、コミュニケーションやショッピング、
金融決済や電気・ガス・水道等のライフライン管理も
OZと密接にかかわりをもっており、パソコン・携帯電話の他、
ニンテンドーDSなどからもアクセスが可能な、
まさにOZは生活と世界と一体になっている生活必需ツール。

主人公・健二はOZの末端メンテのバイトを行う高校2年生。
大人しいが、数学力は数学オリンピック候補になるほど。
その夏、憧れの夏希先輩から祖母の田舎への帰省に付きあう
バイトに誘われるが、なんと婚約者のふりをしてくれと頼まれる。

夏希の実家は戦国時代の武将の血を受け継ぐ屈指の名家・陣内家。
大勢の親戚達に囲まれて生きたここちのしない健二だが、
聡明な祖母・栄は彼の人柄と夏希の嘘を見抜き、健二を認める。

だが、健二の携帯に送られてきた謎の暗号を健二が興味本位で
解明しOZに送信すると、翌朝、世界はパニックになっていた。
解かれた暗号によってOZの中枢がハッキングを受けて破壊され、
OZと繋がるライフラインも未曾有の危機に陥り現実世界も混乱。
挙句に健二はサイバーテロの容疑者として報道されてしまう。

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桜庭ななみの配役で「ほう」と言ったものの、
実際に私の心を打ったのは、90歳になる栄祖母ちゃんを演じる、
富司純子に他なりません。
OZの不具合による現実世界の混乱に対して、祖母ちゃんは
手帳を取り出し電話で政財界の関係各所へ激を飛ばす。
実はこの祖母ちゃん、知事褒章を受章する人徳と人脈の持ち主の
スーパー祖母ちゃんでその活躍で混乱を鎮めてしまいます。

分厚いアドレス帳、無数の手紙と写真、
それがお祖母ちゃんの生きてきた歴史であり、培ってきた絆。
その凛とした姿勢、人間の真価を見抜く目、毅然とした態度。
それでいて、物腰は柔らかく優しさに満ち、茶目っ気もある。
嘘も偽りもなくただ誠実な人で、他人との絆を重んじる。
そして、その奥に強さがある。私はそんな女性に憧れる。

こんな素敵な女性だからこそ、人脈を築いて来れたのでしょう。
田舎に引っ込んでいる老人でも、人間性に惹かれれば人が動く。

まるで、富司純子が藤純子だった頃、緋牡丹のお竜の
その後を観ているかの様で、富司純子そのもの。
栄祖母ちゃんに見事に魂を吹き込み、
その言葉の一つ一つが確かに胸を打ちます。


ここで終わると、これまで数多の管理社会モノが描いてきた、
近未来ネットワークに頼りきった人間の脆さと、
アナログと人間自身そのものの心の繋がり、を湛えて終わり。
ですが、この作品はそれがほんの前哨戦。
そこから、ある事件をきっかけに大家族の逆襲が始まります。

敵の正体はハッキングAI・ラブマシーン。
それを駆逐するまでは闘いは終わらない。
AIはOZに登録した人々のアカウントを侵食し権限を広げ、
遂に現実世界への実質的な破壊活動を可能とします。
これを阻止するための、健二と陣内家の活躍が超絶的に面白い。

敵がAIだけにコンピュータ上の闘いとなる、
その戦闘方法は「アバター」による格闘ゲームさながらのバトル。
負けたらアカウントを奪われて終わり。
そのために大画面モニターやらスパコンやらが用意される。
果てはイカ釣り漁船やら自衛隊の通信車やら・・・。
日常をリアルに描きながら、大胆な演出も忘れず心地よい。
「それはそれ、これはこれ」なのです。

格闘技のゲームチャンプ・カズマが敵を追い詰め、
陣内家が一丸となり、侘助おじさんがサポートしつつ、
夏希がラブマシーンに挑むアカウントを賭けたゲーム、
(そのゲーム勝負はお祖母ちゃん直伝の花札!)
そして、土壇場での健二の天才的な超高速暗号解読!

これで決めたらこの人物の存在が薄い・・・などということが無い。
一人が活躍したらまた別の人間が活躍する、という拮抗が良い。
カズマのアバター、キング・カズマのシャープな鉄拳、
夏希のアバターの和装の袴姿から放たれる凛々しさ、
暗号解読のメモする時間も惜しい健二が気が触れたように
キーボードを押す様に「暗算・・・ッ!!」と絶句する一同。
そのどこまでも高まる昂揚感に私も陣内家の一員として、
アカウントを提供した名も無き一般人になりきっていました。


この作品は、電子ネットワークの危険性を物語にしつつも、
同時にそのネットワークが生む良い面も描きます。
ポイントはその距離感が絶妙だということ。
「電車男」などは良い面だけが強調されてるからうそ臭く、
「誰も守ってくれない」などは悪い面が強調されて可能性を潰す。
対して本作が見つめる電子ネットワークは、
得体の知れない怖さと、とにかく持っていたい希望と、
その二つをはっきり括らずに、素直にそのまま描くのが良い。
黒々と禍々しく膨らんだラブマシーンの背中に
白い天使の羽(OZ中枢部の意匠の名残)があるのを見たとき、
電子ネットワークの恐怖と希望が同居していると感じました。

その仮想世界OZに対して、陣内家の夏の風景が
木の温もりや木々の緑、夏の空気感が丁寧に美しく描かれます。
しかし、それもまた古き良きものへの後ろ向きな懐古ではなく、
電子社会と繋がっているのだと、諦めではない肯定が素晴らしい。
だから、説教臭くも無く、古いモノも新しいモノも、
訳隔てなく「ああ・・・素晴らしい」と素直に心に入り込んで来る。

過去が現在へ、現在が未来へと繋がり、人と人の心が繋がり、
友人が恋人が家族が、出会った人々やあかの他人までもが繋がる。
その贅沢な奇跡が余すとこなく溢れる様に涙が止めどなく・・・。



しかし、この作品の本当の素晴らしさは生活描写が細かいとか、
キャラクターの造形とか、アニメのデザイン技法でも無く、
物語の構成でも作劇法でもありません。
小難しい理屈ではなく、ただただ、鑑賞後の圧倒的な幸福感!!

過去も今現在に抱える問題も、全てを吹っ飛ばして
未来に希望はあると根拠も無く確信してしまうほどの幸福感。

夜11時、鑑賞して愛車を駆って家に帰る途中、
私はかつて感じたことの無い幸福感と昂揚感に満たされ、
そのあまり、仙台西道路の入口を間違えて
危うく道路を逆走しかけたほどです。
運転中に終始、歌を歌いまくり、途中で
「いかん、血管が切れそうだ」と本気で気を静めたほど。


人それぞれ個人差はありましょう。
しかし、この夏、どのアニメよりもどの映画よりもまずは、
お勧めしたい映画であることは間違いありません。

この一本、私は全てを吹っ切った。

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