古きものとの決別 ~ ディス・イズ・イングランド2009年08月02日 23時49分09秒

連日お届けしてきたシリーズ・「チネ・ラヴィータ一時閉館」。
~あのビルから映画館が消える~

BSでは○月○日、総合では(以下略)


最後の作品はイギリス映画、
ディス・イズ・イングランド」でした。


1980年代のイギリス・ミッドランド地方の町。
12歳の少年・ショーンはフォークランド紛争で父を亡くし、
母子家庭で育ったが、周囲に溶け込めず、
経済的にも余裕はなかったため、塞ぎこんでいた。
ある時、ショーンは不良グループのウディと仲良くなり、
スキンヘッドにベンシャーマンのシャツを贈られ、
彼らの仲間入りを果たし、度胸と自信を身に付けていく。

だが、ウディの昔の兄貴分のコンボが刑務所から出所し、
ウディ達を国民戦線へ勧誘しはじめたときから、
仲間達の信頼と絆に亀裂が入り始めるのだった。


周囲からは不良どもと蔑まれてはいるものの、
彼らなりにお互いを信頼しあい、義兄弟関係を築き、
将来の展望はないものの上手く付き合っているコミュニティ。

そこへ、忘れ去った過去からの亡霊が乱入してきて、
徐々に彼らの運命を引き裂いていく・・・。
日本のヤンキー映画、ヤクザ映画などでも
よく描かれるパターンですが、「ディス・イズ・イングランド」は
その中で、イギリスが抱える悩みを描いている様に感じます。


昔、新聞の天声人語だかそれに類するコラムで、
現代のイギリスにおいても、大英帝国時代の栄光を持ち出し、
わが国はかつて世界の5分の1を支配していたんだ、
などと言い出す人がいるらしいと読んだことがあります。

パリジェンヌ達においても自分達が文化の中心だとか、
どこの国や街でもそれなりに歴史に根付いた誇りを持っていて、
そのルーツを誇らしく思うのはいいですが、
その過去にすがりついていこうとすると怪しげなものになります。

ウディ達は大英帝国の大昔の威厳を鼓舞する国民戦線を
ハナから相手にせず、コンボと袂を別って行きますが、
ショーンはそこに自分の生きる道を見出そうとします。

しかし、やってることといえばパキスタン人を差別し、
彼らの経営する店から強盗しているぐらい。
タチの悪いギャングと変わらないわけです。
(タチの良いギャングがいるかは知りませんが・・・)

時代錯誤で考えの浅い乱暴なコンボですが、
彼はウディの彼女のロルにかつてから好意を寄せており、
その気持ちを伝えようとしますが、当然に訣別となります。
ですが、私達は見てしまう。彼がその時流す涙に、
微かな温かさと情が通っていることを。
この男も、道を狂わせられなければ・・・と思えるほどに。


やがてコンボの暴走が始まり、慕っていたショーンも、
その信頼が崩れていき、コミュニティは崩壊していきます。
解放され、母の下へ帰ったショーンは、
海辺で彼が掲げていた旗を海に投げ捨てる。
強く遠くを睨んだ瞳、きつく結んだ唇。
それは、過去に縛られ黴の生えたイギリス的思考を捨て、
新しい未来を自ら築き上げていく決意ではないでしょうか。
その姿はイギリス人がイギリスに求める姿勢かもしれません。


古きものに別れを告げ、新しき時代に歩きだす。
映画館の閉館と移転への幕を下ろすのに、
そんな意味を込めたのではないでしょうか。


このショーンを演じるトーマス・ターグースという少年。
かなり小柄ですが、キッと相手を睨んだり、
兄貴との絆を重んじる故に葛藤する時の表情が良い。

その表情がまるで、「プリズン・ブレイク」の主人公、
ウェントワース・ミラーが演じるマイケル・スコフィールド
がそんな表情をすると印象がそっくり!
これは将来楽しみな俳優になるかも?

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