追悼・緒方拳さん2008年10月10日 23時53分43秒

ポール・ニューマンの訃報を先日書いたばかりですが、
日本の名優、緒方拳さんまでも亡くなりました。
享年71歳。

緒方拳さんと言えば最近は穏やかな笑みを浮かべた
温厚なお祖父さんというイメージですが、
もっと数十年前は荒々しい役どころが印象深い人でした。

代表作を一度に振り返りきることは難しいですが、
私が印象深いのはまず、今村昌平監督作「復讐するは我にあり」。
キリスト教徒の父の元に生まれた詐欺師であり
5人の人間を殺した鬼気迫る迫力の連続殺人犯を演じ、
その少し前、不朽の名作「砂の器」では出番は僅かながらも、
加藤剛演じる犯人に、養父である自分の親としての
愛情を滲ませながら実の父親と息子(犯人)を巡り合せようという
想いを猛るようにぶつけ鮮烈な印象を刻みました。

女優の誰かが行っていましたが、
俳優として芽が出る前はボロアパートで
情熱だけを糧に奮闘していたと。
その情熱を裏付けるように役作りの上では妥協がなかった様で、
相米慎二監督作「魚影の群れ」で演じた青森大間のマグロ漁師は、
実際にそこで生活するようにマグロ漁に同行し、
地元の人からもう立派な漁師と評されるほどだったそうです。
この作品では娘役で夏目雅子と共演。

晩年の秀作「長い散歩」。
それまでの俳優・緒方拳の歩みが滲み出るような、
皺に歴史を刻んだようなピュアな作品。

若い頃に家族に厳しくあたったことを悔やむ老人・緒方拳は
終の棲家に薄汚れた安アパートを選ぶ。
その隣室にはどうやら虐待を受けているらしい少女がいる。
老人は贖罪の思いからか少女の手を取り遠い土地へ旅に出る。
それはまるで居場所の無い老人と少女の死出の旅の様だった。
だが、老人は終着の地で少女の生を実感、生きる決意をする。
老人は少女を誘拐したことになっているから警察に自首をする。
駅で少女を抱きしめ泣き崩れる老人。
時が流れ、老人は刑務所を出る。
ゆっくりと前に進む老人の後ろ姿をカメラはいつまでも写す。
老人は少女に会いにゆくのだろうか。
刑務所の中から手紙をだしていたのだろうか。
エンドロールが重なる。
バックにはUAがカバーした井上陽水の「傘が無い」が流れる。
とめどなく溢れる涙に滲んでよく見えませんでした。

「長い散歩」はベテラン俳優・奥田瑛二監督作。
2006年のモントリオール映画祭でグランプリを受賞。
キャシー・ベイツをして「魂の映画」と評されました。


最後に、緒方拳さんはドラえもんが好きでした。
トリビアの泉や徹子の部屋でも紹介されたエピソード。
純粋に姿かたち、佇まいに惹かれていたようで、
妹がいることもネコ型ロボットということも知らなかった様子。
心温まるエピソード。

心からご冥福をお祈りいたします。


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