彫像に宿った奇跡 ~ セントアンナの奇跡2009年08月13日 23時24分38秒

スパイク・リー監督最新作
セントアンナの奇跡」についてのこと。


<物語>
1983年のNYにて、郵便局員が窓口に切手を買いに来た男を射殺。
局員はすぐさま逮捕されたが、彼の経歴は至って綺麗で、
とても人を殺すような男には見えなかった。
さらに謎めいていたのは男の部屋のクローゼットより、
第二次大戦中にナチスが爆破したイタリアのフィレンツェの
サンタ・トリニータ橋の装飾"プリマヴェーラ"の彫像の頭部が
発見され、美術館級の品だとわかったことだった。

局員は語りだす。1944年のイタリア・トスカーナでの戦いを。
4人の黒人兵士と一人の少年が潜った戦火の記憶を。
そして、時を同じくして、局員の逮捕を新聞で知った、
あるイタリア系紳士が動き出していた。

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第二次世界大戦中の北部イタリアに派遣された、
黒人だけで編成された実在の部隊「バッファロー・ソルジャー」の
4人の黒人兵士と現地で保護した少年が、
ナチスに怯える現地の村人達を守りながら交流していく物語。

アメリカ軍隊内でも黒人兵士は対等な扱いを受けられず、
駒として消耗されるのみで、ドイツ軍の撹乱放送でも罵倒される。
その実力も認めてもらえず、爆撃座標を通信で伝えても、
指揮官には信用されずに味方がいるポイントを味方に爆撃される。
国に帰っても彼らが英雄として扱われる可能性は無い。

しかし、迷い込んだ村の村人達は黒人兵士達を祭りの様に歓迎し、
心を通わせ自由を実感するようになっていく。


メディア報道によると昨年のカンヌ映画祭にて、
スパイク・リーがクリント・イーストウッドの
「父親たちの星条旗」に対して黒人が一人も出演していない
ことを理由にして批難を飛ばしたとあり、互いに
メディアを通じて論戦を交えたと言います。

「セントアンナの奇跡」が「父親たちの星条旗」に対する
リーの回答かどうかの真意は定かではありませんが、
その後の報道によるとリーは、論戦を交えた頃には既に
撮影は終了しており、そのような意図はないと語ったとのこと。

しかし、論戦以前の報道にて、硫黄島戦に参加した黒人兵士が
クリントの作品に黒人兵士が描かれていないことに傷ついている、
というような言を述べており、それが「セントアンナの奇跡」の
監督に決定したタイミングで発せられていることもあり、
心に思うものは少なからずあったのではないかと思います。

とはいえ、これらの一件のリーの発言が真実だとすると
どうも的を射ているとは思えず、らしくないことだと思います。
私にとっては清純派アイドルがクスリの常習者だったなどという
ニュースよりも余程、どうしちゃったの?と感じるのでした。


ともかく、そんな一件が頭にあって鑑賞したものですから、
少なからずそういう目で観てしまうことを逃れえません。
物語の主役たちの人数にしても4人の兵士と、
規模も似通っているようにすら感じてしまいます。

作品の視点は今回もというよりも久々の感がありますが、
人種差別と戦うために戻ってきたぞ!という印象が強いです。
ただ、ややリーの視点に変化が見られるように思えるのは、
タイトルに示されるように「奇跡」という温かな視点が
痛烈な視点の先に見られるようになったという点です。
意外な場面で登場する、ナチス側の人道的な将校を初め、
そして"プリマヴェーラ"に象徴される奇跡。

4人の兵士の一人、トレインが肌身離さず腰にぶら下げていた、
守り神としての彫像、それは時を越えて現代に帰還し、
郵便局員となっていたネグロンに受け継がれ、
成長した少年・アンジェロに事件のことを知らせる役目を果たす。
果たして、新聞に彫像のことが載らなければ、
アンジェロは事件に気づいたでしょうか?
やはりそれは"なんらかの力"が働いていたとしか思えません。


当初はウェズリー・スナイプスなど、
日本でも知られた大物がキャスティングされていたそうですが、
最終的には黒人兵士役の4人は代表作が瞬時に思いつかない面々。
インサイド・マン」から大きく対極に振れたという印象です。

デレク・ルークですら「アントワン・フィッシャー」を
思い出すのはかなりしんどい。
しかしながら、長尺の中で丹念に彼らを追っていくにつれ、
マイケル・イーリー(ビショップ)がドン・チードルに、
ラズ・アロンソ(ネグロン)がジェレミー・フォックスに、
オマー・ベンソン・ミラー(トレイン)がフォレスト・ウィテカーに
見えてきてしまうのは、やはりスパイク・リーの演出の賜物かも。

ところで、スパイク・リーは本作のイタリア人スタッフとの
言葉の通じない撮影を振り返って以下の様に語っているそうです。
「人は不安から自分勝手に他人との間に障害を作ってしまうだろ?
それが間違いなんだと気付かされた撮影だったな。」

リー監督、その障害がイーストウッドに対しても
うっかり出てしまったのではないでしょうか。
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