リアルな偽物2008年12月18日 23時29分28秒

ベン・ステイラー&ジャック・ブラック&ロバート・ダウニー・Jr.共演、
「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」についてのこと。

<物語>
ダグ・スピードマン。「スコーチャー」シリーズで
世界的なアクションスターへ躍進するも現在のキャリアは崖っぷち。
ジェフ・ポートノイ。オナラを自在に出せるというだけの、
下品な芸風で「ファッティーズ」をヒットさせたコメディアン。
カーク・ラザラス。オスカーを5度も受賞した演技派俳優。
役を自身に憑依させるといわれるほどの役者バカ。
彼らが共演する、ジョン・”フォーリーフ”・ティバック原作の
ベトナム戦争回顧録の映画化で史上最大の戦争映画と宣言された、
「トロッピックサンダー」は役者達の勝手など様々なトラブルにより、
予算オーバーで撮影中止の危機に追い込まれていた。
そこでティバックは監督をたきつけて、
役者を本物の死の恐怖に追い込むべく、
リアルな撮影と称して東南アジアのジャングルへ突き落とす。
そこは本物の麻薬製造組織が支配する本当の戦場だった。


P-12だったかで、ちょっと悪趣味なギャグもあって、
他に観に行った人の感想だと、死んだ監督の生首を
よく出来た作り物だと言って舐めてみせるところでひいてしまった、
とか聞きましたが、眉間に皺寄せることなく楽しめる作品でした。
楽しめながらも、考え始めるといろいろ掘下げてしまいます。
それは即ち、予告編やチラシから想像するような、
タダのバカ映画で終わらせるには勿体ない作品だと思えること。

史上最高のリアルな映像を追い求めるために、
本物の戦場に、役者バカな役者達を追い込む
映画内映画の「トロピックサンダー」。
しかしながら当然、「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」は
作り物映画なので、本物に限りなく近い偽物で撮影する。
そんな対立構造を考えるほどに楽しくなります。

3人の役者達のプロフィールにも拘り、
タランティーノ&ロドリゲスの「グラインドハウス」連作での
フェイク予告編よろしく、本作でもそれぞれの役者の出演映画の
予告編「スコーチャー」「ファッティーズ」「悪魔の小路」が
冒頭に収録されて、バカを大真面目にやる姿勢が楽しい。

一方で、昨今のハリウッド、またそれ以外でもリアルなリサーチや
各々のディティール考証が年を追うごと過熱しているように思えます。
リアルなディティールはまるで現地の空気を感じるような錯覚を覚え、
問題提起を促す社会派映画では確実に力を発揮する一方、
どんどん現実のコピーに近づく映画は、同時にイマジネーションを
縮小していく可能性もあるように思えます。
それの一端が、最初にやった者勝ちで続く作品が
新鮮さを見出すのが難しい、擬似ドキュメンタリー手法、
手持ちカメラによる主観映像などではないでしょうか。
そんなにリアルに撮りたければ、本物の戦場へ行っちまえ!
と、本作は暗に語っているように感じます。

また、「トロピックサンダー」には実に多くのカメオ出演が多く、
これを探すだけでも楽しいものです。
最近初めて聞いたのですが、ベン・ステイラーを中心とした
主にコメディ畑の俳優・監督コネクションを「フラット・パック」と
呼んで様々なメンバーが協力して作品を制作しているのだとか。
過去に見た「スクール・オブ・ロック」「俺たちフィギュアスケーター」
などもフラットパック作品なのだそうです。

このフラットパック相関関係が実に面白いのですが、今回はやはり、
豪腕プロデューサー役で出演している大物スターとの人脈が凄い。
ハゲ頭に眼鏡で口汚く罵る役で最後に久しぶりのダンスを披露。
名前は作品を観てのお楽しみですが、意外な役にも関わらず、
アクターズ・スタジオ・インタビュー等で垣間見える素顔の、
彼の豪快な笑い方を思い起こすに、やはり彼の側面だと思います。


一つ注文をつけるとすれば、スピードマンとラザラスの二人に、
演技法の違いが明確に分かる描き方をさせて欲しいこと。
例えば、演者が自分を役に投影する内面型の演技が支持される一方、
あくまで脚本と監督の指示に忠実に演じるべしという演技もまた、
支持されるものであり、時に実際に対立している場合もあるからです。
まあ、それを入れたところで、観すぎる人にしか分からないのですが。

それはそれとしてとにかく、
タダのバカ映画ではないので是非是非ご覧になってください。
これもまた映画への愛を込めた作品だと思います。
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