イメージと実体2007年11月09日 00時38分19秒

「宇宙戦艦ヤマト」を見ながら書いているこのブログですが、
エンディングテーマ「真赤なスカーフ」は屈指の名曲です。
昔は男の子向けアニメ・特撮には良作のバラードが多かったと思います。
今はあってもスマートにサラりと流すものばかり。
情感込めて「歌い上げる」バラードが欲しいものです。
子供の頃は暗い曲と思って敬遠していたんですけどね。


今回は9月上旬上映「コマンダンテ」
キューバ共和国国家評議会議長フィデル・カストロに
「プラトーン」等の映画監督オリバー・ストーンが
インタビューを挑んだドキュメンタリー。
アメリカでは公開禁止という扱いを受けるいわくつき。

<構成>
スペインのTV局スタッフの協力のもと、
フィデル・カストロの実務からプライベートまでをカメラで追い、
その合間にオリバー・ストーンがインタビューを試みるもの。
話題はチェ・ゲバラやキューバ危機、あるいは趣味、
そしてアメリカとの関係や無論キューバの未来と多岐に渡る。
撮影時間は30時間以上、一度も撮影は中断されたり
キューバ側によって検閲されることはなかった。
2006年1月にカストロが病で倒れる以前の映像である。


元々評価が分かれる監督だったものの、
最近なにかと作品・人間性ともに評判は低下している
オリバー・ストーン監督ですが、本作は興味深く鑑賞しました。

我々の思い描くキューバとはカストロとはどんなイメージでしょうか。
キューバ危機でソ連のミサイル発射台が築かれた地、
共産圏の唯一の成功例でアメリカに最も近い異分子、
革命の英雄としてファッションとしても浸透したチェ・ゲバラ、
ブエナ・ビスタ・ソシエル・クラブ、社会人野球。
アメリカ映画で時々カストロをネタに使われる、など。
もちろん最近新聞報道でカストロの容態についても報じられます。

ただカストロ自身も戦略家で演出家であるように、
特にアメリカ経由の情報は敵国だけに実像を歪めて
事実も真実も伝わらない可能性があります。

本作においてもカストロはポーズをとっているのか自然なのか、
「タイタニック」は見たというユーモアも計算なのか、
フランクな語り口と笑いの奥にあるものを読み取ることは困難ですが、
胡散臭さのようなものはそれほど感じないように思います。

マイケル・ムーアの「シッコ」でも触れられることになりますが、
キューバの人々は他国の人にももちろんアメリカ人にも
外国人間の多少の警戒心はあるでしょうか、
見えない壁はかなり低く透明に近いように感じます。

カストロの支持率の高さは現在の日本の政治家のそれに慣れてしまうと
異様とも言えるものですが、強制的に操るような
ただの独裁家とは違う人間味すら、本作からは感じてしまいます。

もう一歩あえてカストロに飲み込まれて見るならば、
カストロの何を恐れているのでしょうか。
敵、でありながら相容れない敵では無い様に思えてしまいます。
彼の膨れ上がったイメージに対して恐れていて、
人間同士、実体と実体に大差は無いのではないでしょうか。
実体に目を向ければピュアな共感を持つものの、
自ら作り出した隔たりを越えられない不器用さがあります。

何もこんな関係はアメリカ・キューバ関係に限らず、
世界のそこかしこにあるもので日本も例外ではありません。
裸の心の一人の人間同士で他愛もないことまで語り合う時、
そんな日が来れば壁は意外とサラサラと崩れるのではないでしょうか。
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