白いボール2007年11月01日 22時43分49秒

皆さんは食事するときにTVでニュースを見ますか?
私は観ません。大体食事が不味くなりますから。
食事しながらにニュースは見るな、と家訓にしたいくらいです。
「料理の最大の調味料は食卓に漂う雰囲気」が持論です。
やっぱり食事は楽しくとりたいではありませんか。


さて今夜はそんな楽しく笑えること間違いないシネマ
「100万ドルのホームラーンボール/捕った!盗られた!訴えた!」
という一風替わったテーマのドキュメンタリー。

<構成>
2001年10月7日。サンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズが
年間最多本塁打記録を更新する73号ホームランを打ち出した。
その記念のホームランボールを巡り珍騒動が起こる。
観客席でボールをキャッチしたという男が二人現われ、
双方が自分が取ったので自分のものだと主張し、
ついには訴訟へと発展して行ったのである。

何ゆえボール一つにそこまで盛り上がるのか?
それはこれまでロジャー・マリス、マーク・マグワイヤ達
スーパースターの記録付きホームランボールが
5000ドル(40年前)や270万ドルという高額がついているからである。


「本件の騒動の結末は作品を観ていない人に決して教えないでください」
とパンフレットにも記されているのでここでも触れません。

ただし、ラストで「ちょっといい話があったの」と語られるように
笑いを誘い微笑ましくなる結末ということは伝えておきましょう。

渦中の二人の男は日系人パトリック・ハヤシと白人アレックス・ポポフ。
ハヤシ氏が淡々と自分の主張を述べるのに対し、
ポポフ氏はメディアを使って世間を見方にしようとする戦略家。
ハヤシ氏の映像はあまり登場しないので、
その人となりはあまり分かりませんが、
日系人となると応援したくなるのがこちらの心情で、
どことなく愛嬌がある顔にも好感を抱きます。

一方でポポフがいかにも自分が優位に立たねば気がすまない、
という気性が顔つきに表れているようです。
ラストの目つきはよくカメラに収めた、と喝采を呼びます。
実際、映画館ではあのシーンは爆笑がわきました。
是非、あの表情は見ておきたいです。

こうしてみると、ウソもマコトもアメリカお得意の珍妙な裁判の中に
人種の違いが生む軋轢もあったのではないかと勘ぐりたくもなります。
ボールの獲得以前に、少なくともポポフ側には
あの日系人には負けられんという気があったように思います。
いつの間にかボールと意地が摩り替ったのかも知れません。
だから最後の結末を知る人にはそれぞれに感情が分かれるかも。

日本においても裁判は淡々と進むようでヒトの本性が剥き出しになる場。
たかがボールされどホームランボール。そして100万ドルの価値。
ボンズは「ボールを割って半分ずつ持て」と言いますが
あなたがキャッチしてケチをつけられたら、さて?
人間はどこまで大人になれるでしょう?


ちなみに、作中にボンズが放った1~72号までのホームラン映像が
連続で一気に流される部分があります。
これは圧巻なので是非括目して頂きたい。

いつまでも輝け2007年11月03日 22時28分02秒

どうにか新しい職場の本格始動も軌道に乗り始め、
時間にも気持ちにも余裕が出てきました。
溜っていた未鑑賞VHSやDVDを順調に消化する日々です。

そして11月の公開予定映画も決定し、
今後の劇場映画鑑賞予定を作成したところ、
いまのところ今年の、鑑賞予定映画を全て観ると計算すると、
現時点で167本になることが判明。

しかも12月公開映画はまだ未定が多いので、
あとプラス10本は増える可能性は大。
すると180本越えが現実味を帯びてきます。
もし達成すれば2日に一作の割合で映画館に通っている計算。

仙台市の映画館から感謝サービスでもしてくれないかしら。

そんなわけで今日は現在公開中「ヴィーナス」。
映画界の至宝ピーター・オゥール主演の
ユーモラスなヒューマンドラマ。

<物語>
若い頃はプレイボーイだった俳優のモーリスも
老いとともに俳優業も斜陽になり、仲間の老人達とともに
いきつけの店で愚痴や冗談を言い合う日々。
身体のあちこちにもガタがきている、いわば普通のお年寄。
そんなとき、友人のイアンの姪ジェシーが職探しに転がりこんできた。
モデル志望だが今時の若者らしくお気楽・わがままな彼女に
イアンは悲鳴をあげるが、モーリスは彼女に惹かれはじめる。


「男っていくつになっても・・・」とやれやれしょうがない人たち、
というようなコピーが書かれていますが、作品を観ている限り
モーリスは単なるプレイボーイではないように思えます。

女性に対しては崇拝に似たような思いを抱き、
女の人をどうこうしようというよりも「男は女に敵わない」と悟った上で
その神性に近づこうとしているように思えます。

もちろん若い頃はもっと節操が無かったかもしれませんし、
そんな日々を駆け抜けた末に悟りに達したかもしれません。
いづれにせよ、今のモーリスは少なくとも
エロジジイと罵倒される筋合いはないと思います。

ジェシーとのかけあいを観ていても嫌らしさを感じることはありません。
熟練のイギリス紳士の巧みなユーモア交えた
シャレた大人の語らいのようです。
遊び、と言っては失礼に聞こえるかもしれませんが、
それを互いに了解しあう古き社交界の雰囲気が感じられます。

そんな大人の恋のかけひきというのが
映画の中で輝いていた時代がかつてありました。
ピーター・オトゥールが登場したのはその後期だったと思いますが、
銀幕のスター達の残り香のような熟成された演技を見せられたと思います。

これはオトゥールに捧げる作品として撮られたということですが、
例えば年齢を重ねてもうら若き女性との共演が絵になる紳士
マイケル・ケインなどを配役しても失敗はしないにしろ、
全く違う雰囲気になったことでしょう。
一人の俳優と作品が一体となる存在は確かにあります。

海辺で眠りにつくシーンはただひたすらに美しい。
そういえば曇天の多いイギリスの風景から
あのシーンは光も一気に明るくなります。
「海で死ぬなんて最高じゃない?」
まさにその通り。天から与えられた贈り物か自ら掴んだ宝か。
その想いがジェシーに受け継がれ成長させるのでは、
と思わせるラストがいい。
モーリスとオトゥールの人生賛歌として心染入る作品です。

贅沢なオタク映画2007年11月04日 23時51分31秒

日曜も働いておりました。楽な仕事でしたけどね。
おかげで帰りに映画を観てしまいました。
そして明日は休みです。そして明日も映画です。

それはそれとして今日はまた9月初旬の過去に戻り、
クエンティン・タランティーノ監督の
「デスプルーフ in グラインドハウス」に参りましょう。

<物語>
デスプルーフとはイカレ殺人鬼スタントマン・マイクが
手塩にかけて改造した、運転手が絶対に死なない車である。
彼は女の子達を口説いては最後に殺人車で
彼女等が乗る車に激突し快楽を楽しんでいた。
だが、ある日彼がある女の子達にちょっかいを出したのが運のツキ。
彼女等もまた恐怖をものともしない
アドレナリン全開スーパーウーマンだったのだ!


という冗談のような話で構成された本作は、
「よく撮ったもんだ考えたもんだ、こんな映画」と
もちろん誉め言葉として捧げることができる
間違いなくタランティーノのキャリアに輝ける渾身の作。

「グラインドハウス」とはアメリカで60年代~70年代に数多く存在した
B級あるいはZ級映画を2~3本立て、いわゆる抱合せ方式で
上映していた映画館で当然地方や場末の寂れた映画館。
グラインドという言葉自体、いわゆるエッチな語源があり
転じてポルノ映画も当然これでもかと上映。
普通の作品にしてもとりあえず流しとけ、的なもので、
グラインドハウス用に適当につくり、
とりあえずアクションとハダカ出してりゃいいよ、
な企画ともいえないようなもので作られた作品。

しかし、逆に「裸だしてればいい」ような制約の少ない現場は
ときにスタッフの暴走を促しとてつもない快作を生み出します。
ほとんど失敗するんですけど。
日本でもそんな歴史はあり、B級やポルノ映画ばかり適当に何本立てで
制作しまくった中から世に出てきた監督もいます。

それらは映画の裏歴史でありながられっきとした土になっています。
それゆえにグラインドハウス映画に讃辞を捧げ復活を試みようという
タランティーノがロバート・ロドリゲスと組んでぶち上げた企画。

ただ、人によってB級の定義ももはやあいまいで、
かつて酷い扱いを受けたものが監督の出世とともに再評価されたり、
難しいことは考えずに飲み屋のネタにするぐらいが正しいようで
もろもろの裏話に映画オタクが最も饒舌になる分野でもあります。

タランティーノのそんなオタクぶりが本作では存分に発揮され、
「あったあった!そんな感じのやつ」というシーンが満載。
しかもそれに凝り過ぎるあまりパートが長くなり
オイ!ここまでがフリかよ!と叫んでしまいます。

前半の女の子達は登場は長いけど殺されるだけ。
エッチだけが印象に残ります。
後半でデスプルーフとマイクをボコボコにするスーパーヒロイン登場、
なわけですが、この子達の昔の映画のスタント秘話を披露する
会話はもはや映画オタクの会話です。
タランティーノの吹替えのようなものです。

とにかくそんな感じで好き放題詰め込みまくった暴走のおかげで
分けの分からぬ昂揚感に包まれ、分けもわからず快感なのであります。
「キル・ビル」より遥かに面白い本作はスーパーガールズの
リーダーはキル・ビルでユマ・サーマンのスタントをやった人。
アクションは1000%カーチェイスですが、
一人がボンネットにしがみ付き時速100キロ以上で
車同士ガンガン体当たりを本当にやるという大迫力の映像。
これを見るだけで満足。他は忘れていいです。
そんな映画。もちろん誉め言葉。


本作はアメリカではロドリゲスの監督作と二本立てで、
まさしくグラインドハウス形式で上映されたもの。
しかもわざわざフィルムの劣化や音飛びまで再現しているのだから、
もはやキ○ガイと言えましょう。そんなメイキング話が面白いのです。
それはやっぱりオタクによるオタクのための映画でしょう。
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