ある日、どこかで2010年07月19日 23時42分39秒

ある日どこかで
ある日どこかで
ある日どこかで(原作)
ある日どこかで(原作)

昨日の小島秀夫に倣いまして「ある日どこかで」を紹介しましょう。
1980年のアメリカ作品で、ジャンル的には恋愛になります。
原作はリチャード・マシスン。監督はジュノー・シュウォーク。


この映画を見たいと思った理由の一番はその筋の物凄さにあります。
これはただ愛の力のみで時を越える物語。

主人公は劇作家として成功した青年・リチャード。
彼はスランプに陥り湖畔のホテルに逃げ込む。
大きなホテルで訪れた著名人の写真や記念の品を展示する部屋があり、
彼はそこで美しい女優・エリーズの写真に一目惚れする。
しかし、その写真は70年前のもので、彼女は既にこの世を去っていた。

彼は決意する。どんなことをしても70年前の彼女に会いに行くと。

ここからが凄い。
彼は時間を超える体験と理論を持つ大学教授に会いに行きその方法を学び、
70年前のコインなどの小物を身につけ、現代の品を排除した部屋に閉じ篭り、
テープレコーダーに"ここは1912年だ"と吹き込んだ自分の声をひたすら聞き、
自分に暗示をかけ、遂にタイムスリップを成功させてしまう!

タイムマシンの製作に没頭する方がまだ現実的ではあります。
しかし、これほど力強くシンプルな手段はありません。
そういえば、藤子・F・不二雄のSF短篇集の一篇にも、
タイムマシンの製作に没頭していた男が遂に辿り着いた結論は、
"時を超えられると強く念じる"ことだった、という話があったはず。


小島秀夫はこのどう考えても荒唐無稽な時間跳躍を、
小物の使い方やエリーズの美しさによって丁寧に共感させている、
と評価していましたが、僕にとってはリチャードを演じているのが
クリストファー・リーヴという点で何もかも受け入れてしまった。

リーヴが演じた役柄の中で最も有名な男「スーパーマン」。
スーパーマンは事故で死んだロイス・レインを救うため、
"愛の力"を強く念じることによって時空を超えるのである。
つまり僕は、「ある日どこかで」のリチャードに
「スーパーマン」を重ねたわけです。


それだけで俄然見たくなった。ここまではまだ喜劇の域。
まだまだ、「変なものみたさ」の自分の特殊嗜好から出ていない。
しかし、「ある日どこかで」という語感と評から伝わってくる印象には、
単に変な映画ではない、不思議なものが感じられました。


そして、実際に鑑賞してみると…これが良い。

いい、というのは感動したとか、泣けた、とか温まるとかとも違う。
とにかく、いいんだよ。としか言えない。
鮮烈とも刺激的とも違う。やられた!とも違う。難解でもない。
公開当時は興行的にも失敗し短期間の上映だったらしい。
そこから、"いい"と思った人の口コミで長い時間をかけて評価されたらしい。
そうだと思います。強く焼きつくような印象ではないのです。
時折、ふと、物思いに耽るとき、思い出す。そんなセンチメンタルな作品。


僕のお気に入りのシーンを述べると、
エリーズは現代で死んでいると書いたものの、冒頭に老婦人として少しだけ、
リチャードの前に姿を現しており、この時、ある品物を手渡す。
これが懐中時計。既にこの時から魔法が始まっている。

この老婦人は、"過去でリチャードと出会った"エリーズです。

そして、問題のエリーズの写真にリチャードが惚れる場面。
写真に光が差し込み、その光の中から彼女の優しい微笑みが浮び上がる。
しかし、この場面は後半でさらに重要な仕掛けがある。
時間を超えて巡り合い、エリーズもリチャードに恋をするが、
ある時、まさにその写真を撮るときが来る。
カメラを向けられ穏かに微笑むエリーズ。
それを見守るリチャードがいる。微笑んだままエリーズは彼に視線を向ける。
その時、シャッターが切られた。

素晴らしい。

あの写真の微笑みはそもそもリチャードに向けられたのだと分かります。
つまり、二人が時を超えて巡り合うことは荒唐無稽な夢ではなく、
ここで完璧に定められた運命であったこととして完成します。


これらの一つ一つが暖かな日差しと、穏かな音楽と、優しい言葉で繋がり、
実に不思議な印象を残して自分の中に溶け込んでいきます。
普通は記憶に残らない。小品は小品としての印象で終わってしまう。

しかし時々、「ある日どこかで」とタイトルを呟くと静かに蘇ってきます。
そして暫し周囲に映画の記憶が漂い、また消えていくのです。
そんな映画です。もう決してキワモノではありません。


僕の呟き方は「ある日、どこかで」。「、」が入ります。



この「ある日どこかで」、現在日本各地で進行中の「午前十時の映画祭」の
50本の中に選ばれていることに後になって気づきました。
公開当時の状況を聞くに、30年の静かに確かに流れてきたものの一つの到達です。

我が県のMOVIX利府では12月18日から12月24日まで一週間公開される予定。

なんと、クリスマス・イヴにこれをスクリーンで観られるのか?
まるで今年最高の魔法ではないでしょうか。


みなさん、是非、観て欲しい。
ロンリーな方も恥ずかしがらずにスクリーンで観てください。
必ず、いい、と感じるはずです。

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