冷たい雨に撃て、約束の銃弾を2010年07月23日 23時26分33秒

何回かに一度、これだけは死んでも見るぞ…
という映画があります。

そして今回その映画が、「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」。

我が最愛の男。などというと男色っぽいですが、
大抵の男には尊敬と憧れのまなざしで見る男がいるはず。
僕にとってのアンソニー・ウォンがその人。

「アンソニー!」などとキャンディの声で叫びたくなる。

まあ、彼にほれ込んだのは「インファナル・アフェア」なので、
それ以前の作品は全部後追い、しかも「八仙飯店之人肉饅頭」など、
先入観だけで怖くて怖くて今も見られていません。
彼のファン等というのも頭を低くしてなければ。


そのアンソニー・ウォンの魅力を全開に引き出す、ジョニー・トー監督。
「ザ・ミッション/非情の掟」「エグザイル/絆」。
そして、今作。2作と同様に男達、銃弾、ハードボイルド。
ならば見るしかないではありませんか。
エグザイル/絆
エグザイル/絆
ザ・ミッション 非情の掟
ザ・ミッション 非情の掟


フランスとの合作で撮った影響か?
邦題がここ近年のフィルムノワールの影響を受けているような気がします。
(「あるいは裏切りという名の犬」「裏切りの闇で眠れ」などなど)
あるいは裏切りという名の犬
あるいは裏切りという名の犬
裏切りの闇で眠れ
裏切りの闇で眠れ

主演はジョニー・アリディでアンソニーでなくとも、まごうこと無きトー。
そして3部作完結などトー本人が言っトーるではないか。
なんトー。

疲れた。敬愛する滝本誠先生口調を意識しすぎました。陳謝。


本作は古傷がもとで記憶を失いつつある、
殺し屋だった過去を持つジョニー・アリディが、
マカオに住む妻子を殺され復讐を誓う中、
アンソニー・ウォンら3人の殺し屋を雇うことになり…というもの。

殺し屋としてラム・シュもラム・カートンも「エグザイル/絆」より続投。
かくして新メンバーを加えた黒服の4人組と銃口が復活。
しかし二番煎じでは無い。いや、別に二番煎じでも焼き増しでも良い。
それぐらい、この男達は良いのです。


ジョニー・トーの描くハード・ボイルド、ノワール映画は、
フランスや日本のそれとまた趣が異なり、湿り気がほとんどありません。
煙草と硝煙と夜の闇とコート、情念や血飛沫、女人禁制のキーワードとも違う。
「インファナル・アフェア」とも「男たちの挽歌」とも違う。
インファナル・アフェア
インファナル・アフェア
男たちの挽歌
男たちの挽歌


僕が「トーが動いた」と感じる瞬間は、男達が遊び始めたとき。
例えば「ザ・ミッション」で廊下に立っていた男達が、
唐突に屑を蹴飛ばしあいラリーを始めてしまうし、
「エグザイル」ならばこれまた何故か、遊ぶためとしか考えられない様な、
プリクラの撮影機がクライマックスで登場し、男達は俺も俺もと押し合う。

今回も食事中に思いつきで目隠し&銃の組み上げ勝負を始め、
敵との打ち合いの前にフリスビーを飛ばし、
広大な原っぱのど真ん中でスクラップの塊を全員で転がし、銃撃が始まる。

脚本家がいるにせよ、トーの常の即興演出にせよ。
トーの感性には男の"やんちゃな部分"を盛り込みたいという想いがある気が。
そもそも「ハードボイルド」自体が男の子供っぽさの象徴という考え方もある。
トーはそこに楔を打つつもりか、それとも画的に面白いからか。
どちらにせよ成功だと思いますし、それが魅力でもあります。

やんちゃな男達は闘いでは一変して不動の構えで堂々銃を撃ち合う。
まったく、このような気構えでいたいものです。


消えゆく記憶の中で、苦闘する日々の中で生まれた「絆」。
人間の信頼と絆の成り立ちと揺ぎ無さを示した、誠に美しい物語でした。
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