アウトレイジ2010年07月24日 23時27分32秒

北野武監督の「アウトレイジ」を公開終了ギリギリで鑑賞しました。

最近はもっぱら109シネマズ富谷の、会員サービス1000円料金が通例。
窓口が少なく、特徴のペアシートに染みがあるのが
たまにキズではあるものの、設備は良い方で気に入っています。
イオンに隣接しているので、服やパンの買い物もしやすい。

そんなほのぼのとした日常とはかけ離れたバイオレンス世界。
今回は製作発表時から話題になった、北野監督久々のバイオレンス映画。


久々の、というといつ以来なのか?

1989年の第一回監督作品「その男、凶暴につき」から
今作で15作品を世に送り出したうち、バイオレンス映画、
と一般的に言って良いと思うのは次の5作品でしょうか。
「その男、凶暴につき」「3-4x10月」「ソナチネ」「HANA-BI」「BROTHER」
「BROTHER」の2001年が最後かと思われます。
「座頭市」「TAKESHIS'」は血の香はするものの、また異なると思います。

こうして振り返ると、数の上で見るとバイオレンスは少ないために、
北野武=バイオレンス映画を撮る、というのは、
強烈な諸々のイメージで語られていると改めて思います。

ただ、「あの夏、いちばん静かな海」にせよ、「みんな~やっているか!」、
瑞々しい「キッズ・リターン」と「菊次郎の夏」にせよ、
笑いや青春を見せているときも何かあやうい破滅的な香がし、
作品の構成そのものが既成概念や自作映画をも壊そうと実験的の様に思え、
(バイオレンス作品群でさえ、ただ毎回銃と流血を繰り返すのではなく。)
それが北野作品を支配する、アブナイ映画、という印象になるのだと思います。

毎回ごとに実験を繰り返し、過去など無いかのように前作を破壊し、
それでいて、否応無しに継承される自分自身が染み付きつつ、
スパイラルのドリルの歩みのように、前作「アキレスと亀」に辿りつき、
一つの答えを掴んだ、ようなラストで結んだのは、やはり映画は映画、
それはそれこれはこれ、だったようです。

亀の長い歩みの果ての結論に辿り着いた先が原点回帰かと、
発表時の印象では肩透かしを食らった感があったものの、
キャストと設定を見ていくに、これはまた壮大な実験だと思えたのでした。

決してこれは危なくなると「ロッキー」「ランボー」に走っていた
スタローン流の古巣に帰るべの術ではないです。


キャッチコピー「全員悪人」は伊達ではなく、本当に悪人で犇いている。
悪人か?という疑問が残るバーのオネーチャン達などちょい役は、
少なくとも善人の面は見せてはいません。
ヤクザにはめられ、はめられた方もヤクザで、取り調べる刑事も悪徳で…、
そのように悪人の連鎖は続いていきます。
本来ならば、はめられる方は善人ないし普通の人なはずなのです。
そして、一般的なヤクザ映画に出てくるイメージの"温情"もない。

対立概念の思考で言うならば、悪は善が無いと悪足りえない。
善人を攻撃するから悪人が悪人として存在を増していく。
物語を進行するには一つの思考で固めると話を紡いでいくことが困難になる。
対立図式を用意すると我々はどちらかに惹き込まれ感情移入も始める。

全員を悪人に設定するということはやることは簡単なようでいて、
実は完成形にするにはずいぶんと困難な道であるように思えます。
今回は、「これでどこまで話を作っていけるのか?」という、
物語の構成術への抵抗もやろうとしたのではないでしょうか。

できなかったらできなかったで全部投げ出す気でもいたのかもしれない。
ウィキペディア情報では「別荘を爆破したい」とも監督は発言していたそうな。

実験が成功しているかはともかく、僕自身は好きな映画です。
ただ、好きなのは悪人ではなく、その中でも隠しきれない温情めいたもの。
これに関してはやはり北野武自身が演じる役に一番現れている。
やはり僕らは幾ら過激でもスタイリッシュでも悪に共感するのではなく、
その中の一片の温もりや哀しみに動かされるのかもしれません。

しかし、今回は構成上、その温もりや哀しみは極力抑えられている。
そうでなければこの映画で"やろうとしたこと"は失敗しているはず。
そのあやういバランス故に、エモーショナルな感情の波は押し寄せては来ない。
だから、これまでの北野バイオレンス映画史上、最もドライな印象を受けます。

僕はバイオレンス映画はドライよりウェットが最も好き。
乱暴に言えば韓国で近年撮られるような情念剥き出しだったり、
日本映画では昔の高倉健さん時代とその後の名残のような時期。
「ゴッドファーザー」でさえ、親子の情が最大の魅力なのです。

対極に位置しようとする「アウトレイジ」は本来好きまではいかない。
しかし、乾いた砂漠の中でごく僅かに感じる湿度が、振り向かせる。

北野映画なら「ソナチネ」の方が対極で僕が一番好きな北野映画。
その順位を崩すことはできないものの、「アウトレイジ」は好きだ。

勿体無い気がしたのは、この後どうなるか?と始終引き込まれていたのが、
三浦友和が裏切る直前になって展開が読めたとき。
ますます悪役として魅力的な三浦友和には唸るものの、やはりお前かと思う。
これは最近そういう役が続くことから仕方ないものかもしれません。
タイミングが悪かった、それだけのこと。


蛇足になりますが、「二度と撮らないと言っていたバイオレンス映画」を撮る、
という報道や口伝いが当初は一部にあったと思いますが、
これは「監督・ばんざい!」の中の台詞が一人歩きしたものだと思います。
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