カミュなんて知らない2006年04月11日 22時33分01秒

たまに邦画をチェックするとなかなか個性的な作品があります。
今日のお題は「カミュなんて知らない」です。

6年前の事件、「人を殺したらどうなるか実験してみたかった」という
不条理な証言を残した愛知県老婆刺殺事件をご記憶でしょうか。
映画の物語はこの事件の犯人の男子高校生の証言をまとめた
原作本に基づいて、大学生の映像ワークショップのメンバーが
事件をなぞった自主制作映画を制作するというものであります。

ちなみに、監督の柳町光男氏はカンヌやNYで高く評価されている
そうですが、ちーっとも知りませんでした。


さて、暗く不条理な映画は数あれど、一般に我々は映画の結末は
ハッピーエンドや、バッドエンドと見せかけた騙し、
あるいは納得できるようなバッドエンドを無意識に期待すると思います。
観客は自然に主人公の視点になり、
「自分=主人公」の行動には、なんらかの納得する理由がある、
と言う思い込みで、自分を安心させるのではないかと。

この映画の終盤は、製作映画の場面が
いよいよ老婆刺殺事件の「再現」に入っていきます。
高校生役の青年が凶器を振り下ろし、老婆役を「殺す演技」をします。
畳みに拡がる夥しい血。青年に飛び散る返り血。
本当に「殺しているかのような」迫力。鬼気迫るような演技。

しかし、「カット!」の声がかかっても、血糊を拭き取る老婆が登場せず。
ラストシーンは床の血を部員全員で拭き取る場面で幕を閉じます。
いやに、リアルな血の色。
ふと、何気ない序盤のセリフが頭を過ぎります。
「老婆役の俳優に保険をかけました」・・・・・。


本作の物語には様々な実験の話が登場します。
大学教授の気を引けるかどうか、恋人の不在中に浮気したらどうか、
制作映画のテーマとなる犯人の少年の人物像は、等など。
ではラストに控えるのも壮大な実験なのか。

いや、まさか。彼らは単なる映画好きの学生達だ。
でも、実際に事件を起こした犯人も単なる高校生だった。
だってこれは映画ですよ、そんな倫理的にもまずいこと。
後味の悪いもの、過激な表現はいくらでもありますよ・・・・。

エンドクレジットを眺めながらそんな堂々巡りの思考に陥ります。
それほど、作品と一体になって呑みこまれてしまう迫力があります。
生理的、倫理的な部分に触られ、振り回される感覚です。
ただ好きになれないのは、苛々させる吉川ひなのと
前田愛の芝居がかり過ぎるところでした。
その他の俳優の演技、不安を呼び起す音楽は印象に残ります。
悪趣味ではありますが、「むう」と唸る一本でした。

覆面上映2006年04月13日 00時57分56秒

「覆面上映」

そう聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょう?
仙台市中心部にアジトのように存在する映画館「セントラル劇場」。
そこで土曜や金曜の深夜に往年の作品を
掘り起こして再上映する企画が続いていました。

ただ、作品のラインナップがどういうわけかカルト・マニア路線に偏ります。
そして、その最たるものが「覆面上映」とされる企画で、
「実際に劇場で見るまで何を上映するかわからない」というもの。
ただし「未鑑賞率97%」とか「脳汁爆裂120%」とか
怪しげなキャッチが毎回ついているのです。

この日、4月1日は「この作品の上にカルトなし!
自信を持ってお贈りする空前絶後の大怪作!」という
これまた珍妙なキャッチでした。

一体どんなものなのか、トラウマにならないか、
今まで恐ろしかったのですが、長らく休映していた企画が復活!
という日だったので、勇気を貰って行きました。


観客は160人ほど収容のところ、50人くらい。
結構いたと思います。でもやっぱり変人オーラが見えます。
というか、BGMに梅宮辰夫の「シンボルロック」がかかる時点で怪しいよ!

・・・「シンボルロック」。シンボル=所謂、「男のシンボル」である。
シンボルのお陰で夜の街を大手を振って歩くような
豪快な若かりし頃の梅宮辰夫を表現したと言える曲であります。
ちなみに10年ほど前まで「放送禁止」でした(笑)。

さて、怪しげなBGMを前座に始まった謎の映画の正体は!


「ヒマラヤ無宿 心臓破りの野郎ども!」(邦画)

ごぶぉ!タイトルだけで怪しい昭和の香です。
気になる中身は。ヒマラヤに挑んだ登山隊が「雪男」を捕獲。
日本に連れて帰り、国際学会が召集されるほどのパニックに。
しかし、登山隊の隊長には密かな計画があった。
実は雪男の正体は、中国の登山隊がヒマラヤで偶然に発見した
ウラン鉱脈の存在を極秘にするために
口封じに抹殺された現地人の生き残りだったのだ!
そしてそれを操る秘密結社の正体をも暴くため、
国際会議の場で雪男とともに悪の元凶と対決する!

なんとまあ壮絶なシナリオでしょう。
しかも、この豪快な隊長を演じる主演俳優は片岡千恵蔵(!)ですよ?
雪男は全身毛むくじゃらで「グオー」と吠えて氷風呂に入っています。
ホテルではヤギを一頭生で食い尽くす豪快さ。
さらに、悪人を倒してヒマラヤに帰るときにはスーツを着ています、オイ!

中盤はやや眠くなるので抱腹絶倒とは言えませんが、
後半は一気に放心状態です(笑)。
ええ、凄い作品ですよ。観て損はしませんよ。


さて、そんな珍作なので上映中は劇場内は爆笑の渦でした。
終わったあとは拍手喝采。よくやった!という感じの拍手です。
あの雰囲気は病みつきになりそうです。
古き良き時代の、演芸と映画が丁度良く混ざっていた時代。
今はコメディでもそんなに笑わないじゃありませんか。
作品と観客の一体感。本来あるべきであり隠すべきではありません。
可笑しければ笑おう。楽しければ踊ろう。書を捨て街に出よう(?)。

素晴らしきアンダーグラウンド。次回の覆面上映も行きます!

ミラーマンREFLEX2006年04月14日 00時05分35秒

往年のヒーローリメイクブームは一昨年、昨年で終わった、
と思いきや「ミラーマン」の劇場リメイク、「ミラーマンREFLEX」です。

このブログをご覧の皆様はほとんどがオタクかと思いますので
「ミラーマン」の名を聞いたことはあると思いますが、
一応、「ミラーマン」の基礎知識を説明しますと。

「ウルトラマン」でお馴染みの円谷プロが1971年に制作した
巨大変身タイプの特撮ヒーローです。
異次元人と地球人のハーフである主人公・鏡京太郎は
国際地球防衛会議の日本代表である御手洗博士に育てられた。
ミラーマンに変身する能力を有する京太郎と
博士の組織するSGMはインベーダーの地球侵略に立ち向かう!

ウルトラシリーズより安い感が無くもありませんが、
鏡から鏡を通過して移動する能力など、なかなか面白い作品です。


そんなミラーマンを35年たった今、劇場映画としてリメイク。
監督・脚本は「ウルトラマンティガ」「ダイナ」「ガイア」を手がけた小中兄弟。

換骨奪胎と新解釈によって、ほとんど違う作品になりました。
近未来SFではなく、オカルトっぽいイメージです。
鏡の向こうには死者の世界がある、という霊的解釈をもとに、
敵は死者の世界「幽世」から人間を闇へ取り込もうとする「邪仙」。
それを阻止する主人公・影山鑑は、審神者・ももその「帰神の儀」を受けて
鏡の武神「ミラーマン」として降臨する。

合わせ鏡や魔鏡など、鏡にまつわる神秘的なイメージを前面に出した
新しい世界観は良い雰囲気に仕上がっています。
古代の銅鏡のような鏡で儀式を用いた変身も、
鑑とももその絆の強さをより深く感じさせます。
邪な闇と対立する存在でありながら、人知れず邪を斬り裂いて
自身も闇に消えていく。光照らす鏡でありながら、
ダークヒーローのような鋭さも併せ持つ、
面白いヒーローになったと思います。

とはいうものの。

唐渡亮はわりと好きですが、その他のメインキャストがどうも
安いVシネマやOVAのレベルから脱しきれていない気が。
というよりも一部はヘタと言っても差し支えないかと。
亜佐美役の伊藤裕子は何故か艶かしくて嫌です。

映像や演出も最近の「仮面ライダー」や「ULTORAMAN」などと
比較するとやはり寂しい。派手なら良いわけでもありませんが、
ヒーローモノにはスカッとする爽快感が必要です。

まあオカルト風のアレンジは私は好きですし、
剣劇アクションもかっこいいので、
シナリオ・映像ともにもう少し、ボリュームがあればよかったです。
続編を作る気でいるようなので、本当に作るのなら
次は惜しまず予算を投じて欲しいです。

ミラーナイフ!
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