離れていくこと近づくこと2008年11月18日 23時07分51秒

今日は予定では自損で凹ませた車の修理の日だったのですが。
実は電話を直に受けた両親の勘違いで、実は12月1日だったんだとさ。
そんなわけでまだ凹んだ車です。
でもこれから雪が盛大にふるでしょうから。たぶん。
折角直したところをまた凹ませないようにしないと。
まだタイヤは変えてません。

さてさて車は凹んでも気分だけでも凸に。
映画の話題を連日しておりますが、今日はレンタルDVDです。
やっぱり映画かよ!すみません。もうビョーキなもので。

私のレンタルはTUTAYAで毎週火曜日。
ほぼ毎回3本がレギュラーペースと決まっています。

一本目はぽんちょさんより以前から推されていた
「Once ダブリンの街角で」。
ある日のダブリンの街角。
ストリートミュージシャンの男とチェコからの移民の女が出会う。
女も1日のうち楽器店でピアノを弾かせてもらうことが楽しみの一つ。
男がギターを弾き、女がピアノを弾き、男の書いた歌詞を歌う。
二人は自然に惹かれあっていきます。
しかし、この二人が過去に恋愛で傷を負っていることは明らか。
時によって落ち着きを取り戻しつつも心の穴は塞がれてはいません。
男の方は不器用に女に好意を示すものの上手くいかない。
唐突に女は実は結婚していることを知らせます。ただし、別居中。
この時の男の胸中は実に複雑なはず。
別れて一緒になろう、そんなことは言えない度胸も無神経さも
そこまで踏み込んだら今の関係は崩れてしまうことの恐れも、
一緒くたになって駆け巡るはずなのです。
逡巡の果てに男はメジャーデビューへの夢を駆けて街を出る。
女も別居中の夫ともう一度やり直す決心をする。
そして、二人は思い出を胸に歩き出す。
それは失恋とは違う、未来へ進む力をくれた出会いです。

男を演じるのは実際にミュージシャンとして活躍するグレン・ハザード。
失恋、夢、希望などの感情を歌詞に曲に乗せた歌が、
こちらの心を大きく揺さぶります。
まして同じ様な経験をしていれば涙さえ流さずにいられない。
その涙さえも心を洗い、アイルランドの曇天に光が射すように、
前に歩き出す力をくれる映画です。


二本目は「明日、君がいない」。
オーストラリアの高校。ある日、一人の生徒が手首を切って自殺した。
6人の生徒のその日の行動が交錯するドラマで紡がれ、
ドラマで語られぬ心情をインタビュー形式で吐露される。
6人が周囲からは理解されぬ悩みを持ち、
ドラマでは互いに衝突していく様子は細かく描かれるものの、
自殺する女生徒の行動、悩みについては驚くほど希薄。
しかし、それこそが重要であり、当の女生徒にも同様に
傍目にはわからない悩みと傷口があったことの示唆であります。
誰しも、笑顔でいて明るく見えて他人を気遣っているようで、
その心の中は本当は深く深く空洞が空いているかもしれないのです。
だからこそ、相手が一歩踏み出して心情を見せたときには、
拒絶ではなくできるだけの理解をもちたい。

この監督がこの脚本を書いたのは19歳のときというのだから、
その人間観察力、心理考察力には恐れ入ります。


最後は「不完全なふたり」
諏訪敦彦監督がフランス人スタッフ・キャストで撮った異色の映画。
異色と言っても、その作品は驚くほどにフランス映画的。
周囲からは結婚15年、理想の夫婦と敬われた二人の男女。
しかし、二人は既に離婚することを決めていた。
互いの些細な癖と欠点を許容することができないまでになり、
苛立ちばかりが募り、誤解とすれ違いが降り積もっていきます。
役者から距離をおいた引きのショットで撮影し、
人物の感情が織り成すその場を支配する空気感が感じられます。
後半、妻が美術館で偶然に再会した昔の男友達。
彼女が彼に惹かれていたことははっきりとわかり、
彼の妻は不幸に遭い死んでしまったという。
「ダブリンの街角で」の逆パターンのように思えますが、
この時も妻がなんとも複雑な涙を流します。

見方によっては観客は夫の味方にも妻の味方にもなりましょう。
変化の無い映像は人によっては退屈かもしれませんが、
同様の経験をしている人には染入るように分かるでしょう。
男女が感じる許せる・許せない不満の微妙なラインを捕らえています。
理想の男女はそれを共に乗り越えた先に辿り着ける、
そんな綺麗事も力を失うほどに、現実は心をか細く痩せさせます。
ラスト、過ぎ去る列車に乗らなかった妻のすすり泣きだけが
聞こえる映像、それは一筋の光明と思いたいです。


今回はある程度狙った選択ですが、どれも外からは正反対にも近い、
内面に深い悩みを抱えた人々の物語。
こういった映画は見る時のメンタル状態に大きく左右されます。
同じような経験をしているならばきっと感じ入るはず。
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