キアヌへのエール2009年02月20日 23時59分48秒

キアヌ・リーブス主演のクライム・アクション
「フェイク シティ/ある男のルール」についてのこと。


<物語>
トム・ラドローはロス市警の刑事。
腕は立つがやり過ぎる傾向が強く、今しがたも
ウォッカをくらい誘拐犯のアジトに単独で乗り込み
犯人全員を射殺してきたところで、
ボスのワンダーに揉み消してもらったところだ。
非道な犯罪者には法も情けも無用、ただ死あるのみ。
それがトムの信じる正義でありルールである。
かつての相棒だったワシントンはその構造を忌み非難し、
トムもまた彼とは訣別した仲であった。
そのトムの行動に内務調査部のビッグスが調べを入れる。
どうやらワシントンがビッグスに情報を流しているようだ。
そしてトムの眼前でワシントンが殺される事件が起こる。
トムはワシントンを憎みつつも彼を殺した犯人を追う。


昔、おすぎが「キアヌって、子供たちに囲まれて笑っている
気の良いお兄ちゃんみたいな役が一番似合わないと思う。」
というようなことを「陽だまりのグラウンド」に対して、
言っていた記憶があります(そこそこに誉めてはいた)。

私の見た目ではキアヌが演じてしっくり来なかったのは、
というよりもあまり演じていなかったのは
タフでダーティでワイルドなイメージの役だと思います。

アクション映画にも多数出ていても、緊張感溢れる「スピード」や、
空に海に大忙しの「ハート・ブルー」や
はたまたフットボール代理選手役だった「リプレイスメント」
代表作の「マトリックス」はもちろんのこと、
クールだったり清清しかったり熱い心を持ってはいても、
世の中の光と闇を見つめ修羅場を潜った中で身体に染み付いた、
傷の一つや二つを深く呑み込んだ男の気を感じることがなかった。

メイキングやインタビュー中のキアヌの様子を窺うに、
この、ちょっと血色の悪いような疲れたような男からは
力強さを感じることがあまり無かったのです。


それにはおそらく彼の人生そのものが影響しているように思います。
キアヌは現在も未婚で、不幸な恋愛が多いと言われていますが、
その中でも恋人がキアヌの子を死産し、
本人も事故死してしまった事件が一番ショックであったでしょう。
さらに、彼の最愛の妹が白血病で入院したのが
その頃であったと聞いていますので精神的には相当参ったはず。
また、親族関係でもトラブルがあったと言います。

そんな話を数年前にキアヌのファンブックで読んで以来、
彼に対しては演技力とか出演作品などとは別の視点から、
素直にエールを贈りたい気持ちとなっています。
「マトリックス」のスタント達にハーレーを贈ったいう話などは、
単なるお金の余ったスターの気前の良さというよりも、
辛苦を味わった人間が周囲の人間に無償の感謝を示すことを
自然に身につけていったことの顕れに思えます。
それだけ辛いことがあればこの世界、
ドラッグや色々な中毒や逮捕歴に塗れることにもなりかねませんが、
妹の存在がそれを支えたのではないかと思うのです。


「フェイク シティ/ある男のルール」は、
「L.A.コンフィデンシャル」の原作者の
ジェームズ・エルロイが関わった脚本があるとは言え、
キアヌが背負った傷跡の数々が彼のオーラとして変換されたような、
良心で戦う男から信念で戦う男への変化という、
力強い気を持って迫ってくるように感じられるのです。

周囲もフォレスト・ウィテカー(「ラストキング・オブ・スコットランド」)、
ヒュー・ローリー、クリス・エヴァンス等など存在感が強く渋い。
「プリズン・ブレイク」で恋人に一途で気の良い囚人スクレを演じた
アマウリー・ノラスコ等も光っています。
キアヌが掛けられた手錠を鉤爪代りにしたり、
スコップで相手の頭をかち割ったりとこれも良い。

新しい力に取り込まれていきそうなラストに含みはあるものの、
一つの壁を越えた男の信念は潰えないでしょう。
キアヌ自身が苦境を乗り越えていくように。
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