3日間の騎士2009年02月09日 23時05分01秒

長瀬智也・福田麻由子主演「ヘブンズ・ドア」についてのこと。

<物語>
脳に出来た腫瘍によって唐突に余命3日と宣告された、
28歳、好き勝手に生きてきた、家族無し、男、勝人。
7歳の時から病院生活、現在14歳、骨肉種、
がんを併発、あと一ヶ月ほどの命、少女、春海。
入院した病院でたまたま出会った二人は、
「海へ行こう」を合言葉に病院を抜け出す。
しかし、逃走に使用した車には銃と大量の札束。
おまけに勝人は銃を使用して強盗をするはめに。
警察が二人の行方を追うなか、
さらに車と金を取り戻そうとする謎の組織の追撃。
二人は障害を振り切り、海を目指す。


長瀬は昨年の暮れ30歳になったとのことで、
同じ頃にNHKで彼に密着したドキュメントを放送、
30歳になり、人生や死生観等について
熱く語っていた彼が強く印象に残っています。
そして私も昨年に30歳になりました。
それだけに妙な共感を感じるには十分の番組でした。

その中で紹介されていた最新出演映画作品が、
この「ヘブンズ・ドア」。
ドイツ映画の「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」を元に、
「鉄コン筋クリート」のマイケル・アリアス監督がメガホンを。
「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」は
「ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」の中の、ボブ・ディランが歌った
同名の有名な曲から撮られた映画とのこと。

前述のNHK番組内でも「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」の
映像が紹介されており、私はそれ以外に未だ鑑賞していない作品ですが、
本作「ヘブンズ・ドア」公開記念で1月28日にDVDが発売。
こういうことがあるから、リメイクとかも非常に有難い。
しかし、それだけではない。魅力ある佳作であります。


死を前にして、やりたいことを急いで始める。
死を前にして、生きた証を残したいと強く願う。
映画史を紐解くまでもなく、代名詞的な作品、黒澤明「生きる」
ジャック・ニコルソン&モーガン・フリーマン「最高の人生の見つけ方」
男のプライドや家族の絆へと展開するこの世界は、
恋人関係やティーン向け要素を入れ込むと
最近は監督の力量が足りないのか途端に安っぽくなりやすい。
難病が「泣かせ」の使いやすい小道具として乱用された、
韓流ブームと邦画セカチューブームの混合が駄目だった。

そのブームが歯磨きのチューブの残りも絞りカスになった昨今。
やっとこさ落ちついて鑑賞ができる雰囲気で、
かつ、14歳の少女と28歳のぶっきらぼう男という組み合わせ、
しかも早く死ぬのは男の方というのが、
いろいろ邪魔になる安い恋愛感情を巧みに交わしてくれて良い。
これで長瀬の漢のドラマとしても成立。

長瀬の帽子とヒゲ、服のカラーリングの組み合わせも良い。
デスノートのスピンオフ「L / change the WorLd」で
ヒロインを演じて、田中麗奈に似ているなと思った
福田麻由子は少女らしく色々な服に着替えるけど、
この青いカラーのファッションが一番良い。
ちなみに私は露出の多いファッションよりもむしろ
着込むファッションの方が好きなのです。
主人公達の服のセンスが好みなのもこの映画の鑑賞理由。

「海へ向かう」、その途中で「ステーキを食いたい」など、
「棺桶リスト」の実現もさせていこうとし、
さらに謎の組織と警察からの逃亡劇ありで、
シンプルで小気味良いし、難病物にある湿っぽさがない。
海へ向かう空と風が天国の様に爽快で、
それが死を間際に重い荷物を投げ捨てた二人の笑顔を相まって、
実に心地よく、それでいて無意味に明るすぎない。

アリアス監督がアメリカ出身だからか、
車で逃走中に組織の刺客の巨大トレーラーに体当たりされるところは、
「ターミネーター」と「激突!」の併せ技のように見えますし、
テンションが最高潮に高まったところでの車で崖からのダイブ、
フラッシュ、ストップモーションはそれまでの感情と相まって、
「テルマ&ルイーズ」のラストカットを彷彿させます。
そんな技もありながら、演出は隙間を埋めすぎず、
例えば勝人の過去などにはほとんど説明はありません。

しかし、行間はしっかり空けられているように思え、
抽象的な絵での想像の余地が残されています。
そこに、鑑賞する側が様々な思いと生き方を重ねて、
物語の主人公になろうとします。
想像力の乏しい人には説明が足りない、とわからないでしょう。

「海を見たい」という理由で二人は走り続ける。
しかし、発端は春海の「海を見たことがない」であり、
勝人は「海を見せてやる」という思い付きを実行します。
それは様は、男は人生で一度くらい、
女の子の騎士になりたいという性に根ざした思い。
雨の中で濡れながら舞踏会を演じる二人の場面にも現れています。
それは恋人や夫婦あるいは愛人という以外にあり得る、
同志感や互いを半身と思う様な男と女の絆の信頼関係へ育つ。
海に辿り着いたとき、騎士の役目を終えたからこそ、
春海が勝人に寄添うのではなく、勝人が春海に寄添い幕を閉じる。
騎士は女性に魂を捧げて殉じることで救われるのであります。


「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」の日本語カバーが
エンドクレジットで使用されていますが、
これを歌うのはアンジェラ・アキ。
長瀬自身もこの曲を歌ったことがあるということで、
この映画のエンドクレジットも長瀬が歌うかと思いましたが。
しかし、それだと長瀬の俺様映画になってしまう気がします。
やはりこれで正解。ジャニーズの大人の慎みを勝手に感じました。
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