扉の開く方向2007年09月19日 23時06分23秒

さて今夜からは映画レポと旅行のレポを同時進行で参ります。
旅行は何回かに分けてお贈りします。
その前に今夜の作品紹介。


今夜はアニメーション作品「ジーニアス・パーティ」。
「鉄コン筋クリート」等を手がける「STUDIO4℃」が世界に放つ、
「カウボーイ・ビバップ」の渡辺信一郎や
「マクロス」シリーズの河森正治ら
7人の監督が「制約ゼロ」を合言葉にそれぞれに制作した
短編7本を集めたオムニバス作品。
さらに新たに7人の監督で構成されたパート2も鋭意製作中。


パンフレットでも書かれていることですが、
私もアニメーションの制作方針はアニメでしかできないような、
現実味を越えた世界に広がっていくことが望ましいと思います。

そういう意味では本作の話題の柳楽優弥&菊池凛子が声をあてる
「BABY BLUE」は雰囲気は悪くないものの、
実写で彼らにそのまま演じさせても良かった気もしますし、

あるいは「LIMIT CYCLE」のような専門用語とモノローグの氾濫で、
ちょっと頭のよくなった気になる「ベターマン」タイプの作品は
正直なところ食傷気味でもあります。

そんな私の嗜好の視点で観れば一番好きなのは
ベテラン河森正治氏が手がけた「上海大龍」であります。

簡単な物語の筋は、中国の旧市街の洟垂れ小僧が、
ひょんなことから未来から送り込まれた
「自分の願ったものを絵に描くと物質化できる」装置を手にする。
それは選ばれた人間しか扱えないものであり、
装置を追って未来人達がやってきて戦争になる、というもの。

まず、装置の持つ力を説明するための冒頭のシーンは感心させられます。
言葉はなくただ映像で流れるのみで必要な情報はほぼ得られます。
正確には中国語の音声は入るものの字幕は無しです。
これは映像のもつ力をフルに使ったからこそなせること。

かつてフランスの巨匠・ゴダールが
「なぜ皆字幕をつけるんだ。字幕を付けたらそれを読むあまりに、
観客は映像に集中しなくなるではないか」と言ったとき、
巨匠ともなれば無茶なことを言うものだと思った次第ですが、
言わんとするところが少し分かった気がします。

未来人は簡単に良い人・悪い人がいて、
良い側は小僧を守り戦う中、小僧はTVヒーローに変身し悪い敵と戦う。
しかし、彼の知る最強の必殺技をもってしても敵を倒すことはできない。
そこで未来人が「貸せ!」と装置をひったくり、
ミサイルを出して敵を全滅させます。
しかし、そこで響き渡る洟垂れ小僧のつんざく様な泣き声。
そこで未来人は我に変える、こうした行為が子供の夢を奪い、
争いを生んでいった過ちの根源であったのだと・・・。

戦い終わり、洟垂れ小僧達は世界を夢を振りまく旅へと出発します。
それはメデタシメデタシと終わる大団円に見えますが、
昨今の中国の急成長する経済発展が生み出す、
先が読めない危機を孕んだ未来に対するアンチテーゼかもしれません。

というようにメッセージ性を見出せば幾らでも、
というのが他の7編を含めた特徴ですが、
「上海大龍」はジャッキー映画のような主題歌が挿入されるなど、
娯楽と笑いとして突き出た部分が多いため気持ちが良いです。


新進気鋭のクリエイターは心理描写を高める一方で、
内面に向いすぎる傾向があるため閉塞的になり
外に開かれたスッキリ感を出せないこともあります。
イマジネーションを全開にするならば、
開いた感覚は外側へと向ってはいかがでしょうか。
正月公開という第2弾にはそれを期待しております。
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