変人への賛歌2006年10月03日 00時21分03秒

ここのところ、私が休みの日はひどい雨が降る気がします。
基本的にインドア派で映画館に行くのですから
天気はあまり関係ありませんけどね。
今回はM・ナイト・シャマラン監督最新作品
「レディ・イン・ザ・ウォーター」です。

フィラデルフィアの一角にある変わり者ばかり住むアパート。
ある夜突然、プールの底からストーリーと名乗る女性が現れる。
神秘的な雰囲気漂うこの女性が現れてからの出来事は
アパートの東洋人が話す「水の精」にまつわるおとぎ話に似ていた。
彼女を水の精と信じ始めた管理人クリーブランドは、
さらにアパートの住人の中に彼女を助ける不思議な力を秘めた
記号論者、守護者、職人、治癒者がいることを知る。


アパートモノがジャンルとして正式に認知されているかはともかく、
私はアパートモノが好きです。
このジャンルは登場人物に変わり者が集まりやすく、
適度な笑いがあって微笑ましくも親しみやすくもあります。
もちろん、私自身が変わり者だからということも関係しますが。

変わり者の彼らの変な取り得がこの不思議な数日間ののち、
どこで役に立つかは分かりません。
しかし自分が役に立ったという子供の頃の始めての成功と似た印象、
その場にいる大勢と一つの目的に向う一体感は
心に残り人生を再生させるのではないでしょうか。
生命の始まる場所、水の世界から来た精霊は、
乾いた人間を瑞々しく再生させるためにやってきたのかもしれません。

「新しいナイト・シャマラン」と言われ、
シャマラン監督も自身のパターンを破ったと言います。
ラストシーンで与えるどんでん返しもなければ、
ブルース・ウィリス、メル・ギブソンのような大物もいません。
無論、ポール・ジアマッティー、ブライス・ダラス・ハワード
だって実力はありますが知名度は前2者には到底及びません。

しかし、作品が始まれば静寂感漂うミステリアスな雰囲気。
これまでの霊感、ヒーロー、宇宙人、森の掟と続き精霊の伝説。
少年時代に否応にも心揺さぶられる、
DNAに刻まれているようなわくわくする設定。
全体を見ればはっきりとシャマランカラーが出ています。

新しい境地を求めていくのは少年の冒険心に似ています。
成熟してくればある方向性に哲学を持って突き詰めていくもの。
少年っぽいことがシャマラン監督のカラーと言えないでしょうか。

作品のパターンは破っても自分のカラーは破る必要はないと思いますが、
次回はそれさえも破るのでしょうか。
やや寡作の監督ですので先になるでしょうが次回も楽しみです。

薔薇の記憶2006年10月04日 01時55分18秒

我が家の玄関先の花壇にひょろ~っと長いバラが咲いていました。
日のあたり方の具合によるのか変な延び方です。


幼稚園の頃はバラが咲いているのを見るだけで震え上がったものです。
なぜかというとウルトラマンシリーズの影響が大きいです。

ウルトラマンタロウの怪獣でバサラという怪獣がいまして。
ツタの蔓が集まったような怪獣ですが、蔓の先にバラが咲いていまして。
夜中になると蔓が延びて人間を襲い、バラの花から血を吸うのです。

さらに、墓場に咲いていたバラが土葬の死体を養分にして育ち、
地上の人間をも養分にしはじめたというオカルトな設定。
怪獣が死ぬ時には何故か忘れましたが読経が聞こえるという展開。

これだけで純粋な少年は恐れをなして、
花屋でバラを見るのも怖くなったのですよ。
身近なものがもしも、というのが一番怖いですな。
しかも血を吸う、と言うのが注射のような怖さでもあります。


気にしなくなったのはいつからでしょうね。
この画像のバラも先日の雨であっさり散ってしまいましたが。

今ではバラについて思うことと言えば
「市民ケーン」の名台詞「バラのつぼみ」とか、
マイク真木の歌「バラが咲いた」とか。
青いバラを作れたら世紀に名を残せるとか。
それに関するいろいろな情報が増えて来たから恐怖が薄れてきたのか。
なんとなく昔を振り返ってほほえましくも思うのでした。

プリンシブル2006年10月06日 03時20分47秒

久しぶりに新書を読破しました。
「白州次郎/占領を背負った男」です。

ごく最近になって表に名が出てきた、
吉田茂を影で支えGHQ相手に敢然と立ち向った男、白州次郎。
かくいう私も新聞の書評欄で紹介された本書で知りました。
しかも東北電力会長もされていたそうですよ。

紳士、ダンディというイメージが先行していますが、
本書から受ける実際の人柄の印象はつかみ所がないという感じです。
地位に反して無欲であり、筋を通すことを重んじる一方、
血気は盛んで語調も荒くなりがち、矛盾するような側面を持ちながら、
はっきりとした爽快な印象を受けます。

白州次郎自身の魅力もさることながら、
その時代背景、特に日本占領から講和条約締結までは
それに関わる日本側・GHQ側の人間模様もあわせて
真・戦後日本史とも言うべき発見があります。

特に敗戦後の占領軍からの一刻も早く独立を実現するための
肉を切らせて骨を断つような駆け引きは圧巻です。
現代で、是非を問われている議題の始まりには
先を考え、他者を国を思う心があったことに目が覚める思いです。
彼らの奮闘があり今の私たちの生活があることを胸に刻まなければと。


安部晋三の父、安部晋太郎は白州次郎番の
毎日新聞記者だったと言うことですが、
「美しい日本」という発言ももしやこの繋がりに起源があるのでしょうか。


締めくくりの文章に、白州次郎の生き方に触れた人は
高倉健の映画を観たような、一体感に浸るとありましたが、
私もやはり本書を手本にしたいですよ。
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