こころをゆらして ~「大長編ドラえもん のび太の宇宙開拓史」2010年09月04日 23時57分45秒

映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史
映画ドラえもん のび太の宇宙開拓史

BSで「大長編ドラえもん のび太の宇宙開拓史」が放送されていました。
劇場版2作目の1981年公開なので、もちろん声は大山のぶ代さん。


何千万分の一かの偶然で遠い遠いどこかの星と、
のび太の部屋の畳の下が超空間の歪曲が原因で繋がる。
遠い星コーヤコーヤの少年ロップル君達との友情を育み、
星の平和を乱すガルタイト工業をやっつける、
痛快娯楽SF作品に仕上がっている。

超空間の歪曲とはなんぞやと言う話は置いておいて、
このコーヤコーヤ(正確にはロップルの宇宙船)と地球が繋がったという
偶然が生み出した僥倖は、物語の中盤でもう一つの展開を見せる。

最初はのび太の部屋の畳を反せば宇宙船のドアに繋がっていたのが、
畳を反すとドアの向こうに行き着くまでに超空間の隔たりが現れる。
劇中の描写では、宇宙船が爆弾により爆発したことがきっかけの様だが、
もともと高速飛行中のワープという不安定な状態が要因で生み出された偶然が、
空間歪曲が安定化していくにつれ、あるべき形に修復されていくという具合だろう。

繋がっていた2つの場所はどんどん離れていき、
空間が完全に修復されれば、二度と行き来はできなくなる。
しかし、向こうには助けを待つ友がいる。
危険を冒してでもゆかねばならぬ。
そしていつ来るか分からぬタイムリミットとの勝負。
夢のアイテムが一転してスリルとサスペンスを生み出す。
使い方が実に上手い。

さらに感動的なのは、事件を解決して地球に戻るとき、
極限まで遠ざかる2つの空間の間を飛ぶのび太達。
その脳裏には、これまでの楽しい出来事が駆け巡る。
遠く離れた対岸同士に立ち見詰め合う、のび太とロップルの妹クレム。
クレムはのび太に教わったあや取りを見せ、
のび太はクレムにもらった雪の花をかざして見せる。
たとえ永遠に離れてしまっても想い出は幻ではないという象徴。

不安を与えたアイテムは最後に最高の温もりをプレゼントしたのです。

大長編ドラえもん (Vol.2) のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス)
大長編ドラえもん (Vol.2) のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス)

この一連のシーン、漫画原作版では3/4ページほどの1コマ1シーンです。
超空間を落下する場面でのび太がしずかちゃんがドラえもんが手を振っている。
その同じコマの中に主題歌「心をゆらして」の歌詞が刻まれる。
もちろん、映画版ではこの主題歌が盛大に歌われます。

普通、2時間映画版は長編原作より短くすると思われがちですが、
優れた作品は、原作で短く描かれるところこそ膨らますように思う。
松本清張の「砂の器」しかりだ。

どちらが優れているというのではありません。
映画版も漫画版も、それぞれの持つ力で最大限の演出を成功させている。
映画・アニメーションは動を繋ぎ、漫画は動の一部を凝固させることで。
重ねることから焼きつく感動、一瞬から広がる感動。
それは、混迷するメディア其々が還るべき原点かもしれません。


しかし論より何より、夢と冒険と友情に乾杯。


こころをゆらして こころをゆらして みつけてください


とてもとてもだいじなものを。

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