闇から覗き闇を射抜く目2010年09月21日 23時01分32秒

小林桂樹さんのことで小林正樹監督と~書いていたら、
小林桂樹と書かねばならないところを見事に小林正樹と書いて汗が出ます。

せっかくなのでというと申し訳ないのですが、小林正樹監督のことを。


1996年に80歳で亡くなられた小林正樹監督は僕の好きな監督です。
とくに「切腹」「人間の條件」は圧巻の言葉に尽きます。

「切腹」は僕の好きな時代劇映画ベスト10にも入る作品。
江戸時代、井伊家の屋敷前で浪人が切腹を申し出る。
それは「早まるな、これを持って行け」と
金を渡されることを狙った流行のたかりのようなものだったのだが、
同じ様な話に飽きていた屋敷では申し出を受けることにした。
しかし、浪人の語り出す話に籠められた怨嗟と憤怒を彼らは知る由も無かった・・・。

昨今、日本人が忘れかけた美徳を表す映画として
時代劇映画が作られることもありますが、この映画は全く真逆を行きます。
力の無い者が無き、貶められ、全てを奪われていく
武家社会の暗部を抉り出され鬼の形相で語られていきます。
まず、余興の様に切腹を試そうという点から歪だ。

それらは武士道・武家社会を賞賛することへの警告と言うよりも、
そこに居る人間の精神性が権力構造を腐らせ格差を生み出す、
昔だろうが現代だろうが、そこは変わらないのだと諭している様に思います。

最後は屋敷の者達と切り結ぶ浪人役・仲代達矢が殺されて終わるのですが、
彼が最後に怒りを胸に切りかかるのが武家社会の象徴と言える、
奥の間に飾られた甲冑であるという場面が忘れられません。
不気味に空洞の目で見つめる兜面が禍々しく思い出されます。

今井正監督の「武士道残酷物語」と並んで見ておきたい時代劇ベストです。
(「武士道残酷物語」を時代劇と呼ぶか検討の余地はありますが。)
今年2010年は時代劇が大漁の年のようではありますが、
これほどの覇気・闘気を剥き出しにした傑作は生まれないと思います。


「人間の條件」においても、他作「いのちぼうにふろう」
「上意打ち 拝領妻始末」においても、
小林正樹監督は仲代達矢を好んでかよく起用します。

仲代達矢は近作は「春との旅」ですっかりお爺さんになってしまいましたが、
僕はこの小林正樹監督の「切腹」や「人間の條件」、
熊井啓監督の「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」などに出ている時の
仲代達矢に敬意を籠めます。

なんと言っても目の力が凄い。ギラギラギロギロしている。
最初からではありません。自らのことを語り語っていくうちに、
言葉に目に異様な力が篭ってくるのです。
「切腹」においても座ったまま相手を微動だにせず射抜く様な目、
「人間の條件」におけるあらゆる苦難に屈せず這いずりまわる目、
「謀殺・下山事件」における事件の追求とたちこめる闇への焦燥の目。
狂気と焦り、あるいは強い意志を宿した光灯る目が忘れられない。

ポイントはこれら全てはモノクロ映画であること。
この人の目の力はモノクロ映画のさらに暗いシーンにおいて、
最大限にその力が発揮されます。そしてあの地の底から聞こえる様な声音。
きっと小林正樹も熊井啓もそれを欲して信頼していたと思います。

監督自身のことについて受賞歴とか人物とか書きませんでしたが、
ある人は「作品を見てくれ。それが全てだ」とも言いますので。
Wikiでも引いてくだされ(←ひどいなげやり)。


レンタルでは「謀殺・下山事件」以外は割りと探しやすいので見て頂きたい。
「謀殺・下山事件」も何故か仙台では油断しているとたまに夜中にTV放送する。
もし巡りあったら見ておいて頂きたい。

思想性・社会性、圧倒する演技力、そして惹き込む娯楽性。
そんな魅力を持った映画、そして映画人にこれからも出会えますよう。

切腹 [DVD]
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人間の條件 第1部 純愛篇 [DVD]
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武士道残酷物語【DVD】
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