ゼロでなければ可能性は100% ~劇場版 天元突破グレンラガン/螺巌篇2009年05月02日 23時13分57秒

ガイナックス製作TVアニメ「天元突破グレンラガン」の劇場版、
劇場版 天元突破グレンラガン/螺巌篇」についてのこと。


昨年公開された「劇場版 天元突破グレンラガン/紅蓮篇
の続編であり、劇場版の完結編となります。
基本的には紅蓮篇・螺巌篇ともにTVシリーズ全27話を
再編集したものなので、物語の大筋はTV版と代わりませんが、
脇のストーリーを削り再構成して印象を異なるものにしています。


TV版のケレンという言葉では足りないほどの勢いを
製作者自らが「緩・急」ではなく「急・急・急」と語るほど
さらに何倍にも増幅させ、正に天元突破となっており、
怒涛の勢いで楽しませてくれますが、不満がないわけではありません。

省略された「緩」にあたるもの、紅蓮篇でのそれも含めてとなりますが、
「グレンラガン」の魅力はそこでもあったし、
それがあったからこそ「急」に厚みができたとも言えます。

例えばTV版で好きだった感触であり近ごろ感じていなかったのが、
外の風景場面で風を受けるような開放された空気感です。
オープニングアニメで暗い地の底からラガンが岩盤突き破る。
地上の上空にシモン達が出たときの人物達の髪を頬を撫でる風。
野外キャンプで星空を見上げて途方も無い計画を語る夜。
その空気を胸にいっぱいに吸いながら、友と格闘し背中を預け、
束の間の安らぎを共に過ごしあう。

そのひとつひとつの営みを守りたいからこそ、
ありあまる血潮の滾りに燃えてどこまでも突き進む。
「幸せはいつだって失って初めて 幸せと気づく小さな不幸」
その小さな幸せが劇場版ではやや薄められてしまった感があります。

とはいえ、再構成は別の次元へと素晴らしき昇華へと至ります。
「紅蓮篇」では地上を支配する獣人達と螺旋王から
人間が地上での生活を勝ち取るための戦いを描きながら、
主人公・シモンがカミナ兄貴の背中を追いかけ、兄貴の死別、
兄貴があの日くれた言葉を胸に自分の人生に目覚めるまでを軸に描き、
「螺巌篇」では人間がやがて宇宙を滅ぼす存在と危険視して、
根絶するために宇宙から攻めて来るアンチ・スパイラルと戦い、
その物語の中で軸として、
出会ってから7年の歳月をかけて結婚の告白をしたその瞬間に、
敵に奪われたシモンの運命の女性・ニアを
救い出すためのシンプルかつ壮絶なまでに力強い、
銀河も超自然も次元も突破するラブストーリーとして再構成されました。


「惚れた女を救い出すためにふっかける宇宙一の大喧嘩なんだよ!」
というキタンの台詞にそれが全て集約されています。
「グレンラガン」のキーワードの一つに「ドリル」があり、
「ドリルは男の魂」がいつの時代から囁かれ始めたかは知りませんが、
ならば、惚れた女のために全身全霊をかけることもまた男の魂であろう。

アンチ・スパイラルのメッセンジャーと化し精神を乗っ取られたニアが、
「私を救い出せる可能性は限りなくゼロに近い」と言うのに対し、
「可能性がゼロじゃないなら、俺にとっては100%と同じだ!」
と語るシモンの台詞は、勝ち目の薄い戦いにあがき続ける者にとって、
希望と闘志に目覚めさせてくれる最高の名言です。

交響詩篇エウレカセブン」ならば
「ねだるな、勝ち取れ、されば与えられん!」
あたりがその精神に近いでしょうか。


「グレンラガン」は主役ロボがどんどん巨大化するのが特徴ですが、
人間並みの大きさのロボット「ラガン」が、
巨人並みの大きさのグレンと合体して、グレンラガンに。
グレンラガンが戦艦アークグレンと合体してアークグレンガランに。
月とほぼ同じ大きさの機動要塞カテドラル・ラゼンガンと
アークグレンラガンが合体して超銀河グレンラガンに。
そして、意志の力によって銀河系を超える大きさになったのが、
「天元突破グレンラガン」であります。
TVシリーズではそこで終了だったのが、
劇場版ではさらにその上を行く巨大さへ至ります。

それぞれの合体の鍵となるのがドリル。
一番最初のラガンを動かす最初のドリルは、
シモンの掌に収まるほどの小さなコアドリルだった。
それが、最終的には宇宙も時空も超えるまでに至り、
劇場版では∞を象徴する演出がなされています。

思いと願いの力があれば、希望が尽いえることはなく、
仲間達の力を結びつかせ、どこまでも突き進むことができる。
どんなに巨大なものに否定されようと可能性はゼロではない。
それが「グレンラガン/螺巌篇」の素晴らしさではないでしょうか。


中川翔子の歌う今回の主題歌「涙の種、笑顔の花」。
タイトルからして素晴らしい言葉です。
困難な日々に挫けかけ苦しみ切なさの涙を流しても、
それすらも笑顔の花を咲かせるための運命であること。
あるいは、その先に笑顔の花があれば、
そこまでの全ての苦しみから救われること。
まさに、人生でありましょう。

大袈裟ではなく、人生に迷った人はグレンラガンを見て、
「空色デイズ」「happily ever after」そして「続く世界」の歌詞を噛み締めてみよう。
もちろん「涙の種、笑顔の花」も。答えはきっと、そこにある。


「可能性がゼロじゃないなら、俺にとっては100%と同じだ!」

これは、惚れた女の笑顔の花のために力の限りを奮う男の物語。


コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://crystallog.asablo.jp/blog/2009/05/02/4283316/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

Loading