結末に勝るそこまでの道のり ~ビフォア・サンセット2009年05月22日 23時52分18秒

イーサン・ホークという俳優を知ってから
10年ぐらいになるものの、未だに良く分からない。

19歳から本格的に俳優活動を始め、
着実に確かな演技力を身に付け、実際に
デンゼル・ワシントンにアカデミー主演男優賞をもたらした
トレーニング・デイ」では助演男優賞にノミネート。
監督をこなしても脚本に関わっても確かな作品を完成させる。
ルックスは痩せ型で顎のヒゲが定着しているが、
繊細な男の役がよく似合い、役に溶け込んでしまう。

出演傾向は早くから偏り始め、実験的映画や
アート系、ミニシアター系映画への出演を選ぶ傾向に。
自分で監督した「チェルシーホテル」などもそう。
かといえば、最近は「要塞警察13」「テイキング・ライブス」
といった出なくても良いようなB級映画に出る。

哲学的でもあり現実的でもある達観したところもある。
ちなみに、オバマ大統領を支持している。

そんなイーサンのフィルモグラフィの中で、
一際輝く魅力を放っているのが1995年の作品
「ビフォア・サンライズ/恋人までの距離(ディスタンス)」の続編
2004年の主演作品「ビフォア・サンセット」です。

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「ビフォア・サンライズ」は欧州長距離列車で出会った
アメリカ人学生ジェシーとフランス人学生のセリーヌが、
ウィーンの街を散策し語り合いながら一夜を過ごす物語。
最後に、二人は6ヶ月後にきっと再会しようと誓って別れる。


「ビフォア・サンセット」は二人が30代になり、
(作品同士の間の年月、俳優が過ごした日々と同じ時間)
あの6ヶ月後の日には再会できなかった二人が、
9年ぶりにパリの街で再会するという物語。

ジェシーは9年前のセリーヌと過ごした時間をもとに、
フィクションの形をとりながら実質的には
自伝的恋愛小説を書き上げて出版する。
それが話題を呼び、世界12カ国を回りパリへ。
パリの書店でのサイン会に、本を読んだセリーヌが現れる。


「サンライズ」は約半日で街を歩く二人の会話が主役で、
「サンセット」もそれを踏襲しているもののより洗練され、
サンライズの上映時間より約20分短い80分でありながら、
その80分を、サイン会の終了から帰りの空港に乗るまでの
タイムリミットとほぼ一致させ、その1時間弱を惜しむように
できる限りの会話を交わしていき、凝縮された時を捉えていきます。
そして会話の内容と佇まいには、確かに9年を経た歳月を感じます。

なお、其々の題名直訳は"日の出前""日没前"。
二人の過ごす時間帯を示すものでありますが、
二人の出会いと別れに対する深い意味を含むようにも感じます。

若かった9年前の瑞々しさを思い出し、直ぐにあの頃に戻る二人。
しかし、それぞれに過ごした9年もまた互いの思考に影響し、
ジェリーは結婚しているが、結婚生活は上手く行っていない。
セリーヌは恋人はいるが、深く付き合うことができない。
9年前の夜が輝かしくもあり、それに囚われているようでもあります。

だからと言って、お互いに今のパートナーと別れて
焦がれた理想の相手と今度こそ一緒に、とはなりません。
でも"もしかしたら"という想いが僅かに覗く。

変わらないところ、変わったところ、
そして変わり行こうとしているところ。
自分にも相手にも感じる9年がもたらしたそれをありのままに、
今このひとときを一秒でも逃すまいとして会話を重ねていく。

「ローマの休日」の様に、明らかに別れる時に向かう時間の中で、
花にも実にもならない品性の乏しい会話で時間を無駄にはできない。
その焦燥によって、会話が洗練され熱が籠っていきます。
あの夜の後について、近況について、人生について
死について、世界について、自然について、人間について。
二人の会話は若き頃と現在と未来を行き来し、
達観した大人っぽさと未練を含んだ若々しさが混在していきます。

そんな充実した会話をしてみたいものです。
登場人物と同じ30代なのに・・・。

この映画の結末は曖昧です。
飛行機には乗り遅れそうな状況で終わりますが、
ジェリーが帰国するか滞在するかは語られないまま。
結末は重要ではなくそこまでの時間を過ごす二人がテーマなので、
その後のことは、観客のそれぞれの胸に
それぞれの結末を描けば良いのでしょう。
ロマンを追う者は現実を蹴り倒し二人を結びつけ、
ほろ苦い想い出を好む者は一滴の涙を残して旅立たせる・・・。

私には「このままでは行けない。旅立たなきゃ。」と、
"サンセット"、終わりを知覚しているように感じました。

どんな結末であろうと、二人の出会いと再会は
輝かしいものであり意味のある大切な時間であります。
一緒になれるかは問題ではないのではないか。
遠くアメリカで、フランスで、時々相手を思い慕うこと。
出会ったことそのものに意味がある。
それだけで良いと思えるには、さらに9年が必要かもしれません。

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ちなみに、イーサン・ホーク自身も
痛いほど君が好きなのに」という自伝的小説を出版。
その約10年後に自身の監督で映画化しています。

「サンセット」のラストでイーサンが遠くを見つめながら、
宙に上げた手首を何気無しに動かしています。
私も思考に耽るときに気づくとこんな風になっています。
私が気になる要因はそんな自分に似た部分かもしれません。
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