狂気の暴走2006年07月06日 22時36分19秒

今年公開の映画でもっとも奇抜な邦題かと思う「変態村」です。
何やら宣伝チラシも怪しいので躊躇しましたが、
カンヌ他ヨーロッパの映画祭で賛否両論という話に乗って
怖いもの見たさで鑑賞。ビデオレンタルしないかもしれませんし。


若い美男の歌手マルクは老人ホームでのクリスマス・ライブを終えた
帰路の途中、地図上では村もない辺鄙な山中で車がエンストする。
しかし近くに古びたペンションがあり、オーナーのバルテルの世話になる。
妻に逃げられたために精神を病んだ、どこか不気味な面がある
老人だったが、平常はマルクに親切であった。
マルクはバルテルに「奥の村には行くな」と警告されるが、
無視して進んだ先で村人の異常な行動を目にする。
同じ頃、マルクとかつて歌手だった妻の面影が重なっていた
バルテルの精神バランスも崩壊しようとしていた・・・。


全体を通じて不気味さや異様な雰囲気が漂う作品です。
ただ、視覚的にグロテスクやエロティックな描写が多いわけではなく、
欧州北部の寒村独特の無表情や精神を病んだ村人、
そして、荒涼とした木々と雪の大地の景色という要素が
トータルで醸し出す雰囲気です。

冒頭の正常な?老人ホームの人々も含めて、
異常な行動の原因は愛情から始まっていることが恐ろしい。
愛が憎しみとなるのはまだよくある話でありますが、
この物語の場合、狂気に至ったときもまだ愛情を抱いているわけです。

ただの同性愛描写ではなく、村人の目にマルクが「バルテルの妻」
として本当に映っているのが不気味です。
村の詳細な歴史には触れてはいませんが、
変わり者や偏屈者だけが取り残された廃村、
という想像とそうズレてはいないでしょう。
そういう人々だった、というのを抜きにしてもそれほど惑わせた
「バルテルの妻」とはいかな女性だったのでしょうか。
それとも、そんな女性は本当にいたのでしょうか。

ラストの逃亡シーンは一見の価値ある映像だと思います。
木々の墓場のような風景、その中に一瞬映る磔死体。
本当にこの場所が現世なのかと疑うような幻想的な風景です。


頭に染み付いて離れないような、感覚の奥深くに触れる作品。
テーマと映像も演出も忘れられないレベルですが、
やはり、この邦題はいただけません。
原題は「CALVAIRE」。直訳は「受難」。キリストのそれも指します。
確かに登場人物はほとんどが異常です。
しかし「変態村」では無駄な先入観や想像が邪魔してしまいます。
見て納得はしますが、いかようにして見る気にさせるかは
商業的・文化発展的双方の意味で重要なことです。
この邦題をつけた判断は誤っていると思います。

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