不撓不屈2006年07月03日 22時21分38秒

骨太の男のドラマ、高杉良原作。「不撓不屈」です。

1963年。税理士・飯塚毅は中小企業の経営者と従業員への
利益還元のため節税対策を勧めていた。
法的には問題はないが、国税局は認めず脱税であると主張。
飯塚及び顧客達への弾圧に等しい捜査が開始され、
実に7年に及ぶ闘争の日々が始まった。


高度経済成長。歴史の教科書は最後に駆け足で詰め込まれ、
また当然のように生まれていない世代には実感がない。
小説や映画での60年代の知識と言えば
安保闘争とベトナム戦争ぐらいのものかもしれません。

しかし、この時代を見直すと時代そのものが大きく激しい流れが主流で、
この映画に登場する零細企業の経営者や従業員達といった、
流れに乗り切れない人たちを置いてきぼりにした時代、
「主流」しか見えていないので支流を伝えなかったように感じます。
なにやら、現在の経済・所得問題に似ている気もします。

蛇足ですが、物語が始まる1963年と言えば、
今問題の北の拉致被害者が連れ去られている頃です。
このような問題も、発展の中で後回しにされてきたのかもしれません。

飯塚毅は世の主流に疑問をもって弱者を守る側に立ちました。
元々が裕福ではなかったお陰かもしれませんし、
禅の学びが強く影響したのかもしれません。
「東京に出てはこないのですか?」という問に飯塚が
「ここが私の故郷だからね」と答える場面があります。
出世をしても自分のルーツを忘れず、自分の立つ場所が見えたのでしょう。

ただ、疑問や正義感だけは7年間戦い抜くことは困難です。
それを支えたのはなんといっても松坂慶子演じる飯塚夫人です。
男気溢れる高杉良原作映画にしては珍しい、強い女性の登場です。
現代ドラマの女性達は逃げ出すことが多い中、
時代劇のような女性であり昭和の日本人魂を持っていたと思います。


昭和の男の魂のような、プロジェクトXのような側面もありながら、
昨今の税制改革や経済格差への目配せ、
さらに親子関係や熟年離婚へのメッセージといった、
多岐に渡る言葉が感じられる一作でございました。

それにしても、強い社会党が懐かしい。

敷居は高く感じるかもしれませんが、心は揺さぶられます。

狂気の暴走2006年07月06日 22時36分19秒

今年公開の映画でもっとも奇抜な邦題かと思う「変態村」です。
何やら宣伝チラシも怪しいので躊躇しましたが、
カンヌ他ヨーロッパの映画祭で賛否両論という話に乗って
怖いもの見たさで鑑賞。ビデオレンタルしないかもしれませんし。


若い美男の歌手マルクは老人ホームでのクリスマス・ライブを終えた
帰路の途中、地図上では村もない辺鄙な山中で車がエンストする。
しかし近くに古びたペンションがあり、オーナーのバルテルの世話になる。
妻に逃げられたために精神を病んだ、どこか不気味な面がある
老人だったが、平常はマルクに親切であった。
マルクはバルテルに「奥の村には行くな」と警告されるが、
無視して進んだ先で村人の異常な行動を目にする。
同じ頃、マルクとかつて歌手だった妻の面影が重なっていた
バルテルの精神バランスも崩壊しようとしていた・・・。


全体を通じて不気味さや異様な雰囲気が漂う作品です。
ただ、視覚的にグロテスクやエロティックな描写が多いわけではなく、
欧州北部の寒村独特の無表情や精神を病んだ村人、
そして、荒涼とした木々と雪の大地の景色という要素が
トータルで醸し出す雰囲気です。

冒頭の正常な?老人ホームの人々も含めて、
異常な行動の原因は愛情から始まっていることが恐ろしい。
愛が憎しみとなるのはまだよくある話でありますが、
この物語の場合、狂気に至ったときもまだ愛情を抱いているわけです。

ただの同性愛描写ではなく、村人の目にマルクが「バルテルの妻」
として本当に映っているのが不気味です。
村の詳細な歴史には触れてはいませんが、
変わり者や偏屈者だけが取り残された廃村、
という想像とそうズレてはいないでしょう。
そういう人々だった、というのを抜きにしてもそれほど惑わせた
「バルテルの妻」とはいかな女性だったのでしょうか。
それとも、そんな女性は本当にいたのでしょうか。

ラストの逃亡シーンは一見の価値ある映像だと思います。
木々の墓場のような風景、その中に一瞬映る磔死体。
本当にこの場所が現世なのかと疑うような幻想的な風景です。


頭に染み付いて離れないような、感覚の奥深くに触れる作品。
テーマと映像も演出も忘れられないレベルですが、
やはり、この邦題はいただけません。
原題は「CALVAIRE」。直訳は「受難」。キリストのそれも指します。
確かに登場人物はほとんどが異常です。
しかし「変態村」では無駄な先入観や想像が邪魔してしまいます。
見て納得はしますが、いかようにして見る気にさせるかは
商業的・文化発展的双方の意味で重要なことです。
この邦題をつけた判断は誤っていると思います。

定番のよさ2006年07月06日 23時50分15秒

言わずとしれた仲間由紀恵&阿部寛、堤幸彦監督
「トリック 劇場版2」です。
阿部寛のこの頭とヒゲも見納めです。

ドラマスペシャルや劇場版など、最新のものに近くなるにつれて
評判が微妙なものになっている本シリーズですが、
私はこのくらいで良いと思いますけどね。

TVドラマの劇場版というと多くの場合、
よりかっこよく、よりシリアスにとか妙な力が入り過ぎて、
TVのノリを期待して見に来た観客を置いてきぼりにすることがあります。

ですから、いつもの導入部で始まり、いつものユルユルで進む。
主要人物の定番ネタもまたかと思いつつしっかりやる。
ああ、トリックだ。と安心する作りは好きです。
あとはパロディ部分は好みの問題ですからね。
志茂田景樹が出てきただけで(ポスターですが)大笑い。

掘北真希は年の割りに非常に落ち着いている方ですね。
「方」と呼んでしまうくらい、年不相応で可愛くないともいいますが(笑)。
女優としての活動を密かに楽しみにしている次第です。

ただ、最終作だというのにトリックが読めてしまったのは寂しいです。
昔はやられた!と思ったんですけどね。
まあ些か赤川次郎先生のようなそんなアホな、というものもありますが。
こちらがシリーズ慣れしてしまったのでしょうか。
村を消すトリックはどこか他で見たと思いますが、思い出せない・・・。


さて、「トリック」を終わらせ「明日の記憶」などシリアスドラマに
着手した堤監督の次の一手はどうなるでしょうか。
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