鉄猿参上! ~「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー」2012年03月13日 23時49分03秒

映画DVDの画質がハイビジョン放送の画質より劣ることによって、
デジタルテレビ放送で見た方が良いと考えられてしまい、
DVDの売上低下、さらなる価格低下が進んだと言われています。

かといってBDとDVDの交代が加速するかというとそうでもなく、
まだまだBDは出さずにDVDのみ発売という状況は続くようです。
やはりまだ、BD再生機が無い家庭というのも珍しくないからでしょうか。

その、かける予算と市場規模云々のせめぎ合いのおかげ?か、
過去にDVD化済の作品の再発売は、実にお手頃であったりもします。
かつて見たあの作品の現在をたまにAmazonで調べているのですが、
今回はそのような1本を即購入してしまいました。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー デジタル・リマスター版 [DVD]
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー デジタル・リマスター版 [DVD]


この作品に出会ったのは僕が映画にはまる数年前、
大学に入学して間もない頃のこと。
友人から「なんだかヘンだけどスゴイ映画があるぞ」と、
友人宅でのVHS鑑賞会に誘われたことがそもそもの始まり。

確かに凄かった。主演のドニー・イェンも監督のユエン・ウーピンも、
鉄猿のユー・ロングァンも知らなかったけれども、
香港映画といえばジャッキー・チェンとブルース・リーしか
知らなかった自分にとっては衝撃だった。

もっとも、主演格の鉄猿の「鉄猿参上!」と画面奥に、
ズームもなんの見得も無く降下する登場場面が
一番の衝撃というか笑撃で頭に焼きついたのですが。


「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」のことも
リー・リンチェイという凄い奴がいることも後から知りました。
知った時は既にリンチェイは、海を渡りジェット・リーとして
活躍の場を拡げ始めていたのでありました。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」
「昔々、中国のあるところで・・・」というような意味の英語題名のこの作品は、
中国は清朝末期に実在した武術家・黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)の
活躍を描く娯楽活劇で、テレビシリーズも併せて息が長い。
なお、原題はずばり「黄飛鴻」。

「香港のスピルバーグ」とも呼ばれるツイ・ハークが監督または製作、
リー・リンチェイ主演の「天地黎明」「天地大乱」「天地争覇」の
初期三部作がとりわけ超人的アクションで強烈な印象を残す。
実際、VHS時代には「極東ハリウッドシリーズ」という、
真面目ともおふざけともとれるたいそうなロゴが巻頭に挿入されたりもした。


本作は原題に「少年黄飛鴻」と付く通り、黄飛鴻は少年として登場し、
かつ主役ではありません(それでも存分に活躍しています)。
代わって黄飛鴻の父、黄麒英(ウォン・ケイイン)が登場、
これまた実在したという義賊・鉄猿とW主人公という具合です。

清朝末期、ある街で悪政を働く役人から盗んだ金を貧しい人々に分ける、
義賊・鉄猿を捕らえるため、役人達は闇雲に人々を連行し始める。
その人々の中には、医者として各地を回っていた黄麒英と息子・黄飛鴻も。
そこへ現れた鉄猿と黄麒英が一戦交えると、役人は黄飛鴻を人質にして、
黄麒英に鉄猿を捕らえて来るように命じる。
しかし、鉄猿の正体は街の人々から信頼の厚い医者・ヤン先生だった。
やがて固い信頼で結ばれた二人は協力し、政府から派遣された監督官にして、
少林寺の裏切り者・ハンホン和尚と刺客達に立向かっていく。

「天地争覇」後の作品は回を追うごとにアヤしくなっていった気がしますが、
そのなかでこの「アイアン・モンキー」は秀逸にして傑作、
見方によっては本編よりも楽しめる秀作と言えるかもしれません。


「天地黎明」から「天地争覇」までは活劇でありながらも、
孫文や西太后、当時の諸外国勢力等々、歴史上の人物や出来事も多く
織り交ぜられ現実に照らし、ドラマに重きも置いた面も見られますが、
「アイアン・モンキー」はその制約(?)から大胆に解き放たれ、
ドラマはほぼ勧善懲悪の定番、次々に繰り出される華麗・超絶・
豪快・驚愕、およそ考えられる全ての賛辞を捧げるべきアクションに
我々はただただ魅入られ、驚嘆すれば良い作品となっています。

物語は単純、それだけに黄麒英と鉄猿の高潔さと温かな人柄と、
撃ち砕くべき規格外の悪と、両者の力と技が際立っています。
本作以前に「ドランクモンキー/酔拳」を監督し、
後に「マトリックス」の武術指導を担当するユエン・ウーピンは
今回細かいカットを重ね、アクションの長回しは少ないものの、
カットの繋ぎそのものがアクションを華麗に演出。
千切れる鎖、砕け飛ぶ煉瓦、燃え広がる炎すらも美しい。
黄麒英&鉄猿VSハンホン和尚の火の海の柱の上での
空中最終決戦は、これでもかまだくるかとこちらの拳も熱くなる。

物語が単純とは言いつつ、視野を他作品に広げれば、
少年黄飛鴻が鉄猿から棒術の指導を受けて才能を開花させるくだりなど、
後の時代の黄飛鴻のそれに連なるのは勿論のこと、
少年黄飛鴻を演じるツァン・シーマンがジェット・リーになったわけでも
ないにも関わらず、ジェット・リーが他作品でも披露する
棒術の絶技に受継がれてる様な錯覚に囚われ心地よき眩暈が襲ってくる。

黄麒英はもちろん父ですから、黄飛鴻とは別人なのですが、
敢えてリー・リンチェイと比べるとドニー・イェンの方が
端正な顔立ちで美形度が上のため、流麗に映っている様に思えます。
とはいえ同年、リー・リンチェイと組んでユエン・ウーピンは
「マスター・オブ・リアル・カンフー 大地無限」を制作、
こちらも流麗なる太極拳を繰出すリー・リンチェイがおり、
やはり当時の鮮やかな演出の賜物だったのかもしれません。

様々な武器や小物もあますとこなく意味を持って描かれていますが、
黄麒英とヤン先生が料理の腕を互いに披露しあうところもまた、
料理が美味そうで鮮やかな手付きで食欲がわいて来ます。
アクション以外のこんな場面でも美味い、いや上手い。
僕の好きな評論家がジョニー・トー作品の食事場面で食欲がわくと
仰っていましたが、それと似たような感覚だと思います。


どんなに気に入っても、一度見て棚のオブジェになるDVDも多いなか、
見始めるとついつい見てしまっている「アイアンモンキー」。
出会った時にはわからなかったことと結びながら、
今また出会っての新鮮な驚きを感じています。
Loading