近くて遠きは心の距離 ~近距離恋愛 ― 2009年05月21日 23時06分34秒
数ある映画の分類でラブストーリー映画は評価が分かれる。
ヒューマンドラマの一分野とも取れるけれども、
共感か憧れかという観客の現実と理想とどれだけ合致するかが争点。
面白いラブストーリーの傾向としては、
人物の人生と心理を丁寧に描くこと、
つまり相手がどれだけ選ぶに値するかを
観客に共感や憧れで自然に受け入れさせるか。
その人物の生まれどころか親の代まで遡る
韓国ドラマはこの手法を得意とするところ。
あるいは、シチュエーションを楽しむこと。
「卒業」の様に結婚式の場から花嫁をさらう、
「猟奇的な彼女」等の振り回されるよな恋愛、
玉の輿・逆玉、三角関係等々があげられます。
米英合作の「近距離恋愛」はややシチュエーション寄りですが、
大人の雰囲気漂う良い佳作です。
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学生時代以来、10年来の親友のトムとハンナ
トムはプレイボーイで特定の相手は作らなかったが、
自分の発明商品が財を成し、良き友人達に囲まれた順風満帆な日々。
ハンナはメトロポリタン美術館の職員になり、二人は良き親友。
友達以上、恋人未満。
公の場にパートナーとして現れることもあった。
ある日、ハンナはスコットランドへ6週間の出張へ発つ。
トムはそんなに長い間もハンナと離れたことが無かったが、
気づくとハンナを胸に思い続ける自分がいた。
友人達に背中を押され、トムはハンナの帰国を迎えると同時に、
ハンナに求婚を申し込もうと決意する。
ところが、帰ったハンナはコリンという男を連れてきた。
なんと、スコットランドで出会い、彼と結婚すると言い出した。
彼女への想いも打明けられず、花嫁付添人役を引き受けるトム。
結婚式までの間になんとか自分の思いを告白し、
ハンナを取り戻したいとトムの奮闘の日々が始まった。
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ショーン・ペンとダスティン・ホフマンを薄めたような、
やや印象の薄い顔のトムを演じるのはパトリック・デンプシー。
TV「グレイズ・アナトミー」のデレク役で有名。
ハンナを演じるのは、「イーグルアイ」で
シャイア・ラブーフと共に逃げ回るシングルマザーや、
「M:i:III」でトム・クルーズの妻役を演じた
ミシェル・モナハンです。
それぞれ当時41歳、31歳と思われ、
やや年齢的は設定よりも高めと思われるものの、
日本での知名度がまだ顔と名前と役が一致するほどでない
点とも相まって、大人のほんのり苦い恋愛という印象を感じます。
女性から見れば今までフラフラしてきて今更何よ!
と言いたくもなるかもしれませんが、男心も微妙なのです。
ハンナは自立的で目の前も見ながら周囲も見渡せる女性で、
火が点いたら一気に燃え上がる行動力も知性も持っている。
トムは様々な相手を口説き落とすも、しかし深くは入れ込まない。
実は自分の恋心はじっくりと育み、ゆっくり過ぎて自分でも気づかず、
そして気づけば相手は他の男のところに行ってしまっている。
女性に手が早いか否かは特に関係なく、こういう男は多い。
ちなみにそういうのを草食系とか昨今言うそうでありますが、
草食系は感情の高まりすら無いのであって、
胸は焦げる程に燃えているのにストッパーが
中々外せない男子とは違うことを誤解無き様。
ここで玉砕覚悟で逆転に挑むか、ぐっと堪えて祝福するのか、
どちらでも応援したくなり共感してしまう、複雑な問題です。
さて、パーティの準備や衣装選びのアドバイザとなる付添い人、
その間の活躍でハンナを振り向かせようと奮闘するトムだが、
評価を上げるほどに、付添人としての株ばかり上がり、
ますますハンナは良い結婚ができると思うばかり。
"ありがとう"とハグされても、その胸のうちは
"俺は付添人以上になれないのかよ"と余計に切なくなるばかり。
傍にいる彼女までの距離は果てしなく遠い・・・。
彼を応援する仲間達の勧めで探偵を雇ってコリンのボロを探すも、
公爵の家柄とわかり、運動センスも抜群で太刀打ちできない。
すっかり意気消沈してしまうが、「行って来い、腰抜け!」という
親父の激励で式の行われるスコットランドへ旅立ち、そこで遂に・・・。
ちなみに、この親父を演じるのは昨年逝去したシドニー・ポラックで、
生前の最後の映画出演となります。
人物描写の掘下げは甘いところはありますが、
付き合いが長いが中々気持ちに気づかない「恋人たちの予感」、
燃える思いを抑えきれずに土壇場の起死回生に出る「卒業」等の
要素を含みながら軽快で温まる大人の笑いと、
ギリギリまで行動できない男の切なさとほろ苦さに、
深く深く共感してしまう作品です。
ところでもう一つ、面白い恋愛映画になる要素として、
男と女の二人だけではなく、その二人を取り巻く
友人関係を上手く描くという点があげられます。
「近距離恋愛」もトムを応援する男友達らの友情が心地よい。
あれこれ世話焼いて手伝ってくれた親友も遂に、
「『好きだ!結婚しよう!』そう言えば良いだけだ!」とぶち切れ(笑)。
まあ、そうなのだ。そうは言っても・・・が現実なのだ。
他作品では「ノッティングヒルの恋人」等が幸せになる好例。
友人達のせいで不幸になる映画は「ベリー・バッド・ウェディング」等。
「相手がどんな人間か、本当に良い人間かを見極めるには、
その相手本人よりも、相手と特に親しい友人達を見よ。」
特にこの映画の様に30歳前後だと友人関係も固まってくる頃。
本人の友人のタイプを見れば、本人がどんな人生を送ってきたか、
どんな哲学や趣味思考やクセを持っているのかが、
類は友を呼ぶ理論で、自ずと浮き彫りになってきます。
恋人の前では飾っていても、友人の前では素になる・・・てな具合に。
自分も相手の友人達に好感を持て、良き友人達に祝福される。
それがすなわち皆から信頼されている良き相手。
ラブストーリー映画も色々考えさせてくれます。
10年前は"好き"か"嫌い"だけのツマラン分野だと思いましたけどね、
そう思ってたのはロクな恋していなかったってことかな。
さあ、あしたはどっちだ。
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