みんなの心も"はちみつ色" ~リリィ、はちみつ色の秘密 ― 2009年05月16日 23時10分47秒

スー・モンク・キッド原作「リリィ、はちみつ色の夏」の映画化
「リリィ、はちみつ色の秘密」についてのこと。
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時は1964年のサウスカロライナ州。
白人の黒人差別が今よりも強く、
キング牧師らの活動により公民権法が制定された時代。
(なお、マルコムX暗殺の前年でもあります。)
リリィは4歳の時、母を失った。
幼い頃にリリィを置いて家を出て行った母は、
家に戻ってきた時に父と言い争いになり、
止めようとしたリリィは誤って母を死なせてしまった。
10年の月日が流れてもリリィは深く沈み、
父は荒れることが多くなっていた。
ある日、リリィの家で働く黒人家政婦のロザリンが
街で白人に暴行を受け、警察に連行され入院してしまう。
父が彼女を助けなかったことからリリィは父と衝突し、
母は彼女を捨てたことを告げられる。
それがきっかけで、リリィはロザリンと共に家出をし、
母の遺品から見つけたティブロンという街を目指す。
ティブロンでリリィとロザリンは、
養蜂場で蜂蜜作りを営む黒人三姉妹と出会い、
住み込みで仕事を手伝うようになる。
知的で大らかな長女のオーガスト、
進歩的な思想を持つ音楽教師の次女ジューン、
繊細な心を持つ料理担当の三女メイ、
三者三様で個性的な彼女達との生活は運命を変えるものだった。
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14歳のリリィを演じるのはダコタ・ファニング。
「アイ・アム・サム」の天才子役、
などという説明も不要の実力派の超有名子役。
そうか、もう彼女も14歳か。という感慨に耽ってしまう。
トム・クルーズと共演した「宇宙戦争」では煩いと
言われてしまったからかは知りませんけれども、
トムやロバート・デ・ニーロやデンゼル・ワシントン達の
共演作と比べれば今回は地味ですがしみじみ心に染入る佳作です。
オーガスト演じるクイーン・ラティファは
ウーピー・ゴールドバーグより大らかで毒が柔らかく
「バグダッド・カフェ」のマリアンネ・ゼーゲブレヒト
のような安心感が画面に映るだけで漂ってきます。
ジューン演じるシンガーのアリシア・キーズは、
初めて見た「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」での
ワイルドな殺し屋役とは打って変った好感触な役。
ちなみに、三女のメイ演じるソフィー・オコネドーは、
アリシアよりも10歳年上だといいます。
ロザリンは「ドリーム・ガールズ」にてビヨンセを抑えて
堂々オスカー獲得のジェニファー・ハドソン。
助演陣が皆、親しみもてる人物を演じ良い味を出しています。
皆さんの家では"はちみつ"と言えばどんなイメージでしょうか。
私の家ではちみつと言えば、瓶に入っているタイプで、
主にパンに塗って食べるけれども、大抵は最後まで食べきらずに、
気がつくと結晶化してしまい、湯煎などでじっくり温めて戻す、
を繰り返すものというイメージです。
"はちみつ"は甘く、瓶を日に翳せばキラキラ輝く綺麗なもの。
しかし、糖分が結晶になるか液体になるかの境界線にあるため、
温度が低くなると結晶化し、そうなると溶かすのに時間がかかる、
デリケートな扱いを必要とするもの。
14歳の少女の心は"はちみつ"のように繊細なもの。
10年の冷たい月日で結晶の様に頑なになったリリィの心を、
穏やかな日々と包容力を豊かなオーガスト三姉妹達の心が、
じっくりと少しづつ"はちみつ色"を輝かせていきます。
14歳のリリィはまだ、人間の心が変わっていくことを
頭で理解しながらも心で受け入れることができない。
心優しい人間がふとしたことで暴力的になることも、
自分を捨てた母が実は自分を愛していたことも。
良い人は良い人のまま、酷い人なら酷い人のまま
という思考でしか考えが及ばない。
彼女にはまだ14年の月日しかないから
長い時間をかけての変化が想像し難いのでしょう。
しかし及ばないながらも、何となくも気づき始めている。
おそらくオーガストもそんな経験を重ねてきた中での、
包容力と知性を身に付けたであろうことが伺えます。
何しろ、彼女等は白人社会を傍で見つめてきたのですから。
そんな逡巡と自問自答と回想を繰り返す少女の姿に、
ビクトル・エリセの「エル・スール」の
主人公・エストレニャを重ね合わせてしまいます。
(静流河深3月5日の記事)
エル・スールはもっと隔離的かつ幻想的ですが、
過ちなのか正しいのか、白黒はっきりしない物事を
大人と子供の思考の狭間で考える少女
であることは共通すると思います。
エストレニャは一人で思考を深めていきますが、
リリィには母の様に姉の様に、父の様に兄の様に、
悩みに耳を傾け、成長に頷いてくれる、
暖かく見守ってくれる人たちがいます。
知らず知らずに間にそれはリリィの大きな力と自信になり、
彼女自身の視野も、他者への理解と共感力も高めていく。
自分ひとりだけではなく、誰もが皆、傷つき悩み、
心で涙を流して、時には憤激を起こして自分を悪戯に傷つける。
誰かが自分を理解してくれること、自分が人を理解すること、
それに気づいたとき、彼女の世界は全て前に進み出す。
"はちみつ"の様にやや甘い物語ではあるものの、
リリィと仲良くなる黒人少年のザックが、
作家になりたいと想うリリィに向けて、
「僕はキング牧師の言う様な弁護士を目指す。
そして、君の本のサイン会で会おう。」と力強く語る、
(夢のために道が別れても、必ず再会しようという心意気が良い)
彼女達の成長した未来を見たいと想う。
「リリィ、はちみつ色の秘密」についてのこと。
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時は1964年のサウスカロライナ州。
白人の黒人差別が今よりも強く、
キング牧師らの活動により公民権法が制定された時代。
(なお、マルコムX暗殺の前年でもあります。)
リリィは4歳の時、母を失った。
幼い頃にリリィを置いて家を出て行った母は、
家に戻ってきた時に父と言い争いになり、
止めようとしたリリィは誤って母を死なせてしまった。
10年の月日が流れてもリリィは深く沈み、
父は荒れることが多くなっていた。
ある日、リリィの家で働く黒人家政婦のロザリンが
街で白人に暴行を受け、警察に連行され入院してしまう。
父が彼女を助けなかったことからリリィは父と衝突し、
母は彼女を捨てたことを告げられる。
それがきっかけで、リリィはロザリンと共に家出をし、
母の遺品から見つけたティブロンという街を目指す。
ティブロンでリリィとロザリンは、
養蜂場で蜂蜜作りを営む黒人三姉妹と出会い、
住み込みで仕事を手伝うようになる。
知的で大らかな長女のオーガスト、
進歩的な思想を持つ音楽教師の次女ジューン、
繊細な心を持つ料理担当の三女メイ、
三者三様で個性的な彼女達との生活は運命を変えるものだった。
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14歳のリリィを演じるのはダコタ・ファニング。
「アイ・アム・サム」の天才子役、
などという説明も不要の実力派の超有名子役。
そうか、もう彼女も14歳か。という感慨に耽ってしまう。
トム・クルーズと共演した「宇宙戦争」では煩いと
言われてしまったからかは知りませんけれども、
トムやロバート・デ・ニーロやデンゼル・ワシントン達の
共演作と比べれば今回は地味ですがしみじみ心に染入る佳作です。
オーガスト演じるクイーン・ラティファは
ウーピー・ゴールドバーグより大らかで毒が柔らかく
「バグダッド・カフェ」のマリアンネ・ゼーゲブレヒト
のような安心感が画面に映るだけで漂ってきます。
ジューン演じるシンガーのアリシア・キーズは、
初めて見た「スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい」での
ワイルドな殺し屋役とは打って変った好感触な役。
ちなみに、三女のメイ演じるソフィー・オコネドーは、
アリシアよりも10歳年上だといいます。
ロザリンは「ドリーム・ガールズ」にてビヨンセを抑えて
堂々オスカー獲得のジェニファー・ハドソン。
助演陣が皆、親しみもてる人物を演じ良い味を出しています。
皆さんの家では"はちみつ"と言えばどんなイメージでしょうか。
私の家ではちみつと言えば、瓶に入っているタイプで、
主にパンに塗って食べるけれども、大抵は最後まで食べきらずに、
気がつくと結晶化してしまい、湯煎などでじっくり温めて戻す、
を繰り返すものというイメージです。
"はちみつ"は甘く、瓶を日に翳せばキラキラ輝く綺麗なもの。
しかし、糖分が結晶になるか液体になるかの境界線にあるため、
温度が低くなると結晶化し、そうなると溶かすのに時間がかかる、
デリケートな扱いを必要とするもの。
14歳の少女の心は"はちみつ"のように繊細なもの。
10年の冷たい月日で結晶の様に頑なになったリリィの心を、
穏やかな日々と包容力を豊かなオーガスト三姉妹達の心が、
じっくりと少しづつ"はちみつ色"を輝かせていきます。
14歳のリリィはまだ、人間の心が変わっていくことを
頭で理解しながらも心で受け入れることができない。
心優しい人間がふとしたことで暴力的になることも、
自分を捨てた母が実は自分を愛していたことも。
良い人は良い人のまま、酷い人なら酷い人のまま
という思考でしか考えが及ばない。
彼女にはまだ14年の月日しかないから
長い時間をかけての変化が想像し難いのでしょう。
しかし及ばないながらも、何となくも気づき始めている。
おそらくオーガストもそんな経験を重ねてきた中での、
包容力と知性を身に付けたであろうことが伺えます。
何しろ、彼女等は白人社会を傍で見つめてきたのですから。
そんな逡巡と自問自答と回想を繰り返す少女の姿に、
ビクトル・エリセの「エル・スール」の
主人公・エストレニャを重ね合わせてしまいます。
(静流河深3月5日の記事)
エル・スールはもっと隔離的かつ幻想的ですが、
過ちなのか正しいのか、白黒はっきりしない物事を
大人と子供の思考の狭間で考える少女
であることは共通すると思います。
エストレニャは一人で思考を深めていきますが、
リリィには母の様に姉の様に、父の様に兄の様に、
悩みに耳を傾け、成長に頷いてくれる、
暖かく見守ってくれる人たちがいます。
知らず知らずに間にそれはリリィの大きな力と自信になり、
彼女自身の視野も、他者への理解と共感力も高めていく。
自分ひとりだけではなく、誰もが皆、傷つき悩み、
心で涙を流して、時には憤激を起こして自分を悪戯に傷つける。
誰かが自分を理解してくれること、自分が人を理解すること、
それに気づいたとき、彼女の世界は全て前に進み出す。
"はちみつ"の様にやや甘い物語ではあるものの、
リリィと仲良くなる黒人少年のザックが、
作家になりたいと想うリリィに向けて、
「僕はキング牧師の言う様な弁護士を目指す。
そして、君の本のサイン会で会おう。」と力強く語る、
(夢のために道が別れても、必ず再会しようという心意気が良い)
彼女達の成長した未来を見たいと想う。
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