その手を握って ~ミルク2009年04月30日 23時38分00秒

アメリカで、ゲイであることを公表して
選挙で議員となったハーヴィー・ミルクを描く映画
ミルク」についてのこと。

監督は「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」
「パラノイドパーク」「エレファント」等の
ガス・ヴァン・サント監督。
主演でミルクを演じるのはショーン・ペン
この映画で今回のアカデミー主演男優賞を受賞。
作品は脚本賞を受賞しました。


この映画では1970年、ミルクが40歳の誕生日を迎えた日から
コミニティを形成、サンフランシスコ市議員に当選し、
同性愛者権利を守り向上させるために活動し、
1978年に暗殺されるまでを追っています。
この映画では特に教職からの同性愛者排除という、
"提案6号"と戦います。


私が長年愛聴している歌に、
「強い奴ほど笑顔はやさしい だって強さは愛だもの」
という、いつも心に響く、人生観に影響する様な歌詞があります。


この映画でショーン・ペンは演じるミルクは、
写真の通り、まさに優しい微笑を絶やさず、
(ガス・ヴァン・サント流の穏やかなトーンは
ショーン・ペンの微笑みと一体になっています。)
そして共同体を形成しているとは言え、
全体からすればまだまだマイノリティであった
同性愛者の権利を守るために代表となって戦います。


しかし、人間の感情は喜怒哀楽の4種類には簡単には分けられず、
いつも微笑んではいても、内面はそうとは限りません。
ミルクの微笑みも、温和で優しい顔に沈み込んだ、
寂しさ悲しさと挫けそうになる心と未来への希望が葛藤となり、
周囲のために表に感情的に爆発させることはないけれども、
時折、ふっと目を細めるような影を匂わせています。

今とは違い、同性愛者に対する差別があからさまであり、
差別を公式に認める条例の提案がまかり通る時代。
家族にも友人にも公表できる人は少なく、
彼ら彼女らも表に本当の感情を表さず、
内面の葛藤に悩んでいるからこそ、
ミルクが自分達の本当の希望となることを感じたのではないでしょうか。
それは、同性愛者の地位向上という理念の支持以前に、
人間としての心と心で通じ合う想いがさせたのだと思います。


また、この映画で描かれるミルクは、
同性愛差別者との討論では頭の回転も速く、
なおかつ嫌味ではなくユーモアセンスにも長けた好人物です。
そして、選挙活動で負けた際にも敗北として折れず、
暴動により世間の注目を集めることも手段であると、
常に希望を持ち次のステップを目指すタフさを兼ね備えています。
そしてまた同時に、活動に勤しむあまりに、
恋人を自殺させてしまい自責の念に駆られる繊細な面も持ちます。
(恋人を演じるのはペンの監督作「イン・トゥ・ザ・ワイルド」で
主演した繊細な佇まいが魅力のエミール・ハーシュ。)


その全てを呑み込んで強さと優しさに変え、
差別から隠れて内面に籠って生きようとする人々へ、
ミルクは他者のために立ち上がります。
群衆の前で度々「僕は君たちを勧誘する!」と叫びます。
(余談ですが、この「Recruit」の「勧誘」という訳は、
「僕と共に行こう!」などと、もう少し意訳の余地があると思います。)
そして、周囲にもカミングアウトを促して、
太陽の下へ連れて行こうとしていきます。

1978年、ミルクは凶弾に倒れます。
この年に私はこの世に生まれています。
そこから30年。
まだまだ悲観はありますが、
この映画が作られるような希望もまたある。


穏やかに微笑んでいるようでいても、
人は一人悩み、心の中に嵐を巻き起こしていきます。
しかし、そんな時「さあ!一緒に行こう」と言うかの様に、
信頼の微笑みと希望の手を差し出す人が傍にいるはず。
恐れずにその手を取り、心と心を通じ合わせれば、
波はやがて大波となってあなたに変化をもたらすはずだから。



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_ soramove - 2009年05月13日 20時02分14秒

「ミルク」★★★★
ショーン・ペン 出演
ガス・ヴァン・サント 監督、2008年、128分、アメリカ




「ゲイであることを公言して
サンフランシスコの公職に就いた
実在の政治家の生涯を描き、
この映画でショーン・ペンは二度目の
オスカーを獲得した」


監督はドキュメンタリータッチの映画で
実験的な取り組みをしてきたことを
この映画で事実と演出の微妙な境目を
映画で表現したかったようだ。
その試みは成功している、
ただしショーン・ペンの演技は時に過剰で
所々に「アイアム・サム」がダブった。

「40歳になろうとしてるのに
自分はまだ何も成していない」

「じゃあ、自分らしく行動したらいい」

人に助言する時、出来たら当たりさわりない、
その人の言ってもらいたがっているであろうことを
真綿で包むように言うのが常だ、
そうすれば自分に後々
「こんなはずじゃなかった」という
火の粉が飛び掛るのを防げるからね。


でも本当に相手のことを思うなら
耳に痛いことも言うべきなのだろう、
でもそれはお互いの間柄にもよるけれど。


70年代から80年代にかけて
アメリカは人種差別問題から
マイノリティの人権という反キリスト教的な
新しい問題を抱え込んだ、
そんな時に自ら声を上げたひとりの政治家は
実は最初は自分自身がこんな大きな渦の
渦中の中心人物になろうとは
夢にも思わなかった、
そして冒頭の彼の言葉、
「自分はまだ何も成していない」

そう思いながらも
同じ毎日を繰り返すのが殆どだろう、
そこで足を踏み出すことは
すごく大きな決断だ、
それは自分達に等しく言えることだ。

「何かしたい」
「このままでいいのか」

誰に言うともなく独り言のように
自分の言葉が中を舞う、
でもそこに明確な解決策や
まっすぐな道は現れない、
何故なら新たな一歩を踏み出す気さえ
ないのだから。

映画の主人公は他人から色々言われながらも
自分の道を貫いた、
自分の性的なことだけじゃなく
生き方と置き換えたら、
なかなかそう簡単にはいかないと
言い訳しながらほとんどの人は
現状維持をよしとするのだ。

それが良いとか悪いとかは
誰も答えない...
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