VFXは魂を宿す2008年08月03日 22時25分31秒

さる8月1日は映画の日。そして休日でした。
ならばいざ行かん、シネコンへ。
最近はガソリン価格も高騰。
郊外にあることが多くなった映画館は客寄せに厳しくなり、
そして我々は通うのに神経質になり。
故に観られる時に一度に観る。

そんなわけでいつもならば公開日から直ぐには観ない作品ばかり。
「インクレディブル・ハルク」「ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発」
「パプニング」を連続鑑賞してきました。



「インクレディブル・ハルク」はアメコミヒーロー物を
私にしては珍しく公開初日の初回上映に鑑賞。
なんといっても贔屓のエドワード・ノートン主演だもの。

そう、エドワード・ノートンなのです。
最初にキャストを聞いたときは何故、ノートン?
と首をかしげたものです。
実力はもちろん折り紙つき、
でも全くそんな映画に出るキャラクターではないのですけどもと。

ちなみに、最近エドワード・ノートンを「あの人は今」
みたいに書いていた映画ライター(と名乗る方)がいましたが、
その記事の中で触れていたのは
「ファイトクラブ」や「レッドドラゴン」等大作・娯楽映画ばかり。
そりゃそんなところばかり観ていたらノートンの真価には気づかないよ。
スパイク・リーと組んだ素晴らしき「25時」を観たのか!
クリエイティブな欲求とストイックな仕事姿勢で
監督・制作を模索する彼の「出演以外」の活動を知らぬのか。
近作の「幻影師アイゼンハイム」は最高のノートンでした。
消えたなどとは言わせないぞ。

ノートンを起用した今回の「インクレディブル・ハルク」、
ちなみに5年前に「ハルク」はエリック・バナ主演で、
後に「ブロークバック・マウンテン」を撮るアン・リーが監督。
しかし、これは鬱屈とした心理描写と暗いトーンの映像等が
ファンの支持を得られず(興行は悪くない)
マーヴェルすら失敗作と認定してしまった残念な作品。
(私が贔屓のジェニファー・コネリーがヒロインだったのに)

このため、今回のハルクは続編ではなく、
仕切りなおしの新訳版ということらしい。
なお、今回の監督、ルイ・レテリエは「トランスポーター1、2」
「ダニー・ザ・ドック」を過去に監督したフランス出身監督。
「ジャンヌ・ダルク」にも関わっているとなると、
これはもうリュック・ベッソンの血脈に属するといっていい方。
でも、今作にはベッソン色は感じられませんでした。

そんな新生ハルクは前作を吹き飛ばすようなアクション満載、
かつ、ノートンならではの哀愁を帯びた演技で、
究極の戦士を生み出す軍のプロジェクトにより、
怪物ハルクに変身する身体になったヒーローに厚みを持たせます。

そこには日本のヒーロー、とりわけ人造人間系ヒーロー達
そのほとんどが背負う宿命、普通の身体ではないために
愛する人と結ばれることもできず、傷つけまいとして距離を置き、
また他者であれ自分自身であれ、自分の身体を変えた者達への
憎しみと哀しみが混ざり合った想いを感じることができます。

それは、こちらもベテラン、ティム・ロスが演じる、
ハルクを超えるために第2のハルクと化すブロンスキーに
戦いを挑むハルク、その一騎打ちで頂点に達します。
特殊効果で描かれるとは言え、ハルクの武器は肉体。
戦いの基本、最後に熱く燃えるのは格闘戦。
ブロンスキーを変えたことは自分に責任があるという贖罪と
自分の持つ忌わしき力を振るうべき刻の決着。
ハルクの怒号、振るう豪腕にはまぎれもない
愛と怒りと哀しみが込められておりこの瞬間で
こちらも感極まって涙を流してしまいました。

それもノートンの演技力があってこそ、
VFXに魂が宿ったのだと思います。
変身後は声もノートンではなくなるけれども、
(ハルクの声はルー・フェリグノ、TV版でハルクを演じた方)
ブルース・バナー=ハルクと一体になっていました。


日本においては「ダークナイト/バットマン」「アイアンマン」に先駆けて
公開されたアメコミ映画ですが、文句なしです。
原作のファンからはまたいろいろ話があるでしょうが、
ノートン応援団の私は大満足でした。

さて、興行成績の方も前回と比較すれば良好のようで続編は、
という話になりますが、これがどうも微妙な雲行き。
いや、続編は作られると思いますがノートンが続投かは微妙。
というのも今回の脚本をノートンが大幅に書き換えを行ったことで、
全米脚本家協会ともめ、結局クレジットはされず、
これの影響でノートンは映画のプロモーション活動には協力を拒む等、
関係各所とノートンの仲は良いとは言いがたいよう。
かといって、続編でノートンを外した場合、
カラーが激変する可能性は高いので本当に続投を望むばかり。


ちなみに全然別の話になりますが
最近同様に驚いたキャスティングは
「ターミネーター4」でジョン・コナー役となった、クリスチャン・ベイル。
新人ばかり来ていたのに急にベテランになってしまって。
もちろんおかげで俄然期待の作品となります。
ちなみにこちらの監督は「チャーリーズ・エンジェル」のマックG。
「3」で生き残ったヒロインにはブライス・ダラス・ハワード
(「ダヴィンチ・コード」の監督ロン・ハワードの娘)。
脚本に「父親たちの星条旗」のポール・ハギスが参加する等、
この作品もいろいろ予想外の顔ぶれが揃います。

昭和の魂、ここに復活2008年08月04日 23時49分42秒

「ギララの逆襲/洞爺湖サミット危機一発」。
現在仙台で鑑賞できる中では異色作品に入ります。
なんといっても監督は河崎実。
「日本以外全部沈没」「いかレスラー」「コアラ課長」「ヅラ刑事」
数々の珍映画を生み出した著しく個性的すぎる監督。
それだけに期待は十分。もちろん変な方向で。

なお、「ギララ」というのは1960年代の怪獣特撮ブーム期に、
東宝がゴジラ、大映がガメラなど次々に生産する中、
松竹が唯一製作した怪獣映画「宇宙大怪獣ギララ」であります。
それをどうやったかしらぬが、河崎実が復活させることとなった。
とはいえ、オリジナルを知らぬとも十分に楽しめます。
私も旧作は観たことがありません。


<物語>
2008年、洞爺湖サミットが開催され、G8首脳が一同に介した。
環境問題について話し合われるはずであったが、
突如、札幌に隕石が落下、そこから大怪獣ギララが現れた!
G8首脳が各国の威信をかけて発案した作戦は悉く失敗し、
ギララによる地球滅亡の危機は刻一刻と迫る。
当初、サミットの取材に来ていたスポーツ紙記者のすみれと
カメラマンの三平は洞爺湖の畔で神社の前で
奇妙な踊りを踊る村人の一団と遭遇する。
彼らは土地の守り神「タケ魔神」を信仰し祈りを捧げていた。
そして古来から伝わる古文書には
ギララ襲来する時、タケ魔神が降臨し世を救うと予言されていた!
そして地球のピンチにすみれの叫びが木魂するとき、
神社に祭られた像が巨大化し、タケ魔神が現れた!!


以上が大体の話の筋であり、とんでもない話であるものの、
昭和の特撮への偏愛に満ちた素晴らしい作品です。
(こんなに河崎実を誉めたことはありません)

様々な分野に存在するマニアの中でも、
「クソ」という言葉を憎悪を込めて発する者と、
逆にカワイイ奴と言う様な愛情を込める者に
分かれることがありますが、河崎監督は間違いなく後者。
単にオマージュ&パロディで終わらず、
オリジナルの問題点すらも肯定した表現を見せている。
このために時には元ネタを凌駕するパワーが出ることも。
それは作品の劣化や酷い目にあった思い出さえも愛着として肯定する
タランティーノの嗜好にも似ていると思います。(言いすぎ)

そして今作は過去の特撮への偏愛にさらに
かつて成立したパロディをまたパロディしたと感じる二重構造を造り、
そこに自身のギャグをも見せる三位一体構成(誇張)。

タイトルからして「逆襲」です。
「逆襲」と付けずして2作目以降を名乗るなかれ。
なお、「危機一発」は水野晴郎の有名エピソードより。

主人公が新聞記者、という設定もゴジラシリーズの数本や、
「ウルトラQ」等の昭和特撮の基本中の基本。
数々立案される作戦も「機動警察パトレイバー/4億5千万年の罠」でも
有名なパロディとなっている怪獣作品の定番。
そして希望の使者の復活に欠かせないのは
少年の一途な思いと女の子の涙(加藤夏樹が熱演!)

音楽も素晴らしく昭和特撮調。
公式サイトで一部が聴けるので、是非聴いて欲しいです。
このテーマ曲に乗せてスタッフ&キャストクレジットが流れる
オープニングは笑いと涙で霞んで見える(また誇張)。
そしてキャストには黒部進を初め、特撮の御大が並ぶ!

そしてパロディのパロディとはタケ魔神にほかならぬ。
タケ魔神とはあの世界のキタノ、もといビートたけしが演じる、
不動明王をモチーフにした黄金に輝く鎧に身を包む魔神。
「てめえ、このやろ!」「やりやがったな!」と叫ぶヒーロー、
そしてラストショットは輝く夕日に「ナハ!ナハ!ナハ!」と木魂する。
もはや「オレ達ひょうきん族」のタケちゃんマンの復活であります。

また、ベタベタなギャグも忘れていません。
最初こそ、美しい洞爺湖の自然を写し、「違う!河崎実じゃない」
などと思ったところ、加速度的に悪ノリを開始。
G8に参加した伊部総理、大泉元総理をそれぞれ
ニュースペーパーの福本ヒデが安倍晋三のマネ、
松下アキラが小泉純一郎で演じる様は、
作品設定と河崎演出との相乗効果でコントを越える。
(何故、福田康夫ではなかったかはタイミングの問題か?)
そして「日本以外全部沈没」でも突然の笑いをもたらした、
ジーコ内山の北の独裁者の登場!


そうだよこうだったよな、というノスタルジイを十分に満喫。
バカバカしいのだけれど、最近の綺麗になった特撮が失った、
カメオ出演している、みうらじゅんが言うところの
手作り感がいまここに蘇ったといえるのではないか?
そしてこの面白さはカメオ出演にして最後の出演となった水野晴郎の、
「本当にいいものですね」に混沌をもひっくるめた、
私たちが作品に持った方が何かと楽しい愛情ではないでしょうか。

なお、パンフレットは昔のレコードジャケットを意識した造り。
中にはギララ大図解もあり、このつくりがまた楽しい!
というように小ネタ満載の本作。
ネタが小粒でも怪獣や未知への憧れの愛情が補完する、
そんな少年の日々を思い起こさせた稀少な作品でありました(誇張)。
これこそ私たちの昭和の魂。三丁目の夕日など問題ではない。
「僕たちの好きなウルトラセブン」から引用するならば
昭和は宇宙人と怪獣の時代でもあったのだ。


ところで、河崎実が「南郷勇一」名義で主演した自身の監督作、
珍妙なヒーロー作品「電エース」のDVDが最近になって
TUTAYAレンタルされているので是非鑑賞をお勧め致します。
これを観れば河崎実のトリコです。


それでは「ネチコマ!」(タケ魔神の決めポーズ。ネタは勿論アレ)

映画史に刻もう(裏でも)2008年08月11日 01時04分54秒

いよいよ8月11日を持って、三十路になろうとしています。
早いものよね。遠い未来のことだと思っていたのに。
でも、数日前から開き直るようになってきました。
あと行動パターンが、やりたいことから直ぐにやり始める傾向に。
そうやって段々心境が変化していくのよね。
あと5年後はどうなるのか。
とりあえず一人身は卒業したいものね。


さて本日はDVDの話。
先月だか先々月だか一度お勧めのDVDとして話題にした
「ウィッカーマン(1973年版)」が発売となり、手元に届きました。

物語を乱暴にまとめてしまうと、
敬虔なキリスト教徒の警部が少女の行方不明事件の捜査のために
ケルト族の信仰が根付くスコットランドの孤島へやってきて、
キリスト教とは全く違う価値観の住民達に惑わされ、
やっと行方不明の少女を救出するが、実は一連の事件は
警部を自分らの信仰の生贄にするための罠だった、
という筋であります。

ウィッカーマンとはその生贄を供えて火で燃やす巨大な人形で、
パッケージに現れている人形がそれです。

話の筋もさることながら、本作の魅力は
全体から受ける異質な印象に他なりません。
秋から冬に撮影されたこともあってか寂しさ溢れる島の寒村、
ミュージカルとも言えるゆったりと奇妙な村人の描写と
のどかな中で生理的な不安を呼び起す音楽。そしてエロティック。

因習、狂気、等のキーワードから似たものを探そうとするも、
横溝&市川崑の金田一作品のような華麗さではなく、
スティーブン・キングの描く狂気のような鋭さでもなく、
やはり本作で味わえる感覚は本作でしか味わえないと思います。
是非鑑賞していただきたい。購入する価値は十分にあり。

なお、ニコラス・ケイジ主演でリメイクはされていますが、
あれでガックリした人も是非鑑賞していただきたい。


映画には作品の内容以外にそれに纏わる話も手伝って
作品の魅力を増幅させている、いわば伝説を持っているものがあり、
このウィッカーマンもそれに該当すると言えます。

とにかく今回のDVD化は映画史に刻めと言っても良い朗報。
何しろこの作品、鑑賞すること自体が非常に困難だったのです。
それも1973年の完成当初から。

貴重な日本公開当時のパンフレットを元に追うと、

- イギリスで監督のロビン・ハーディーの下で制作が開始、
当初の製作会社が編集作業中にEMIに買収され責任者が変わり、
最初の完成形となる102分版が完成(以後、完全版と呼ばれる)。
その後、アメリカ・カナダでの配給権を交渉された
大御所ロジャー・コーマンの助言(スタッフによると不本意のようだ)
により、さらに短くした88分版が完成。これが最初の劇場公開版。

102分版は日の目を見ないかと思われたものの、
当時の配給元ワーナーの宣伝ミス等で88分版が興行的失敗。
すると、監督のハーディーが巻き返しを図るために、
1974年頃、配給権がニューオリンズの小さな会社に移ると
102分の完全版が存在すると伝える。
しかし、既に102分版は行方不明となっており大捜索が始まり、
その果てにコーマンのニューワールド・ピクチャーにて発見。
ここに102分版ディレクターズカットが完成する。

一方、長らくイギリス本土ではビデオもTV放映も88分版だったが、
1988年、アメリカで102分版の存在を確認、これをTV放映する。
しかし、アメリカのコピーは経緯は不明だが95分しかなかったため、
BBCは88分版に、95分版にしか無かったシーンを挿入する。
だが今度は編集のミスか、完成が92分となってしまったという。-


この88分、92分、95分、102分というバージョン違いの数と、
宗教的事情から物議を醸しだすに十分な内容、
またスプラッタ映画が人気を博し始めた当時の流行などから、
ホラー映画(一応は)、ウィッカーマンに対する評価は割れて混乱し、
いつしか廃盤ビデオがほぼ唯一の鑑賞手段と
いっていいものになったと言います。

精神的な恐怖、民族・宗教裏付けが一般にも評価される現在なら、
30数年前よりももう少し広く受け入れられるかもしれません。

日本で劇場未公開作品として発売されたビデオは
資料で確認する限り最短の81分版(廃盤)。
1998年になり88分版がやっと日本の劇場で公開。
その後、2003年に特別完全版と銘打った99分版が発売(即完売)。

私は2002年の暮れ頃に劇場の特別上映会で88分版を観ました。

なお、文献によっては88分版が87分版となっていたり、
EMI編集による102分版が99分版となる等、記録上も混乱しています。
さらに、102分版は当初の20分をカットしているとのことで、
スタッフが望んだ122分が正真正銘の完全版かもしれません。

ただ、私は残念ながら未見ですが
102分版や99分版よりも、88分版の方が面白いという意見が多いです。
そして今回のDVDはその88分版です。
完全版が初回公開版より面白いとは限らないものですが、
102分版では警部と村人双方の信仰が長く描かれているとのことで、
バックボーン資料として鑑賞しておきたいものです。
(パンフ等の資料から2006年のニコラス・ケイジ版リメイクは
102分版をベースにしている様です。)

今回も完全版ではありませんでしたが、
88分版は原点であり、上記の様な数奇な運命を辿りながらも
あったら見ておけという幻の作品として語り継がれ、
クリストファー・リーをして自身の最高の役柄と言わしめた、
これが1800円という安価なDVDで手に入ると言うのは
それだけで事件と言っていいものだと思うのです。

どこを切ってもミステリアス満載であるものの、ウィッカーマンを
ホラーとジャンル分けするのはやや苦しい。
かといってミステリー・サスペンスとも言い切れません。
ダニー・ボイル監督の「28日後・・・」を
ホラーと言い切れないのにも似ています。
(ちなみにダニー・ボイルの「シャロウ・グレイブ」に
ウィッカーマンのラストシーンが挿入されています。)


この作品の魅力は語っても語りつくせないし、
文章で表現しようとしてももどかしいばかりです。
とにかく観て欲しい。それが全てです。
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