全ては30秒の奇跡のために ~スラムドッグ$ミリオネア ― 2009年04月29日 23時19分17秒

今回のアカデミー賞作品賞・監督賞他で8部門獲得した
ダニー・ボイル監督作
「スラムドッグ$ミリオネア」についてのこと。
<物語>
警察で尋問されている青年・ジャマール。
彼は数時間前までTV番組「クイズ・ミリオネア」に出演。
スラム育ちで教育も受けておらずコールセンター勤務の彼は、
なんと2000万ルピーがかかった最終問題へ勝ち進んだ。
そして運命の最終問題の直前で放送が終了、
次回へ持ち越されたとき、彼は警察に捕まった。
彼の育ちからしてそんな成績を残せるわけがないと、
不正を働いた容疑での尋問だった。
しかし、彼は一つ一つ語り始める。
問題の正解は歩んだ人生の中にしっかりと刻まれていたことを。
何かのテストの時、問題集で勉強したことよりも、
自分の経験から「そういえばあの時・・・」と
偶然にも答えが導き出せたことはなかろうか。
あるいは、若い頃の遊びに過ぎなかったことが、
幸いにも仕事で役に立った経験は。
大抵、人生に1~2回あれば良いぐらいのことですが、
この物語は自分の歩んだ人生の全てが、
二晩のうちに大きな意味を持ち始めた壮大な物語。
オープニングで観客に問われる4択問題。
彼は何故、最終問題まで正解できたか。
正解は当然、「運命だったから」。
さらに一言付け加えれば、その運命とは
超高額賞金を獲得する運命ではありません。
全ては、運命の女性と歩む人生を掴むため。
ジャマールは幼い頃に宗教間の暴動によって親を失い、
兄とともに宿無しの生活を始めることになる。
そして幼い子を集めるギャングに拾われるものの、
彼らの行く末は犯罪者になるか売られる等の運命。
ある日、ジャマールは兄とともに脱出を図り逃亡するが
やがて兄の裏切りに遭い、彼とも訣別する。
その人生の中でもう一人大きな存在が、ラティカという少女。
彼女はギャング団からの脱走中に連れ戻され、
機会を窺って救出するものの、兄との訣別のとき、
彼女は兄に連れ去られてしまう。
そして現在、彼女は兄が所属しているギャングの
ボスに囲われて手を出せない状態にあった。
ジャマールがミリオネアに出場した理由、それは
彼女がこの番組を見ていたからで、出演によって
希望を与えようとしたからに他ならない。
金よりも名誉よりも大きな使命があったのです。
その一途な想いと、クイズの正解と人生の一致を語る回想が
ミリオネア独特の緊張感と重なり興奮を高めていく。
ところで、ミリオネアが映画の中で使われた好例に、
近年のパトリス・ルコント監督の引退作と言われる傑作
フランス映画「ぼくの大切なともだち」があります。
クイズマニアの青年(ダニー・ブーン)と
中年の美術商(ダニエル・オートゥイユ)が、"友達の作り方"をめぐり、
やがて本当の友達関係へと到達する物語ですが、
後半、二人が喧嘩別れして自分を見つめ直すとき、
青年がミリオネアに出演、最終問題まで勝ち進みます。
そして、最後のライフラインとして残したテレフォンで
ダニーがダニエルに謝罪と涙の電話をかけ、
互いを赦し絆で結ばれる、涙無くして語れないお話。
そして「スラムドッグ$ミリオネア」においても、
運命の瞬間に重要な意味を持つのが
テレフォンであることに注目したいです。
全く問題の答えが分からないジャマールは、
最後に残されたテレフォンを使用、かけた相手は兄の携帯電話。
コールが鳴り続け、制限時間が刻一刻と迫る。
時間ギリギリで遂に出た相手はなんとラティカだった!
そのとき彼女は、贖罪に目覚めた兄によって逃がされ、
ジャマールの出演を街頭のTVで見ていた。
そして、兄は彼女に自分の携帯電話を持たせていたのです。
これぞ、運命の糸が全て交わった瞬間。
ラティカに希望を与えるために出演した番組で、
一縷の望みを託した電話が彼女と直接繋がった奇跡。
一度も二度も二人は引き裂かれましたが、
互いを掴もうと伸ばした手と手が、今しっかりと握られたのです。
物語がそこで終了しても良いことは、
電話にラティカが出た時のジャマールの顔でわかります。
彼女の無事な声が聞けた、たった30秒の会話ですが、
しかし、それはこれまでの彼の人生で最も幸福な瞬間。
その30秒の奇跡のために、これまでの人生が
最終問題まで勝ち進めさせたと言っても良いはず。
それゆえ、大団円のラストはダニー・ボイルが、
あるいは、英国からインドに贈ったささやかなお礼と
敬意の気持ちの表明なのかもしれません。
だからダニー・ボイルの作品中、最も後味の良いラストです。
ラストシーンでラティカと駅で再会したジャマールは、
最初に唇ではなく、彼女の頬に付けられた、
過去の脱走の罰としてナイフで切られた傷跡にキスします。
"口づけで傷跡を消せる"、そんな歌詞が私の好きな歌にあります。
ここ最近の映画のティーンのキスで最も美しく優しさに溢れている。
「ぼくの大切なともだち」でも
「スラムドッグ$ミリオネア」でも、金は問題ではない。
うっすらと背景に浮ぶ、スラムを潰し高度化に揺れるインド。
ギャングに反旗を翻す兄と共に宙に舞う札束の無常さ。
最後の最後で大事なのは、相手を想う人間と人間の強い絆であると、
この映画はそっと指し示しているのかもしれません。
ダニー・ボイル監督作
「スラムドッグ$ミリオネア」についてのこと。
<物語>
警察で尋問されている青年・ジャマール。
彼は数時間前までTV番組「クイズ・ミリオネア」に出演。
スラム育ちで教育も受けておらずコールセンター勤務の彼は、
なんと2000万ルピーがかかった最終問題へ勝ち進んだ。
そして運命の最終問題の直前で放送が終了、
次回へ持ち越されたとき、彼は警察に捕まった。
彼の育ちからしてそんな成績を残せるわけがないと、
不正を働いた容疑での尋問だった。
しかし、彼は一つ一つ語り始める。
問題の正解は歩んだ人生の中にしっかりと刻まれていたことを。
何かのテストの時、問題集で勉強したことよりも、
自分の経験から「そういえばあの時・・・」と
偶然にも答えが導き出せたことはなかろうか。
あるいは、若い頃の遊びに過ぎなかったことが、
幸いにも仕事で役に立った経験は。
大抵、人生に1~2回あれば良いぐらいのことですが、
この物語は自分の歩んだ人生の全てが、
二晩のうちに大きな意味を持ち始めた壮大な物語。
オープニングで観客に問われる4択問題。
彼は何故、最終問題まで正解できたか。
正解は当然、「運命だったから」。
さらに一言付け加えれば、その運命とは
超高額賞金を獲得する運命ではありません。
全ては、運命の女性と歩む人生を掴むため。
ジャマールは幼い頃に宗教間の暴動によって親を失い、
兄とともに宿無しの生活を始めることになる。
そして幼い子を集めるギャングに拾われるものの、
彼らの行く末は犯罪者になるか売られる等の運命。
ある日、ジャマールは兄とともに脱出を図り逃亡するが
やがて兄の裏切りに遭い、彼とも訣別する。
その人生の中でもう一人大きな存在が、ラティカという少女。
彼女はギャング団からの脱走中に連れ戻され、
機会を窺って救出するものの、兄との訣別のとき、
彼女は兄に連れ去られてしまう。
そして現在、彼女は兄が所属しているギャングの
ボスに囲われて手を出せない状態にあった。
ジャマールがミリオネアに出場した理由、それは
彼女がこの番組を見ていたからで、出演によって
希望を与えようとしたからに他ならない。
金よりも名誉よりも大きな使命があったのです。
その一途な想いと、クイズの正解と人生の一致を語る回想が
ミリオネア独特の緊張感と重なり興奮を高めていく。
ところで、ミリオネアが映画の中で使われた好例に、
近年のパトリス・ルコント監督の引退作と言われる傑作
フランス映画「ぼくの大切なともだち」があります。
クイズマニアの青年(ダニー・ブーン)と
中年の美術商(ダニエル・オートゥイユ)が、"友達の作り方"をめぐり、
やがて本当の友達関係へと到達する物語ですが、
後半、二人が喧嘩別れして自分を見つめ直すとき、
青年がミリオネアに出演、最終問題まで勝ち進みます。
そして、最後のライフラインとして残したテレフォンで
ダニーがダニエルに謝罪と涙の電話をかけ、
互いを赦し絆で結ばれる、涙無くして語れないお話。
そして「スラムドッグ$ミリオネア」においても、
運命の瞬間に重要な意味を持つのが
テレフォンであることに注目したいです。
全く問題の答えが分からないジャマールは、
最後に残されたテレフォンを使用、かけた相手は兄の携帯電話。
コールが鳴り続け、制限時間が刻一刻と迫る。
時間ギリギリで遂に出た相手はなんとラティカだった!
そのとき彼女は、贖罪に目覚めた兄によって逃がされ、
ジャマールの出演を街頭のTVで見ていた。
そして、兄は彼女に自分の携帯電話を持たせていたのです。
これぞ、運命の糸が全て交わった瞬間。
ラティカに希望を与えるために出演した番組で、
一縷の望みを託した電話が彼女と直接繋がった奇跡。
一度も二度も二人は引き裂かれましたが、
互いを掴もうと伸ばした手と手が、今しっかりと握られたのです。
物語がそこで終了しても良いことは、
電話にラティカが出た時のジャマールの顔でわかります。
彼女の無事な声が聞けた、たった30秒の会話ですが、
しかし、それはこれまでの彼の人生で最も幸福な瞬間。
その30秒の奇跡のために、これまでの人生が
最終問題まで勝ち進めさせたと言っても良いはず。
それゆえ、大団円のラストはダニー・ボイルが、
あるいは、英国からインドに贈ったささやかなお礼と
敬意の気持ちの表明なのかもしれません。
だからダニー・ボイルの作品中、最も後味の良いラストです。
ラストシーンでラティカと駅で再会したジャマールは、
最初に唇ではなく、彼女の頬に付けられた、
過去の脱走の罰としてナイフで切られた傷跡にキスします。
"口づけで傷跡を消せる"、そんな歌詞が私の好きな歌にあります。
ここ最近の映画のティーンのキスで最も美しく優しさに溢れている。
「ぼくの大切なともだち」でも
「スラムドッグ$ミリオネア」でも、金は問題ではない。
うっすらと背景に浮ぶ、スラムを潰し高度化に揺れるインド。
ギャングに反旗を翻す兄と共に宙に舞う札束の無常さ。
最後の最後で大事なのは、相手を想う人間と人間の強い絆であると、
この映画はそっと指し示しているのかもしれません。
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