愛も哀しみの中で ~金城哲夫氏のこと2010年09月16日 23時07分41秒

手元のフォーラム仙台の「大雷蔵祭」の
市川雷蔵(八代目)の享年37歳の記述を読み、
金城哲夫も37歳で逝去したのだったと想った次第。


別に二人にそれ以外の共通点はありませんが、
雷蔵の死んだ1969年に金城哲夫が円谷プロを退社して沖縄に帰っています。

記録から感じるのは、雷蔵は輝かしい中で去って行ったという印象ですが、
金城哲夫に関して考えると哀しみに包まれ胸が痛く苦しくなります。

昨日、NHKの歴史秘話ヒストリアで取り上げられた金城哲夫は、
「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」のメインシナリオライターで、
今日のこれらの作品の高い評価の礎を築き上げた人。
もちろん、これ以外にも脚本を書いていますがその中でも群を抜いて有名です。

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ウルトラセブン Vol.11 [DVD]
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娯楽作品の中に社会的哲学的問いかけを潜ませるその手腕は見事で、
私も「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」を何度も見てますが、
大人になってから意味が分かる、大人の鑑賞にも耐え得ると言えます。
反面、その手法はやはり視聴率に影響していき、作品の質は上げたものの、
会社の経営的には好ましくない状況を生み出していった様です。


金城哲夫のアイデンティには沖縄に生まれたことと
当時の沖縄の状況が影響していることは数多く考察されています。
僕が金城哲夫と沖縄の関係を知ることになったのは、
1993年にNHKで放送されたドラマ「私が愛したウルトラセブン」。
アンヌ隊員役ひし美ゆり子を主人公に(演じるのは当時は日本にいた田村英理子)、
製作現場のドラマを描いたこの作品で沖縄からの憤怒を現し葛藤する青年、
当時は"冬彦さん"だった佐野史郎が演じたこの金城哲夫は今でも頭に残っています。

NHKドラマ 私が愛したウルトラセブン(DVD2枚組)
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"大和人(やまとんちゅう)"と言う言葉を知ったのもこのドラマでした。
沖縄の人々がそんな複雑な思いを抱いていたのも、当時中学生だった僕は初めて知った。
そこから沖縄に対する微妙な想いが僕の中に根付いたといっても良いです。

占領下にあった沖縄の想いを訴えることを熱い情熱を持って10代で本土に渡り、
ウルトラシリーズという舞台で輝きながらもその舞台が重荷になるその矛盾。
当初は忍ばせたセンスがはっきりと表面化するとき、様々な乖離が始まると思います。
情熱と責任感を抱いた青年が本土を去るときの胸中はいか様なものだったでしょうか。


昨日のNHKではその後の、沖縄海洋博の演出を担当したことに触れていました。
この海洋博で彼は一方では評価されるとともに一方では酷く打ちのめされます。
沖縄が注目を浴びてその発展のために協力した金城哲夫は、
結局は本土が潤うだけで沖縄の経済を苦しめ自然を汚染した結果で罵声を浴びます。
金城哲夫にとっても再起をかけたであろうときのこのショックは計り知れません。


円谷時代も海洋博の場合もそうですが、
大事な点は「人のためを想ってやったこと」です。


誰も好き好んで人を苦しめようとして苦しめていません。
悲しんでいる苦しんでいる人達を助けたい一心で日々努力を続け、
くじけそうな時にも歯を食いしばって乗り越える。
それは、自分の守るべき人助けるべき人幸せにするべき人がいるからでしょう。

しかし、人間とは皮肉なもので、良かれと思ってやることが却って、
助けたい人を傷つけることになってしまい、通じ合うこともできなくなってしまう。
それは、本当に、深く、暗く、悲しい。絶えようもなく。
自分が幸せにしたい人達とは反せば自分の信念を支えてくれる人達。
その人達の信用を失うことは、自分自身が崩壊していくことに変わりありません。

結果、金城哲夫は酒に呑まれ、37歳で自宅前の階段で転落死してしまう。
もしそれを弱いなどと言ったら許すことはできない。


人は人との係わり合いの中で徐々に変化していきます。
暗い人間が明るい人間へと変わることもあれば、その逆も起りえます。
金城哲夫は、人間によって変えられてしまったのだと思います。
それは、私たちが大切な人を手放してしまったということではないでしょうか。


これまで、期待していた人が期待はずれでその人を見切った、という人はいるでしょう。
しかし、注意してください。それは、あなたがその人を変えたのかもしれません。
あなたは見切ったつもりでも、逆に見限られたのかもしれません。
その人は悪意を持ってやっていたのでしょうか。何のためだったのでしょうか。

人を追い込み、本来の明るさを奪う様なことだけは決してしたくありません。
したくはないのです。そうなのですが。



メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。
人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。
でもご安心ください。このお話は遠い遠い未来の物語だからです。
え?なぜですって?
我々人類は今、宇宙人に利用されるほどお互いを信頼してはいませんから

ウルトラセブン第8話:「狙われた街」のラストシーンのナレーションより
脚本・金城哲夫
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