「ぼくを葬る」 ~ 幕の引き方2006年06月18日 21時48分13秒

昨日に引きつづいてまた死についての映画でございます。

「スイミング・プール」などを手がけたフランスの期待の若手監督
フランソワ・オゾン最新作「ぼくを葬る」です。
ちなみに、葬るの読み方は「おくる」です。

ファッション業界の期待の若手カメラマンであるロマンは、
31歳にして末期ガンで余命3ヶ月と告げられた。
彼は病魔と戦うことは望まず、死にまかせることを選択する。
姉や両親には隠し、同性愛者である彼は恋人の男性と別れるが、
ただ一人だけ、理解者である祖母には真実を告げる。
そして彼は死と静かに向き合っていく。


若くして不治の病を宣告される映画は珍しいものではありません。
ささやかな、あるいは燃え上がるような恋をする主人公や、
家族や友人達のために最後の贈り物を残していく主人公など、
様々な形の残り僅かな余生の選択がありました。

本作の主人公のロマンは若いというのに静かに死を待ち、
恋人や家族との繋がりをも精算するように絶っていき、
内向的に自分の人生を思い起こし一人静かな死を選びます。

しかし、絶望の淵に落ちて堕落的に逃避する様子はなく、
祖母に打ち明けてからは真っ直ぐな眼差しで死を見つめます。
だからこそ一度は拒絶した、子供が出来ない夫婦への協力や
恋人と再会をしてきちんとした別れを告げる気にもなったのでしょう。

もう一つ、カメラのシャッターを切るシーンがよく出てきます。
宣告前はそこに芸術性があったのか職業意識だけかは分かりません。
ですが余命を知ったことで何か変化はあったのでしょう。

彼がなんのためにシャッターを切るのかは定かではありません。
自分の最後のアルバムを作っているわけではないようです。
おそらくは姉の微笑みや恋人の寝顔という一瞬を記憶に焼き付けたい、
その衝動が、ロマンにはシャッターを切るという形に
なって現れたのではないかと思います。

実際にはドラマのように最後に一花というわけにはいかない。
ただ、それでも笑顔を美しいと感じたり、赤ん坊を愛しむことはできる。
いつもの日常が少しだけ素敵なものに見えてくれば、
という現実的なメッセージではないでしょうか。

ラストの海に沈む夕陽が命の炎に見えるのは
少々クサイ気もしますが美しい映像です。
浜辺で自分を葬ったロマンは海へと還るのでしょうか。
土に還る人、海へ還る人。やはり最後は自然に還りたいです。
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