「ハーバード白熱教室」 ~ 心の炎にくべるもの2011年02月26日 23時43分11秒

いきなり2ヶ月ぐらい遡って、2010年年末~2011年年始の話をしますが、
今回は、例年以上に深夜帯の地上波テレビで観たい映画がありませんでした。

まあ、つまらないというわけではなく、自分がほとんど見たものばかり、
ということなんですが、学生の頃に比べて本数も減り無難なものが多くなった気が。
加えて、「LOST」などの海外ドラマ短期集中放送もなかったので、
久し振りに映画休み、というより録り溜め休みでした。


ただ、NHKで「ハーバード白熱教室」の連続放送をやっていたので、
これを全録画して集中観賞しました。全12回の放送。

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この番組を始めて観たのは2010年の春ごろでしたか。
夜中にテレビをつけたら(本放送は夕方なのでたぶん再放送)何やら、
学生達が熱の籠もった話をしているので思わず引き込まれてしまった。

その後も何かとNHKにチャンネルを合わせるとこれが放送していたので、
断片的に「何やら見たことのない光景」だということはわかりました。


これは、ハーバード大学の屈指の人気講義で1000人を超す受講者が詰め掛ける授業。
それは、マイケル・サンデル教授の「政治哲学」の講義で、
「Justice(正義)」について学生達と議論しながら考えていくというもの。


ビル・ゲイツやマイケル・ジョーダンの資産の話や、実際の裁判事例を取上げ、
ときにはユーモアを交えた例え話で、正義や善悪、道徳に対する考え方を、
身近なところに引き下げて進めていくやり方でかなり噛み砕いてくれます。

ベンサムなど僕も学生の頃に聞いたけれども当時は他の学者や思想家と、
キーワードの区別をするだけでも手一杯になっていたことが、
ああ、そういうことを言っていたのかと何年ぶりかにスッキリもしました。

とはいえ、ハーバードの教授と学生の議論に入っていくには
こちらもそんな学はありゃしませんのでちゃんと聞いていても、
「これで分かったと思う」と言われて「いや、まだです」と言うレベル。


ただ、中身を飲み込むには時間はかかるけれども、
この授業が人気の理由と言うのは、もちろん講義内容の質が高い点も、
あげられると思いますが、その他にも実にシンプルな理由もあると思うのです。

約50分の放送を12回も観ているとだんだんクセも見えてくるのですが、
サンデル教授が学生に質問をした後、ほぼ必ず「君の名前は?」と聞く。
そして名前を大体覚えていて、次回の講義でも「前回も発言してくれたね」
という様なことを言ったり名乗った学生達の名前をオウム返しに繰り返す。

「名前は?」「ジュリアン」「ジュリアン。君の意見は…と、いうことだね」
と、いう具合で学生が言いたいことを解したり纏めたりもしてくれる。
そして、あまりに違うものでない限り、真っ向から否定はしない。
「素晴らしい意見だ。だが、惜しい点を一つあげるならば、
私の努力を台無しにしてくれたことだ(笑)」という具合に
ユーモアでの切り返しも抜群であり、さりげない。


こういったことは、一見なんでもない様でありながら、
僕の大学時代にこれと同じことをした教授は、まず、いなかった。
一方的に講義をアナウンスすることがほとんどであり、
ゼミ以外での学生との対話はほとんど記憶がない。
(もっとも、学生の側も積極的発言は少なかったけれども。)

サンデル教授の授業も後半に行くとさすがに結論に近づいていくので、
学生の発言よりも教授の考えを述べる方が時間が多くなっていきますが、
それでも、大講堂の中で学生一人一人と対話し、何人もの学生の意見を、
ゆっくりと破綻の無いように同じ温度で拮抗する様に場をまわしていく、
その技術力は政治哲学や正義に対する論考以前に必要とされるもので、
議論する相手に対するスタンスと、人柄も大きく影響するはず。

サンデル教授の授業に学生が惹かれるものは、そのテーマやレベルだけではなく、
自分達の話をしっかり聞いてくれること、一人の個として認めてくれること、
相手を論法で打ち負かすのではなく同じテーブルで考えていこうという、
人格者とまでは言いませんが、噛み砕くとそうなるでしょう。


誰かが言っていましたが、「相手の話をちゃんと聞くことが一番大事」と。
聞いてくれているという実感がなければ、発言者も白熱することができない。
自分だけ白熱していてもそれは周囲も自分もすぐに冷めてしまう。
自分と相手が同じ温度に到達してこそ、白熱するというもの。
そこに至るまでには、少なくとも、相手に半歩でも寄ることでしょう。

この講義は、正義や哲学に関心のない人でも、上記の様な観点から、
かなり勉強になるものではないかと思います。
会社や学校を問わず、日々の議論の進行などに徒労を感じている方などは、
サンデル教授のやり方を注意深く見てみてはいかがでしょうか。

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